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呪命のシュメルツ  作者: 鳥抹茶
7/8

第7話 呪命自虐

今回は「呪命のシュメルツ」初の平和なお話。

そして何気に零人を引き取った叔母が遂に初登場!

 蒼崎鈴音の件から2ヶ月。

 あれ以来鈴音はおろか虚空階段すら現れなくなった。

 僕は弦太に何度も助けてもらっている。

 そのお陰でここ2ヶ月は特に大怪我をすることも無くそれなりに平凡に、かつ平和に暮らせていた。

 気が付けば夏休みに入っていた。


「いやー、一時期零人くん何回も入院してた時はしんどかったねぇ」

「…本当に叔母さんには迷惑ばかりかけてるよね」

「ううん、そんな事は…おばさん!?アンタおばさんですって?!アタシまだ37よ!?」

「…そっちのおばさんじゃないよ!叔母の方だよ!」

「あぁ、何だ〜びっくりさせないでよー」


 両親が亡くなった後、僕は叔母に引き取られ、叔母のいるこの町へとやってきた。

 今はこうして叔母と仲良く暮らしている。


「はぁ…アタシも子供ほしーなー」

「…いや、その前に結婚でしょ。」

「簡単に言わないでよー、結婚しようにも男がやってこないのよぉ〜」

「…じゃあ自分から押していけば良いと思うんだけど…」

「アタシの職場に押したい程の男いないのよ、子供作れれば誰だっていいなんてアタシそこまでビッチじゃないし。」

「…我儘だなぁ………」


 蒸し暑い部屋で扇風機を回し、テーブルで昼ごはんを食べながら叔母さんと話している、これが普通なのだけれど、『シュメルツ』になって以来、このような“当たり前”がとても幸せなのだな、としみじみ思うのだ。


「あー…あづい…ていうか零人くん、夏休みの宿題終わった?」

「…うん、もう終わらせたよ。」

「すごーい!まだ夏休み始まって1週間くらいでしょ?!」

「…いや、もう3週間経ってるよ。」

「あれ?そうだっけ?」


 僕の叔母さん…夜舞よまい莉奈りなは今年で37歳だが、20代後半のように見える美女で、このように天然…所謂アホだ。

 学生時代、小学の時は満点ばっかり取っていたものの、中学でヤンキーに目覚め赤点ばっかり取るように。

 高校はかなり頭の悪い高校にギリギリで入学、高校デビューでデキる女を目指した結果、何とか好成績を残したものの、普段は天然でおちゃらけているのでそのギャップのお陰か、かなりモテていたらしい。

 …叔母さんの話が本当ならの話だが。


「あ、そういえば今日友達とどっか行くって言ってなかったっけ?」

「…そう、弦太の自由研究に付き合わされるの。」

「あらら、零人くんは自由研究何にしたの?」

「…スライム。」

「あれ、零人くんって中3だよね…?受験生でスライムは…」

「…だってこれが手っ取り早いし、どういう化学反応が起きてーとか書けばあっという間だし。」

「あー…なるほどね〜…(理解してない)」


 すると家中にインターホンの音が鳴り響く。

 弦太が来た。


「…じゃ、行ってくるね!」

「行ってらっしゃーい」


 僕は玄関へと向かう。

 玄関の扉を開けるとそこには弦太が麦わら帽子を被り、虫網を持って仁王立ちしていた。


「よっ!」

「…弦太…何そのカッコ…」

「え?虫取りに行くんだよ!」

「…虫?」

「虫。」


 先程叔母さんに言われた「あれ、零人くんって中3だよね…?受験生でスライムは…」という言葉が頭をよぎった。

 叔母さんに弦太を見せたら何と言うだろうか。


「んじゃ、行くぞー!」

「…う、うん。」


 受験生にもなって自由研究でやる事が虫て…。

 スライムで済ませた僕が言うのも何だけど…というか僕のスライムよりも酷くないか彼は…。



 セミがうるさい近くの森にて。


「…そういえば何捕まえるの?」

「ヘラクレスオオカブト!」

「…ここらへんにいるわけないじゃん。」

「じゃあコーカサスオオカブト?」

「…多分いないよ。」

「えー、じゃあ…セミ?」

「…うんそこら辺にいるよ。」

「よし、ゴライアスハナムグリ捕まえっぞ!」

「…もうよくわからない…何だ、ゴライアスなんとかって…。」


 そんなこんなで数時間弦太に連れ回され、夕日で辺りがオレンジ色に染まる頃。


「…で、何捕まえられた?」

「コクワとカナブン!」

「…で、コクワとカナブンで何を研究するの?」

「え?『虫にも知能はあるのか』だよ。」

「…虫に知能なんて無いよ。」

「え、そうなのか?!」

「…虫っていうのは本能だけで動いてるから考える脳も何も無いんだよ。」

「へぇ、知らなかったなーそれは!」

「…それで、代わりに何やるの。」

「知らん!」

「…おい。」


 なんでやねん、と弦太にツッコミをかます。

 すると辺りから足音が聞こえてきた。


「誰だ?こんな時間に。」

「…いやそれ僕らにもブーメラン刺さってない?」

「というか足音が何かこっちに近づいてきてね?」

「…本当だ!どうしよう殺人鬼とかだったら!」

「そんな訳ねーだろ。」


 そして物陰から足音の正体が姿を現した。

 


