第9話 ホーリー・モノポリー
思っていたより短くなってしまいました。ごめんなさい
逃してしまったキュピルがある無人島にいることをGPSで見つけ出し、再び捕まえようとその無人島がある海域まで来たが、その目的の無人島の近くには馬鹿でかい戦艦がいやがった。
海軍の奴らに見つかってしまってはいくら俺の兄弟達とはいえ全員が無事に帰って来れる可能性は低い。
捕まってしまうと女共の残酷で卑劣な手によって身も心も穢されてしまうと聞く。
そんな奴らに兄貴から預かった大切な兄弟達をみすみす渡すわけにはいかねぇ。クライアントには膨大な違約金を払い、ホーリー・モノポリーの名に傷をつけてしまうが兄弟達の命に変わりはない。兄貴には盛大に叱られるだろうな、気が重いぜ。
クライアントに連絡して依頼の破棄を申し出て事情を説明した。するとクライアント曰く、あの戦艦はどうやら海軍の物ではないらしい、しかもクライアントはその戦艦も欲しがりやがった。金は弾むとは言っているが無茶言うなよこんなステルス艦一隻で出来るわけねえだろ!
兄貴にも相談したら別の仕事をしていた全兄弟達をこちらに向かわせてくれるらしい。その数9隻。俺達が乗る艦を入れれば十隻にもなるこれならあの馬鹿でかい戦艦もどうにかなるだろう。
最後に兄貴は「挽回してみせろ」と言ってきた。ここでキュピルを逃したことをチャラにしてしかも馬鹿でかい戦艦を手に入れた功績で兄貴に可愛がってもらうとしよう。
今夜は新月だ。俺はツイている。
昼は遠くから追尾し夜を待ってから気づかれないように戦艦へと近づく。海軍の奴らならとっくに気付かれている距離でも気付かれていない。確かに海軍の物では無いらしい。おまけにレーダーはお飾りの様だ。
5kmまで近づいてようやくこちらに気付いたらしい。相手がどう動くかわからないので距離を保ったまま追尾を続ける。
他の兄弟達が乗る艦の配置も完了したらしい。それまであの戦艦はこちらに何もしてこなかった。これであの戦艦は完全に海軍では無い事が証明された。本当に海軍ならこれだけ近づく前に警告の通信を入れ、従わない場合は武力行使を行ってくる。しかしあの戦艦は何もしてこない、あれはただの素人が艦を預かって操っているんだろう。
兄弟達に指示を出し戦艦を包囲させる。包囲し終わると例の戦艦に通信を入れ降伏勧告をする。俺は優しいからな出来る限り殺しはしたくない。どんな奴があの戦艦に乗っているのかその顔を拝んでやるぜ。
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通信が途中で切られ俺は体を震わせた。怒りで体を震わしているわけではない、嬉しさで体が震えていたんだ。確かに話している途中なのに通信を切るのはマナー違反だ。普通なら怒ってもいい位の事だが俺は寛大だからな、それに今は気分がいい。通信に出た奴は兄貴程じゃあねえがとても俺好みのいい男だった。本当に俺はツイているらしい。
キュピルを取り返し戦艦を奪おうとしたら最高の上玉もおまけで付いて来たのだから。
俺は下ろしたジッパーを上げ、興奮して荒れた鼻息を整え、股間が盛り上がった状態のまま先程の映像を共有していた全艦の兄弟達に命令する。
「てめぇら!さっきの映像は見たな?最高の上玉だ!必ず手に入れるぞ!」
『『『『『『『『『おう!!』』』』』』』』』
救難信号を出しているようだが無意味だ。救援に来られるほど近くを巡回している艦艇は無いことは事前にわかっている。来たとしてもそれまでには終わっているだろうしな。
最悪戦艦は無事とはいかないだろうが、あの男とキュピルを手には入れるためには必要なことだ。
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「どうなっていやがる!?」
魚雷を十本以上も食らっているのに平然と航行していやがる!
それにあの巨体での機動性と速力だ。魚雷の命中コースなのにあの機動性と速力で多くの魚雷を躱していやがる。
あんな速力、どんな物を積んでいたらあの巨体で40ktを出せるんだよ!?
だがあれを手に入れればかなりの功績になるはずだ。兄貴も喜んでくれるだろう。
こうなれば直接乗り込むしかないのかもしれん。
「おい!こうなれば直接乗り込むぞ!全艦目標に…ッ!?な、何事だ!?」
命令を出そうとしたら衝撃と警報が鳴る。あの戦艦が撃ってきたのか!?
「兄貴!!海軍だ!」
「なにぃ!?」
そんなはずはない!この近くの海域を巡回する予定は当分先のはずだ!!
