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呪命のシュメルツ  作者: 鳥抹茶
5/8

第5話 鈴音回想

今回は「呪命のシュメルツ」感ゼロの鈴音の過去話。

鈴音はどうして虚空階段の番人、地縛霊となったのか。

どうして不老不死シュメルツにこだわるのか。

それが今回、判明する…!

 …さぁ、僕を殺した“アイツら”に復讐をしよう。

 死という最高に気持ちいい事を教えてくれた事への感謝の気持ちを込めて…ね?


ー数年前ー


 何も面白くない毎日だった。

 何の刺激もなく、特にいじめられているわけでもない。

 本当に…つまらない日々だった。

 まるで、そう。生きている心地がしなかったのだ。


「あぁ…つまらない…。」


 僕は学校で窓の外を眺めながらそう呟いた。

 そう、ただつまらないだけ、だった。


 …あの時までは。



「あ、あのっ!私と付き合って下さい!」

「え?」


 ある日、放課後に学校の裏に呼び出された。

 下駄箱に入っていた手紙に来て欲しいと書かれていたのだ。

 まさか僕を好く男子がいるとは、と思っていたが、裏で待っていたのは別クラスの女子生徒だった。


「あ、あの…僕女なんだけど?」

「えっ?あっ、そうだったんですかっ!?」

「まぁ確かに見た目は男だし間違われても何とも思わないんだけど…」

「ご、ごめんなさいっ!てっきり男子かと…!」


 女子生徒は頭を何度も下げる。


「だ、大丈夫だって。誤解させてしまった僕も悪いし」

「い、いえそんな事無いですっ!」


 まぁそんなこんなで何故か女子生徒が僕に奢る事になり、近くの喫茶店に行く事になった。


「私抹茶ラテください」

「僕ノーマルコーヒー。」

「え、ノーマルコーヒーで良いんですか?」

「まぁね、コーヒー好きだし。」


 本音を言うとそんなにコーヒーは好きではない。

 メニューの中で一番安かったからコーヒーを選んだのだ。

 別に彼女は何も悪くないのにこれは何故か彼女の奢りなのだ、大金を使わせる訳にはいかない。


「どうしてそ、そのぉ…」

「鈴音で良いよ」

「す、鈴音さんはどうしてそんなに…その…男っぽいんですか?あ、言いたくないなら言わなくても結構ですよ!?」

「別に、ただ自分の性が気に入らないだけだよ。」

「それって…男の人になりたかったって事ですか…?」

「まぁ男の子として生まれたかったってのが一番だね。」

「へ、へぇ…そうなんですね…」

「まぁそれはあくまで後付けで…」

「じゃあ…男の人として…私とお付き合いしてくれませんか…?」


 彼女は僕の耳元でそう囁いた。


「え?」

「あ、いや、これは……そのぉ…」


 彼女は顔を赤らめた。

 どうやら彼女は本気で僕の事が好きらしい。

 僕が女と知ってもなお。


「付き合っても良いよ、でもアニメみたいな華やかな恋愛は出来ないよ?」

「え、ほ、本当ですかっ!?」

「う、うん」

「ありがとうございます!私、一ノ瀬叶芽いちのせかなめって言います!」

「うん、これからよろしく、叶芽ちゃん。」

「は、はい!」


 この時、ようやくこのつまらない日々が終わりを告げた瞬間だった。


 …良い意味でも、悪い意味でも。



 叶芽と交際してから、数日が経った。

 僕達は誰にも気付かれる事無く過ごしていた。


 しかしある日。


「なぁ鈴音」

「ん?何だ?」


 急に仲良くもない男子から声をかけられた。


「お前って別クラスの叶芽ちゃんとよく一緒にいるよな」