「…き、君は!」

「あら、あなた達…こんな所で何してるのかしら?」


 現れたのは、虫網を持って蝶々を追いかけている着物を着た…僕に『シュメルツ』を与えたあの少女だった。


「お前こそ何でここにいるんだよ」

「え?蝶々が綺麗だったから捕まえようと…」

「いや理由が可愛いなおい。」

「で、あなた達はここで何を?」

「俺達は夏休みの宿題、自由研究を終わらせようとしてたんだ。」

「あら、そうなのね。あっ…」


 少女が追いかけていた蝶々は遠くに、そして高く飛んでいってしまった。

 少女は残念そうな顔をしている。

 何か少し申し訳ない気持ちになった。


「…何か、ごめん。」

「気にしてないわ。…全然。」


 あ、これ気にしてる奴だ。

 

「…そういえば君の名前、聞いてなかった。」

「そういえば自己紹介してなかったわね、私の名前は桜智夜さちよ。」

「…桜智夜ちゃんか。僕は零人…って、もう知ってるか。」

「そうね、私は零人も弦太も知ってるわ。それじゃ、またどこかで。」

「いや、ちょっと待て。」


 その場から去ろうとした桜智夜ちゃんを弦太が止めた。


「…弦太?」

「あら、どうかしたの?」

「お前には幾つか聞きたいことがある!」

「何かしら?」

「お前…何故零人に『シュメルツ』を受け渡した?あれはお前の為に作られた…不老不死の呪いの筈だ。そんなモノ、普通手放すわけが無い!」

「私の周りの人間を巻き込んでしまうから」

「それはヘイトとやらを溜めたらの話だろう!それに、だったら何故零人にヘイトを溜めさせてる?!」

「…え?」

「ヘイトってのはよ、『シュメルツ』を背負った者が不幸を貰い続けて、解消せずにいると溜まってくんだろ?だったら、何故零人に血を流すななんて言ったんだ!」


 弦太は、桜智夜に対しての疑問を全てぶつけた。


 何故僕に『シュメルツ』を与えたのか。

 何故僕に「血を流すな」と…ヘイトを溜めさせてるのか。

 何故弦太を助けたのか。

 あの後鈴音をどうしたのか。

 何故虚空階段が出現しなくなったのか。

 

「ふふっ………ははっ…あはははっ!」

「何笑ってんだ。」

「そこまで言われたら話さなきゃだね?」

「…何を…言ってるんだ桜智夜ちゃん…?」

「いいよ、全て話してあげる。」


 そういうと全ての疑問を解決させるべく、桜智夜は自身の過去について話し始めた。


「病気で死にかけていた私を救うべく、私の父親が『シュメルツ』という不老不死の呪いを偶然作り出したのは知っているわね?」

「…うん。」

「そして私はそれにより、不老不死となり、病気にかかる事も、老いる事も死ぬ事も無くなった。でも、父親は私に『シュメルツ』の事を詳しく教えてくれなかった。」


 桜智夜は、『シュメルツ』の不幸を貰い受けそれを『シュメルツ』を背負った者が代わりに受けるという物を知らずに生活していった結果、ヘイトを無意識に溜めてしまい、ある日それが爆発し、周りの人間を巻き込んでいった。

