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第21話 素直になれなくて




(いったい、どうして――?)


 唇が離れた際に、彼に問いかける。


「……いつも穏やかなアイゼン様らしくないです」


 そういうと彼はたじろぐ。

 しばらく待つと、きゅっと口を引き結んだ後に、アイゼン様はぽつりぽつりと話しはじめた。


「優しいルビーのことだから、きっと私以外にも優しくしてるんだろうな……そんなことを考えたら、なんだかモヤモヤしてしまったんだ……」


 寂しそうに彼は続ける。


「君の偽物を妻にしていた私が言う台詞でもないから、黙っておこうと思っていたんだけど――」


 そこまで話した彼の唇に、わたしはそっと人差し指で触れた。


「ほら、アイゼン様はまた一人で自己完結しようとしています。わたしは他の人に冷たく振る舞うのは苦手です。でも、アイゼン様だけが、わたしの特別です。思ったことを内に閉じ込めずに、わたしに相談してください」


「ルビー……」


 熱っぽい瞳になった彼は、わたしを見ながら続ける。


「ルビー、僕だけの奥さん……ちゃんと君に気持ちを伝えていくよ」


 わたしの金の髪を撫でながら、彼は続ける。


「さっきは君の許可なく悪かった……やり直しても良いかな……?」


「はい……」


 そうして、どちらともなく、口づけを交わし合う。

 陽にかざされ、庭に出来たシルエットが、何度も重なっては離れた。

 

 どのぐらい、時間が経っただろうか――。


 アイゼンが私に熱っぽく声をかけてくる。


「愛している、ルビー」


 わたしは、彼の水色の瞳を覗き込みながら告げた。


「アイゼン様……わたしは貴方の願いはなんでも叶えたいのです。だから、今みたいに、遠慮なく、わたしに気持ちを伝えてください」


 彼は口を開いた。


「えと……だったら、戸籍上は夫婦だけど、プロポーズをしていないだろう? だから今度、君にちゃんしたプロポーズをしたいんだけど、どんなのが良いかな?」


 わたしは目を丸くした。


「そういうのは、相談なしの方が良いような……?」


「え? なんだか難しいな……どんな狩猟や戦よりも、君の心を射る方が、私にとっては難題だ……」


 苦笑する彼を見て、わたしはにっこりと微笑む。


「わたしは、あなたからのプロポーズなら、なんでも嬉しく思います」


 それを聞いたアイゼン様は極上の笑みを浮かべた。


「ありがとう、ルビー……やっぱり君は私の心を誰よりも分かってくれる……最高の奥さんだよ――絶対に最高のプロポーズにしてみせる」


 そうして私はまた彼に口づけられた。

 

「楽しみにしていますね」


 その日は、二人で微笑みながら過ごしたのだった。




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