第4話 呪命強奪
今回はちょっとヤバい。
割と鬱展開かもしれん。
『シュメルツ』。
それは、不老不死になる代わりに人の不幸を背負って自身がその不幸を受けてしまう呪い、だそうだ。
なのにどうして…
…俺達は、“死”に近づいている?
先日、零人が原付バイクに轢かれた。
昨日は虚空階段を発見するやら、先生は自殺するわ、零人は原付に轢かれるわ、零人の呪い『シュメルツ』について知るわで、本当にあれで1日なのか、と思うほど色んなことが起こりまくった。
「みなさん、えー、昨日転入してきた愚神零人君ですが昨日、下校時に事故に遭って入院したとの事です。」
いつものようにHRがあった。
案の定、零人の入院は話されたが、何故か先生の自殺については触れる事はなかった。
俺は今、学校の教室で椅子に座っている。
俺に友達はいない、だから一人だ。
いや、俺がぼっちだ、なんて事はどうでも良いのだ。
教室の雰囲気はいつも通り賑やかだった。
男子は外でドッジボールやらサッカーやらしてるし、女子は集まって陰口やら世間話やらして、教室内に響く程うるさく笑っている。
「今日はいつも通りか…、昨日は色々ありすぎて疲れちったな」
「…あ、あのぅ…」
「ん?なんだ?俺になんか用か?」
珍しいな、俺に話しかける女子がいるなんて。
普段は全くと言って良いほど男女問わず、人に話しかける事も、話しかけられる事も無いのに。
「…き、昨日転入してきた…零人…君だっけ?」
「あぁ、零人がどうかした?」
「…き、今日は来てないけど…何かあったの…?」
「は?朝のHRで入院したっつってただろ?」
「…あ、あぁ…そうだったね、それで何処の病院で入院してるの?」
「え、何で俺が知ってんだよ」
「…だって昨日一緒に帰ってたじゃん。」
「まぁそうだけど…」
何故この女の口から話したこともないはずの零人の名前が出てきて、こんな零人について質問攻めされてるんだ俺は?
まさかこいつ、零人に一目惚れでもしたのだろうか?
お見舞いに行って抵抗できない零人に…ってか。
女ってのはゲスい生き物だな全く。
「零人が入院したのは…確か中央病院だった気がする、あのでっけー病院な。」
「…おっけ。ありがとね、弦太。」
そういうとその女は教室を駆け足で出て行った。
「え…いや、今から見舞い行くのか?!」
今はまだ昼休みだ。下校時刻には早すぎる。
まだ5時限目と6時限目が残っている。
「俺も行ってみるか…親父のコネ使えば行けんだろ」
俺の父親はこの町ではかなり有名な霊媒師で、それなりに人脈もある。
だから今までも何回かコネを使ってやってこれた。
「親父はすげえ霊媒師なのに…俺は…何の才能もない役立たずかよ。」
そう独り言を言うと俺はさっきの女を追いかけるように教室を出て行った。
…色々気になる事があるし。
「やっぱでけーなぁこの病院。」
俺は病院の中に入ると、零人のいる病室を聞き、その病室へと向かう。
…その道中。
「…あ。」
「あ。」
…例の女とエレベーター内でばったり出会った。
「…やっぱり、弦太も零人…君のお見舞い?」
「いや、お前を追いかけてきたんだ。」
「…え?」
「お前には色々聞きたい事があんだよ。」
そういうと俺はその女に近づいた。
エレベーター内なのですぐにゼロ距離になる。
「…あ、あの…顔、近いっ」
「何でお前…昨日俺と零人が一緒に帰ってるの知ってんだよ…?」
「…そ、それは…二人とも昨日先生が自殺した後に帰ったからてっきり…」
「何でお前が先生が自殺した事知ってんだよ」
「…。」
女は沈黙した。
エレベーターが指定された4階で止まり、ドアが開く。
その後、女は顔を歪めてニヤッと笑った。
「…いい加減気づきなよ弦太ァ…」
「?!」
そういうと俺は女に蹴り飛ばされた。
…俺は、割と吹っ飛んだ。
「ぐぁっ!?」
「全く…君は本当にバカだよ…わざと言葉の穴を作ってる事に気付かずに1人の女の子を問い詰めるなんてさァ……少しは察したらァ…?」
さっきまでの内気な雰囲気とは全く違う…まるで別人のように性格が豹変した。
「お前、誰だ!?」
「君ならわかるだろう?僕だよ、す、ず、ね。」
「蒼崎鈴音…!?…何でお前が…地縛霊なのにどうして?!」
「人の身体を乗っ取れば虚空階段の外でも動けるんだよ、でも別に好きじゃない奴の身体奪ってまで出たい訳じゃ無かったし?」
「て事は、今はそれ程の理由があってそこら辺の女の身体を乗っ取ってるって訳か。どうして…」
「…零人の『シュメルツ』を手に入れるため。」
「どうしてお前からその単語が出てくるんだよ?!」
以前まで鈴音は『シュメルツ』に関しては何の知識も無かったはずなのに。
何故鈴音が零人に『シュメルツ」があるという事を知っているんだ?!
