表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

16/22

第16話 真実



「入れ、替え――?」


 驚くわたしに向かって、メーロ侯爵は優し気な微笑みを浮かべてくる。



「そうだよ、本物のルヴィニ。お前の偽の両親は、元はわしの屋敷の使用人だったんだ。彼らは賊の一味で、お前の乗った馬車を襲わせたのも自作自演だったようだ」



 両親が実の両親じゃなかったと聞いて、ショックは大きった。

 だけど、だからこそ、わたしのことをこき使っていたのかと、納得できる面もありはする。


(お父さん、お母さん……そんな……)


「そうして、その襲撃に乗じて、自分たちの娘と入れ替えたのだよ。整形させた娘を、侯爵家――わしの屋敷に忍ばせ、金品・宝飾品の類を横流しさせていたんだ――」


 ちらりとルヴィニ夫人の顔を見ると、顔面蒼白になっていた。


 アイゼンが続ける。


「君の成人の日に、村が焼けた事件があっただろう? あれも君のご両親の仲間の賊たちが、身元がばれるのを恐れて、蛮族を村に引き入れたらしんだ。定期的にそういうことをおこなって、根城を変えているらしい」


 そうして、彼は柔らかい笑みを、わたしに向かって浮かべてきた。


「ルビーの偽の両親も。まだ別の場所で生きている。彼らは、ルビーとルヴィニを入れ替えていたことを自供してくれたよ――あとは、ルビーの誕生日に、君の実の母親の形見であるブローチ――彼らが屋敷から盗んだものらしいんだけど――それを手渡したのはね……」


 わたしの喉がこくりと鳴った。


「ずっと君と一緒に過ごしてきて、馬車馬のように働かせても文句も言わずに尽くしてくるルビーに、だんだん彼らも愛着がわいていったらしいんだ――でも本当のことを言うわけにもいかない。だから、村を焼いたついでに、君にブローチを渡して逃がしたそうだ」


(お父さん、お母さん……)


 じわりと涙がにじんで、アイゼン様の姿も一緒にぼやける。


「まあ、蛮族に君が襲われてしまったり、私に君が拾われるのは想定外だったそうだけどね。彼らは罪をつぐなったら、またルビーに会いたいと話していたよ」


 わたしの瞳から涙がぽろぽろとこぼれた。


 そうして、彼は声を張り上げた――。



「都にいる頃からの数々の横領罪に――我が妻ルヴィニ・メーロへの殺人未遂の現行犯だ――逃げ場はないよ、ルヴィニを騙る女――」



 そう告げるアイゼンは、どことなく嬉しそうに見えたのは気のせいだろうか――。


 ルヴィニ夫人は口惜しそうに顔を歪める。


「くそっ! こうなったら――!」



 彼女は、近づく騎士をすり抜け、崖にいるルビーと侯爵の元に向かって駆け始めた。



「どちらか道連れに、一緒に死んでやる――!」



「――ルヴィニ!」


 メーロ侯爵がルビーを強く抱きしめる。


 鬼のような表情をしたルヴィニは――。


 だが、そこで倒れ伏した――。



「ぐうっ――!」



 彼女のスカートに刺さるのは、一本の矢――。



「ああ、悪いね、手が滑った。これでチェックメイトかな?」



 冴え冴えとして月の下で――。


 騎士に手渡されたクロスボウを片手に、鳶色の髪をした青年が、凄艶な笑みを浮かべていた。



「君に脅されて、命を落とした使用人たちも多いという。ご両親と一緒に罪をつぐなっておいで。偽物のルヴィニ――」



 いつもの優しくて潔癖で、少しだけ優柔不断で、兄がいないと決めきれないような、そんなアイゼン様の姿はそこにはなかった。



 そうしてこちらに向かって近づいてきた彼は、横向きにしたわたしの身体を抱きかかえる。


「きゃっ――」


 端正な頬を、彼は私の頬にすり寄せてくる。



「さあ、城に帰ろう、ルビー」



「アイゼン様……わたしは……」


 たじろぐわたしに向かって、彼は柔和な笑顔を浮かべてこう告げてきた。



「もう何も、私たちを邪魔するものはいない。今夜は離さないよ。私の本当の花嫁――」



 すると――。


 メーロ侯爵も近くにいると言うのに、彼はそっと口づけてきた。


(あ――)


 唇が少しだけ触れた後に離れる。



 そうして見上げた彼の顔――。




 月の光に照らされた彼の水色の瞳は――。



 まるで――蒼穹のように輝いていたのだった――。





評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