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その2

それからの僕は、陽葵に対する劣等感を抱えて生きていた。

いや、抱えざるを得なかったといったほうが正しいのかもしれない。


守りたかった女の子が、自分より何事においても、ずっと優れた才能を持っていたことに、嫉妬の感情を抱くなというほうが無理な話だ。

ひとつふたつと年を重ねていきながら、表向きの関係は変わることなく、僕らは仲のいい幼馴染のままだった。

すぐ近くで陽葵のことをずっと見ていた。



綺麗になっていく陽葵も。


相変わらず僕に優しく笑いかけてくれる陽葵も。


完璧さに磨きが掛かっていく陽葵も。


どんなに辛くても、苦しくても、全部全部見続けてきた。



陽葵は僕にとって太陽だった。

見えているけど目をそらしたくなるほど明るすぎて、手を伸ばしても届かない、そんな存在になっていた。


だけど、太陽に焦がれて見上げ続けたらどうなるかなんて、火を見るより明らかだろう。

眼を灼かれ、破滅がいずれ訪れる。


そんなこと、分かっていたはずなのに。

それでも僕は目をそらすことができなかった。



そして情景の光は、次第に僕の心を歪ませていく。



嫉妬は肥大化し、やがて彼女に対するコンプレックスへと変化した。

陽葵への恋慕と劣等感、憧憬の想いが入り混じってぐちゃぐちゃになり、今では陽葵に抱いている感情がなんなのか、自分でもよく分からない有様だ。


陽葵が僕にとって、大切な存在であることは間違いない。

頭の中ではそうだとわかっているはずなのに、もはや自分でも整理のつかないほどに膨れ上がりつつある負の感情に、僕は確実に苛まれつつあったのだ。



だけど。それでも。


その時の僕には自分から陽葵と離れることが、どうしてもできなかったんだ。



弱い自分では、彼女と一緒にいることはできないと、心の奥底に刻まれた誓いが否定する。

だけど、陽葵が大切だという気持ちだけは変わらなくて、そばにいたいと思ってしまう。


矛盾した話だ。彼女を守れるようになりたいと強く思っていたはずなのに、今では惨めに幼馴染の関係に縋りつこうとしているのだから。


それこそが僕が陽葵と一緒にいられないと思った一番の理由。

弱い自分そのものであるというのに。



僕は心の底から、こんな自分が嫌いだった。










「タケルちゃん、帰ろ?」


帰り支度をしていると、陽葵が僕の席まで駆け寄ってきた。

高校生になっても昔と変わらず、花が咲いたような明るい笑みを向けてくる。

綺麗な黒髪を揺らして、大きな瞳に僕が映る。

見つめ返すには、あまりに眩しすぎる笑顔だ。

視線を合わせることができそうにない。

一緒に帰ろうと誘ってくるのことに嬉しさと申し訳なさを感じながら、僕は聞いた。


「……今日は部活、ないの?」


「うん。もうすぐテスト期間だし、今はないんだ。先生からも休めって言われてるし、久しぶりに一緒に帰ろうよ」


そう言って陽葵は手を差し出してくる。

昔からの癖のようなものだ。僕になにかを求めるとき、いつも彼女はこうして右手を差し出すのだ。多分本人もこの癖について、意識してはいないだろう。

僕だけが知っている、彼女の癖。その手を取れば陽葵が喜ぶことはわかっていたけど、僕にはそうすることが出来なかった。


「ごめん。僕、図書室で勉強する予定あるから」


申し訳なく思いながらも、僕は断りの言葉を口にした。

常に学年トップの彼女と違い、僕はそこまで成績のいいほうじゃない。

テスト前になれば、成績を落とさないよう図書室で勉強をするのが常だった。

……陽葵と一緒に帰りたくないというのもまた、本心ではあったけれど。


「あれ、そうなの?」


「うん…」



頷く僕を見て、陽葵は目を少し細めると、またもニッコリと笑みを浮かべた。



「そっか…フフッ、タケルちゃんって昔っから頑張り屋さんだもんね。偉いなぁ」


(っつ…!)


その言葉を受けて、僕は胸がズキリと痛む。

感じたのは喜びじゃない。上からモノを言われたと、そう思ってしまったことによる、陽葵に対する劣等感だ。



―――見下すなと、心のどこかで声が聞こえた。


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― 新着の感想 ―
[一言] 支えるのではなく女は男が守るものって考えをしてるのに肉体的どころか精神的にすら雑魚の主人公 ここまでクソ雑魚だと相手が有能すぎなくても守れるやつなんていないので幼馴染みはむしろ将来一緒になら…
[良い点] うーん、好き
[一言] 案外、本人は素直に称賛していたりすることもあるんだろうけれどなあ。 だからこそ、辛いか。 誓いという名の呪いに縛られているのであればなおさら。
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