「僕ね、零人とハグした時にこっそり取り憑いてたの。だからァ…ぜぇんぶ聞いてたんだァ…」
「マジかよ…」
「そろそろ行かないとだからさぁ…退いて?」
「退かないと言ったら?」
「霊媒師の力を持たない君が僕をどうやってこの身体から引き摺り出すんだァ?!僕は君の父さんでも祓えなかった霊だよ?!」
「親父でも無理だった…だと?!」
「だから言ったじゃん!思いが強すぎて祓えきれなかったってさァ!!」
そういうと鈴音は俺をまた蹴り飛ばし、蹴り飛ばした方向が偶然にも窓ガラスになっていた。
「マズイっ!このままじゃ俺…死ぬ!」
しかし俺は普通の人間なので空中ではどうする事もできず、なす術なく窓ガラスは割れ、4階という高さから落ちていった。
「うわぁぁぁぁあ!!!!」
…鈍い音が聞こえた。
下を見やると、弦太がこの階…4階から落ちて、頭から血を流している。
この高さからでも血が見える。
さっきまであんなに喋ってたモノがこんな事で動かなくなるとは。
…僕もあんな感じだったのだろうか?
「あァ…人殺しちゃった…あはっ…」
何故だろうか。
人を殺した事に対して、とても興奮した。
胸がドキドキした。
「僕が殺したのに罪を問われるのはこの女なんだよぉ!!!ははははははは!!!おっかしいねぇ!!!」
そうだ。
誰も僕が殺したなんて思わない。
みーんな、この女が殺したと思うだろう。
…だって、みんなにはそう見えてるんだもん。
「待っててね、零人ォ…後ちょっとだからァ…」
興奮で心が昂りながらも零人がいるであろう病室へと向かう。
病室に入ると、そこには零人が眠っていた。
「あぁっ!!零人ぉっ!!会いたかったよぉっ!!」
僕は零人を見つけた途端に眠っている零人に抱きついた。
「ようやくぅ…ようやくだよぉ…!僕はァ…僕は不老不死に…!」
そういうと僕は眠っている零人の上に四つん這いになった。
そして零人の耳元で囁く。
「大丈夫…怖くない…あっという間だからァ…じっとしててね…?」
そういうと、僕は眠っている零人と唇を重ねる。
そしてこの身体から“鈴音”を零人に流し込む。
僕はそこで意識が無くなった。
…僕は目を覚ます。
僕の上には、かつての僕の身体が寝っ転がっている。
「…邪魔だなァ…コレ。」
そういうと僕はかつての身体をベッドから落とす。
「…ひひっ…“零人”の身体ァ…すっごく僕に馴染むっ…ひひっ…あはっ」
こうして僕は遂に零人に…不老不死になったのだ。
…あれ?でも僕は零人で、鈴音が僕に…いや、僕が鈴音に…?
もうよくわかんないや。
…さぁ、僕を殺した“アイツら”に復讐をしよう。
死という最高に気持ちいい事を教えてくれた事への感謝の気持ちを込めて…ね?
鈴音は事故で死んだんじゃない。
誰かに殺されたのだ。
鈴音はずっとアイツらにお礼をしたくて、アイツらにも死の気持ち良さを教えようとしているのだ。