「兄貴!囲まれてる!!」
「ぐぐぐ…」
こうなれば仕方ない
「全艦散開して全力で逃げろ!!女どもなんかに捕まるなよ!」
兄弟達に命令しこの艦も逃げるよう指示を出す。
くっそー、作戦は失敗だ。あの戦艦の事は兄貴に必ず報告しなければ。
「ッ!?今度はどうした!!」
「機関部に被弾!速力がどんどん落ちている!どうする!?兄貴!?」
「ちくしょう!」
どうやらここまでの様だ。あの戦艦の情報は他の兄弟が持ち帰って兄貴に報告してくれる事を祈るしかない。
俺は女どもに捕まって凌辱されるのだろう。しかしこの心だけは兄貴のもんだ。絶対に女どもになんか屈しない絶対になぁ!
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「…何とか救援が来てくれたな」
≪はい。包囲は完璧に出来ており一隻も逃すことなく撃沈もしくは拿捕しているようです。≫
「いや~、いくら装甲が大丈夫でも魚雷が当たった時の衝撃というか振動は心臓に悪いな。砲弾は…あんまし飛んでこなかったし大丈夫だったけど。あいつら厄介だったな~、でもまたここからが厄介だよな~」
≪頑張ってください。ご主人様≫
「キュイ」
全く他人事だと思って。まぁ自分しか対応できないので間違えではないか。
≪…ご主人様、再び包囲されました。≫
そりゃそうだ、襲われていたのが戦艦、しかも所属不明艦なら包囲して警戒しないわけがない。
≪通信が入っていますが、どうなさいますか?≫
「無視で」
『こちらは岩戸鎮守府所属。夜桜艦隊旗艦長門の艦長。神護優香よ。貴艦は直ちに停船し武装解除して出てきなさい』
≪今度は呼び掛けていますね。≫
「停船には従おう」
≪分かりました。機関を停止します。≫
御影は徐々に速度を落とし停船した。
『直ちに武装解除して、両手を頭の上に乗せて出てきなさい』
≪今度は出てくるように呼び掛けていますね≫
「それが問題なんだよな~」
どうするか悩んでいると
『…このまま返答無しなら部隊を突撃させるわよ』
「突撃してこれるの?」
≪無理でしょう。入口は私が管理していますし、無理やり入り口を開けようとしても例の装甲なので無理かと。≫
「だよな~」
そんな会話をしていると両舷側に艦が近づいてきて接舷し、二十人ほどの部隊が御影の甲板上に上ってきた。
≪一生懸命入り口を探していますね。≫
「自分もこんな感じで探していたんだよな~」
モニターには外の様子が映されており警戒しながら入り口を一生懸命探す――先程御影に上がってきた――女性で構成されている部隊が映されていた。
「このまま、という訳にもいかないよな」
≪出向かれるのですか?≫
「それしかないだろ?まぁ何とかなるんじゃないのか?」
席から立ち、キュピルを置いていこうとするがやはり嫌がり首を激しく横に振る。
「…一緒がいいのか?」
「キュイ」コク
キュピルに尋ねると返事をして頷いた。
「こりゃ完全に言葉を理解しているな」
≪そのようですね。…それではご主人様。お気を付けて。≫
「あぁ、行ってくる」
そう言い残して自分は艦橋を後にした。
長門艦橋
艦橋には見張り員や連絡員の他に、モニターに映る外の状況を見ている二人の女性がいた。
「神護提督、部隊は不明艦に乗船はしたみたいですが内部へと通じる場所が見つからないようです」
「無理やり入り口を作るのは?」
「それも試したみたいですが、全く傷が付かないようです」
「内部に侵入することが出来ないとなると相手が出てくるまで呼びかけるしかないわね。停船の呼びかけには従ったから、敵意は…わからないけど、意思疎通は出来るみたいよね。…それにしても大きいわね。どこの艦かしら?」
「わかりません。全く情報の無い艦です」
「どこかが秘密裏に造っていたの?」
「その可能性が高いですね。ですがそんな事をすれば条約違反ですよ?」
「そうよね~。ま、あの艦にいる人に訊けばわかるでしょう」
「そう簡単に教えてくれますかね?」
「だったら停船の呼びかけなんかに従わないし、ホーリー・モノポリーの様な海賊相手に救難信号で救助を求めたりしないんじゃない?」
「…それもそうですね。…と、動きがあったようです。入口が出現したと」
「突入は待ちなさい。出現した入り口を警戒。たぶん出てくるんだと思うけど」
「発砲許可は?」
「敵意があると判断した場合のみ許可します」
「それでは曖昧なのでは?」
「敵意は無いと思っているからね」
「いつもの直感ですか。分かりました。そのように伝えます。………出てきたようです」
「さぁ~て、どんな人が乗っているのかしら?」
出現した入り口とそれを取り囲む部隊が映っているモニターに二人は注目した。