「うん、最近仲良くなってさ」

「じゃあさ、叶芽ちゃんて、どんな奴がタイプかわかるか?」


 …あぁ、なるほど。

 こいつは叶芽の事が好きなのか。

 とはいえ、僕と付き合っているだなんて言える筈もなく。


「好きな人はいるって聞いたけど、誰なのかは僕もわからないなぁ」

「うわぁマジかぁ、好きな人いるのかぁ…」


 男子生徒はその場に崩れる。


「もしかしたら君の事が好きなのかもね?」

「そんな訳ないだろ、俺別クラスで話した事も無いんだぞ?!」

「ま、まぁそう…だね…」


 僕も…そんな別クラスで話した事も無いのにその叶芽ちゃんに告白された女です、女です。


「まぁ何か分かったら教えてくれよな!俺、一真かずまっていうからさ!」


 そういうと一真は去っていった。


「恋って…残酷だなぁ。」


 一真が好きな叶芽ちゃんは、僕の彼女なのだ。

 彼の恋は実らないと分かっているからこそ、余計残酷だ。

 しかも彼はそれを知らない。

 すると。


「あんた、一真と何話してたの」

「君は?」

「アタシ、一真の幼馴染の紅稜子くれないりょうこ。で、一真と何話してたのよ」

「え?ただ恋愛相談を受けてただけだよ。」

「れ、恋愛相談?!アイツが?!誰が好きなの、アイツ!」

「さ、流石に言えないよ、そこまで行くとプライバシーの侵害だ。」 


 しかし紅稜子はそんな事お構いなしに僕にずいずい迫ってくる。


「私と一真の関係ならプライバシーもクソも無いわよ!」

「関係無いよそんな事!…て言うか、僕に聞くより本人から直接聞いた方が早いんじゃないかな?君と一真の関係なら…ね?」


 僕はそう言うと紅稜子は僕を睨んだあと、一真の後を追いかけていった。

 今の感じを見ると、おそらく紅稜子は一真の事が好きで、その一真は叶芽ちゃんが好き、でもその叶芽ちゃんは僕と交際関係… 。


「かなり面倒な事になりそうだな…これは。」


 少し嫌な予感がしていたが、前のつまらない日々に比べれば、その嫌な予感すらも少し楽しく思えた。



「あ、鈴音ー!」

「叶芽ちゃんごめん、遅くなった。」


 叶芽ちゃんはいつも校門前で待っていてくれていた。

 今日は雪が降っていた、そんな中でも待っていてくれたのだ。

 …寒かっただろうに。


「全然!夫の帰りを待つのも妻の役目だからね!」

「夫って…叶芽ちゃん、気が早すぎるよ…」

「ははは、それじゃいこっか!」


 2人で歩き出す。

 ある程度学校から離れた公園に着くと、叶芽ちゃんは僕の腕を抱きしめる。


「叶芽ちゃんっ…生徒に見られたらどうするの…」

「ここら辺は人いないから…ね?」

「まぁ…そうだけど…ッ?!」


 突然僕はキスをされた。

 それと同時に叶芽ちゃんに抱きしめられた。

 随分長い間唇を合わせていた。


「き、急になんだい叶芽ちゃんっ!」

「へへへ…これで一歩踏み出せたね…?」

「もうー!叶芽ちゃんー!!」

「あはは!」


 僕達は雪が降り積もる公園で追いかけっこする。

 多分…この時が一番幸せだったと思う。

 でもこの幸せは、一瞬にして砕かれるのであった。


「おい、鈴音…どう言う事だよ!?」

「か、一真っ!?どうしてここに…!」

「そんな事はどうでも良い!お前、今のなんだよ、何でお前女なのに叶芽ちゃんとキスしてたんだよ!これじゃまるで…彼氏彼女じゃねえかよ!」

「そ、それは…」


 バレてしまったか。

 というより何故彼がここにいるんだ?

 まさか、校門から付いて来ていたのか……?!


