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第4話 惹かれあう


 ある日、アイゼン様の部屋で花瓶に薔薇の花を挿していた時の話だ。


「いたっ……!」


「どうした――?」


「あ……その……うっかり、薔薇のとげが刺さってしまったようで……」


 右手の人差し指に、ぷっくりと丸くて紅い球が出来ていた。


「貸してごらん?」


 そっとアイゼン様の大きな手に、手を取られる。


「あっ……」


 気づけば彼の唇が、私の指を含んでいるではないか。

 彼の舌が指先に触れて驚いてしまう。

 恥ずかしくなったわたしの顔は、林檎のように赤く色づいていく。


「アイゼン様……その……」


 私の反応に気づいたアイゼン様は、慌てふためきはじめる。


「い、今のは、違うんだ。誰にでもやってるわけじゃなくて――その――君にしかこんなことは――」


(別にそんなことは聞いてなかったのに――)


『君にしかこんなことは――』


 そんな風に言われて、私の心臓は壊れてしまうほどに高鳴っていく。


「だ、大丈夫です……!」


 あわあわと二人してしばらく慌てていると、おかしくなったのかアイゼンがくすくす笑い始めた。


 そうして――。


 私に向かって。アイゼン様は自身について語りだしたのだった。


「私には夢があってね」


「夢ですか――?」


「そう、夢――」


 ぽつりぽつりと彼は続ける。


「一人の女性と添い遂げるのが夢なんだ――」


 そう言う彼の水色の瞳は、どことなく寂しそうだった。


「母親が同じイグニス兄上は、女性関係が派手で身を滅ぼしたようなところがある。本来なら同母弟である私も、殺されるか幽閉されてしかるべきなのに……皇帝陛下であるグラース兄上が、東部領を私に任せてくださったんだ」


 少しだけ、彼の瞳に明るさが戻る。


「グラース兄上は優しい人なんだ――父とは違って一人の女性を愛していらっしゃる。私はそんな兄上に憧れている。兄のようになりたいとずっと思っていてね……」


 彼が兄に憧れているのは分かったが、相思相愛を目指す理由としては弱いように感じた。


「もしかして、お父様のこと、お嫌いなんですか――?」


「父のことは嫌いではないんだけど、母親同士のいさかいに巻き込まれて苦労した思い出があるんだ……皇帝だから何人か女性をそばにおくのも仕方がないのだろうけど……生まれてくる子供たちに影響が及んでくる。私は自分の子どもに同じ目にはあってほしくないんだ」


 そうして、私の赤茶けた瞳を覗き込みながら、アイゼン様は満面の笑みを浮かべてくる。



「兄妹みたいにって言ってしまった手前、なんだよって思うかもしれないけど――いつか君に伝えたい気持ちがあるんだ――兄上の許可をとってからになるだろうけど――」



 そう言って、彼はわたしの右手を手に取り、そっと口づけを落としてきた。


(アイゼン様、もしかして、それって――)

 

 相思相愛に彼がなりたい相手とは――。


(だ、ダメよ、ただの村人のわたしが、そんなことを考えるなんておこがましいわ)


 だけど、彼の水色の瞳がやけに熱っぽくて、わたしの頬まで熱を帯びてしまう。

 

 恥ずかしさはそのままに、わたしは彼ににっこりと微笑んだ。


「アイゼン様のお気持ちをうかがうの、楽しみに待っていますね――」


 そんな幸せな日々は、貴族の令嬢とアイゼン様の政略結婚が決まると同時に終わりを告げたのだった――。




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