 そのせいで母親も妹も死に、親友も死んだ。


 その結果、桜智夜は死神扱いされ、村を追い出された。

 父親に助けを求めたが、父親は助けてくれなかった。

 だから桜智夜は村の人々を、自身にこんな呪いを植え付けた父親に復讐すると誓った。

その為にはこの呪い…『シュメルツ』を理解する必要があった。


 『シュメルツ』には、

 人々の不幸を理不尽に貰い受け、自身がその不幸を代わりに受けるというものがある事。

 だから何回も死にかけたという事を。

 そのせいで家族が、親友が死んだという事を。

 その代わりに不老不死になれるという事を。

 しかし不死身になった代わりに一生人の不幸を代わりに受け続けなければならないという事を。


 …そして、同じ血筋の人間が死んだ場合、その死んだ者に『シュメルツ』を移す事ができるという事を。


 そこで桜智夜は決めた。

 …父親を殺して『シュメルツ』を強制的に移してやろうと。


 しかし、桜智夜が『シュメルツ』を全て理解した頃にはもう既に村は無くなり、ほぼ全滅していた。

 そう、気がつけば数百年経っていたのだ。



「それで私はてっきり父親も亡くなっていたと思っていたから、ただただヘイトを溜め続けた。特に理由も無しに。そんな時、偶然の出会いがあったの。」

「…偶然の出会い?」

「そう、この時代に、父親と顔がそっくりな人が妻と子供を連れているのを発見したの。そこで私わかったの。あ、父親はあの後も子孫を残していたのかと。」

「まさか…その父親と顔がそっくりな人とその妻と子供ってのは…!」

「…僕…!?」

「その通りよ。あなたには愚神の血が流れている。だから現にこうして『シュメルツ』が零人に憑いているのよ。」


 僕が桜智夜ちゃんの父親の血が流れているということはつまり、桜智夜ちゃんの名字は…。


「…君の名前は…愚神桜智夜…?!」

「そう、私はあなたの先祖のような者なのよ?」

「『シュメルツ』の不老不死によって数百年も老いる事なく現代まで生きてやがった訳か…!」

「そう。で、ここからが私のやりたい事…目的の話。」

「…。」

「父親への復讐…それは、父親の子孫を絶えさせる事。つまり、零人、あなたと血の繋がった者全員を殺す事よ?」

「…!」

「まさかお前…零人に『シュメルツ』を与えて、ヘイトを溜めさせてたのは…!」

「そう、かつての私の時のように、溜め込みすぎたヘイトを爆発させ周りの人間を巻き込ませ死なせる為。」

「…そ…そんな…じゃあ鈴音から僕を助けたのも…!」

「彼女の行動はヘイトを解消させてしまうが故、私にとって邪魔な存在だったからよ。」

「じゃあ俺を助けたのは、零人にヘイトを溜めさせる為だったって事かよ…!」

「そう。貴方は零人がヘイトを溜めるのに最適な人間だったからよ。」

「マジかよ…」

 

 そういうと弦太はその場に崩れた。

 そして桜智夜は零人に近づいて耳元で囁いた。


「言ったでしょう?人の評価は言の葉一つで最高にも最低にもなるって。私の目的を知るまでは死にかけた自分を甦らせた良い人、でも私の目的を知ると全ては自分を陥れる為の罠を仕組んだ悪女…だもんね?」

「…………。」


 そういうと桜智夜は日本刀を取り出し、僕に刃を向けて弦太に言う。


「零人のヘイトはもう爆発寸前…零人を助けたいけど助けたらヘイトが溜まって爆発してしまう…かといって助けないと零人がまた重傷を負ってしまう…。さァ…貴方はどうする?…弦太?」

「お…俺は…俺は…!」


 弦太はどうする事もできなかった。

 僕も何も出来なかった。

 どう抗っても、桜智夜の思う壺だった。

 僕が戦うにもこちらは丸腰、向こうは日本刀、どっちが負けるかなんて見ればわかる。

 弦太は友達を傷つけたくない、だがかと言って助けると周りの人間に被害が及ぶ。

 完全に嵌められてしまったのだ。僕たちは。 


 でも、一つだけ、この状況を打開する方法があった。

 弦太も嫌だろうし、もちろん僕も嫌だが、この方法であれば…。


 僕は向けられた刃を握りしめた。

 刃を握る手からはもちろん血が出てくる。


「零人、貴方何をっ…!!」

「…僕達は“血を流さなければいけない存在”なんでしょ?!それって、血を流せば不幸を解消出来るって事でしょ…でもヘイトを溜めさせたいから桜智夜は僕に『血を流すな』と言った。…だったら!」


 そういうと僕は刃を強く握りしめ、そのまま日本刀を自身の身体に突き刺した。


「…うぁぁぁぁぁぁあ!!!!!痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い!!!!!!」

「なんて奴…私の目的を邪魔する為にわざと血を流すなんて…!」


 痛い。すごく痛い。

 刺し口からは血が出るし、口からも血を吐いた。

 今にも死んでしまいそうだ。

 でも、今の僕は『シュメルツ』。

 だからどれだけ痛いものでも、どれだけ辛いものでも、絶対に死なない。

 だったら、このまま大量に血を流してヘイトを解消させる!


「零人!!」


 正気を取り戻した弦太が自身の血で血塗れになった僕に駆け寄る。


「…また…病院にお世話になっちゃうね…ああ…また叔母さんに迷惑かけちゃうな…。」

「零人…お前よくやったよ…!お前凄えよ本当…!」

「ああ…私がせっかく溜めたヘイトをよくも…!」

「爆発寸前だったヘイトもこれでかなり解消されたんじゃないか?お前が思ってる程、零人は弱くねえんだよ!」

「チッ…」


 桜智夜は舌打ちをした後、その場から去った。

 僕はそこで意識を失った。


「ありがとうな、零人。」


 弦太の感謝の言葉は、今の僕には聞こえていなかった。

 

 僕は、いつの日か痛みに対して何も感じなくなってしまうのだろうか?

 それとも鈴音のように、痛みを快楽として感じるようになってしまうのだろうか?


 ふと、そんな事が頭をよぎった。

平和な話?

そんなもの嘘に決まっとるやろがい!

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