「お前、そうやって俺の心を弄んでたのかよ!?」

「違う!あれは、君を傷つけまいと…!」

「黙れ!でもこうやって結果的に傷つけてんじゃねえか!」

「ち、違うよ!鈴音は、君のことを思って…!」

「うるさい!叶芽ちゃんもまさかこんな女がタイプだったとはな!」

「おい!叶芽ちゃんにキレるのは違うだろう!それはもうただの八つ当たりじゃないか!」

「黙れぇ!!元はと言えば鈴音…全部お前のせいじゃねぇかよ!!」


 そういうと一真は鞄からナイフを取り出して僕に向かって来た。


「鈴音危ない!」


 叶芽ちゃんは僕を突き飛ばした。

 そして、勢いのついた一真は止まらず、そのまま叶芽ちゃんにぶつかった。


「ぁ…ぁあ…」

「あ…俺…やっちまった…」

「叶芽ちゃん!!」


 叶芽ちゃんの腹部にナイフが刺さり、刺し傷から大量の血が出ていた。

 手が血塗れになった一真は叶芽ちゃんからナイフを抜く。

 僕は叶芽ちゃんに駆け寄る。


「叶芽ちゃん!!大丈夫?!しっかりして!!」

「…………。」

「ねえ…叶…芽…ちゃん…?ねえってば!」

「………………。」

「…全部…お前が悪いんだ…何もかも…!」


 後ろから一真の声が聞こえてくる。

 どうやらこの状況になってしまったのは僕のせいらしい。


「何で…何でナイフなんて物騒なもの持ってるんだよ!」

「あァ…あぁうるさいうるさいうるさいうるさいうるさいうるさいうるさぁぁぁぁい!!!!!」

「そのせいで…叶芽ちゃんが…!」

「全部…お前が悪いんだよぉおおおお!!!!!」


 そういうと一真は叶芽ちゃんの血で汚れたナイフをもって僕に襲いかかって来た。

 僕はナイフを持っている手を掴み、何とか殺されないよう抵抗する。


「君は…これ以上罪を重ねる気かっ!!!!!!」

「うるせぇええ!!!」


 僕は力に負け、肩にナイフを刺される。

 そしてすぐに抜かれ、その傷口から血が溢れ出てくる。


「痛っ…!!でもっ…!!」


 叶芽ちゃんの痛みに比べれば僕の傷など辛くなかった。

 むしろ何故か力が湧いて来たのだ。

 僕は抵抗した。



「…あ。」

「…!」


 ああ…僕もやってしまった。

 どうやら抵抗しているときに彼の胸をナイフで刺してしまったようだ。

 一真はその場に倒れた。


「こ…これで僕も君と…同類になって…しまった…な………」


 僕はそこで意識が途絶えた。

 このまま出血多量で死ぬのだろうか?

 仮にこのまま死んでも天国には、行けないだろうな。



 目が覚めると、そこは病室だった。

 どうやら助かったようだ。


 その後、警察による事情聴取を受け、僕以外はみんな死んだ事を知らされた。


 退院後、僕は裁判にかけられたが、下手すれば殺されていた可能性があるという事で正当防衛になり、無罪となった。


 …しかし、いくら正当防衛だったとはいえ、人を殺めてしまった事に変わりはなかった。

 だから当然学校に戻っても…。


「うわぁ…アイツ例の人殺しだろ…?」

「いくら正当防衛でも結局は人殺してるわけだしねぇ…」

「本当は正当防衛じゃなくて計画的犯罪なんじゃねえのか…?」


 …と言った評価を周りの人間に浴びせられた。

 しかし、一番黙っていなかったのは、紅稜子だった。

 いつも階段に呼び出されては首を絞められ殺されかけるのだ。

 でも何故だろう。

 首を絞められる度に何故か体が興奮するのだ。

 一真に肩を刺された時も、力が湧いてきたのではなく、単に体が興奮していたのだ。

 僕は…あの日から狂ってしまったのだろうか?


「あんたのせいで一真はっ!!」

「あははァ…あはははははははは!!!!!!もっと…もっと強く首を絞めてよォ…もっと!もっとぉ!!」

「アンタ…本当に頭おかしいんじゃないのっ!!だから一真も殺したんじゃないの!?」

「あはっ…だってさぁ…僕に殺される事に対して興奮する事に気付かせてくれた人だよォ…?そりゃ当然お礼として同じ快感を味わわせたいよねぇェ…?!?!」

「やっぱり最初から殺す気で…!」

「だから違うって言ってるじゃん。あれは事故。紛れもなく事故。でもさぁ…」

「こらぁ!!何やっているんだ稜子っ!!」

「チッ…」


 まぁいつも殺されるギリギリの所で先生に見つかり助かるのだが。 

 その殺されるか、殺されないかのスリルも今の僕にとっては快感であり興奮材料なのだがァ…。


 そんな生活が続き、そろそろ春を迎える頃。

 いつものように下校しようとして、1階へと降りる時だった。


「そんなに死にたいなら死んじゃえば良いんだよっ!アンタなんか…アンタなんかっ!!!!」


 紅稜子の声が聞こえたその瞬間、気がつくと僕は空中にいた。


 あぁ、突き落とされたのか、僕は。

 それって…つまり…


「僕はァ…!!!死んじゃうのかなぁ?!?!死ぬ程の痛みって…最っ高に」


 その後、僕は階段から落ちた。

 何度も何度も段差に全身をぶつけ、それが終わり1階に辿り着く頃にはもうすでに僕は死んでいた。


 噂によると、僕の死体は血塗れだったが、最高に笑っていたらしい。


 まぁ笑うだろうねぇ?

 だって死んじゃうレベルの痛みを体感出来たのだから!!


 …でも、これからは死んじゃうレベルの痛みを体感しても死なない、不老不死の力を手に入れたから!!!!!!


 …でも、ただ死んじゃうレベルの痛みを体感するだけはつまらないからァ…。


 …そうだ、僕を殺した“アイツら”に復讐をしよう。

 まぁ、アイツらって言っても1人だけなんだけどさァ…

 痛みを超えるほどの快感…死という最高に気持ちいい事を教えてくれた事への感謝の気持ちを込めて…ね?

何か改めて見てて結構ヤバい話だよな、これ。

彼女を殺されてるのに、それをトラウマとせずそれよりも痛みに対する快感の方が上っていう…。

しかも鈴音が死んだ事によって痛みではなく死ぬレベルの痛みを快感と感じるレベルに来てしまった…。


さぁ、次回はこの最強無敵のドMをどうやって攻略するのだろうか…?

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