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王国の最終兵器、劣等生として騎士学院へ  作者: 猫子
第二章 迷宮に潜む悪意
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第四十話 悪意の追撃者(side:ルルリア)

 ウィザの拠点から無事に逃げ遂せたルルリア達は、地下五階層を駆けていた。

 とにかくあの怪人から離れ、地上へと向かわなければならない。


 だが、この地下五階層には大鬼級(ランク4)の魔物が出没する。

 ルルリア達はアインの力を借りずにオーガの討伐にこそ成功していたが、オーガは大鬼級(ランク4)の魔物の中では最弱の部類である。


 オーガ以外と出くわす可能性も高い上に、オーガとぶつかっても、今の状態では勝てるかどうか怪しいところだった。

 マリエットとミシェルは衰弱しており、まともに戦える状況とは思えなかった。

 ルルリア達も疲弊してきている上に、今はアインのアドバイスもない。


 果たして無事に上の階層まで逃げ切ることができるのか。

 それがルルリアには不安であった。


「それに……アインさん……無事でしょうか。あのウィザって人……かなり危険な人に思えました。あんな目をした人、今まで会ったこともありません。それに、〈魂割術〉……それも、命の予備が千以上もあるだなんて……」


「ぜぇ……ぜぇ、アインのことなんて心配いりませんわよ。殺し切ることができなくったって、アインが負けるはずがありませんわ。倒せないのなら倒せないで、適当なところで切り上げてこっちに合流してくれますわよ。アインのことより、私達は私達の身を案じた方がよくってよ。生徒だけで地下五階層の深部を移動しないといけないなんて、普通に考えて有り得ないことなんだから。私達、普通にこれ、少し運が悪かったら全滅するわよ」


 ルルリアの吐いた弱音に、ヘレーナがそう返す。


 ヘレーナはマリエットを背負っており、速度を維持して走るのが苦しそうであった。

 ただ、足を遅くすれば、それだけ魔物と遭遇するリスクが跳ね上がる。


「……悪かったわね。重いでしょう?」


 苦し気に喘ぐヘレーナに対し、マリエットがそう零した。

 ヘレーナがピンと背筋を伸ばす。


「い、いえいえいえ、そんなことありませんわよ!」


「……別に嫌味で言ったんじゃないわよ。単に人一人背負うのがしんどいでしょうって言ったの。そんなに過剰反応しないで頂戴。私だって、さすがに命の恩人に皮肉を垂れる程、嫌な女じゃないわよ」


「は、はは……勿論わかってますわよ」


「私はミシェルより軽傷だし、今の体力でも〈魔循〉を維持して走るくらいならできるわ。降ろして頂戴。足手纏いでいるのは性に合わないの」


「む、無理ですわよ、そんな、ボロボロの身体で。……なんだか、性悪派閥のトップで有名なマーガレット侯爵家の長女に気を使われると、むず痒いものを感じますわ」


「……貴女、私を何だと思っているの?」


 ヘレーナがまた失言を零す。マリエットは目を細めて、彼女の後頭部を睨みつけていた。

 ルルリアはそれを見て、誤魔化すように苦笑いをした。

 

 ヘレーナがマリエットを背負い、ギランがミシェルを背負っている。

 単に身体能力と〈魔循〉でいえばルルリアが一番劣るため、なるべく早くこの地下五階層を出るためにこの組み合わせとなったのだ。


 ギランとミシェルは、互いに気まずげに沈黙していた。

 一度は戦闘した仲である。

 互いに互いの印象がよくはない上に、どちらもさほど気が長い方ではない。

 おまけに二人共、あまり不用意に異性とくっ付くのを嫌悪している性質であった。


 ただ、両者共、今が緊急時である上に、下手に文句を言っていい状況でないことも理解している。

 故の沈黙であった。

 命懸けでさえなければ今すぐ口喧嘩が始まっていたとしてもおかしくはない。

 ルルリアも気を使って交代を提言しようかと思ったが、それで移動速度が落ちて魔物に囲まれることになればそれどころではない。


「……気を張った方がいいわ。もしもオーガに囲まれでもしたら、ほぼ確実に終わりなんですわよ。何せ地下五階層は、到達した生徒がこれまで一人もいなかった魔境でしてよ。あの怪人は明らかに異様でしたけれど、それでも下手に逃げるよりも、アインの傍に控えていた方がよかったんじゃないかしら」


 ヘレーナの言葉に、ルルリアは目を細めて考える。

 それは確かにルルリアも疑問に思っていたことなのだ。

 この状況、運が少し悪ければ、それだけで簡単に全滅する。

 それでも尚、アインは一刻も早くあの場から立ち去ることをルルリア達に命じたのだ。

 

「もしかしてアインさん、あの怪人を、命懸けで掛かっても怪しい相手だと踏んでいたんじゃ……」


 ルルリアは顔を青くする。

 アインは端から、ウィザが相手ではせいぜい時間稼ぎしかできないと踏んで、先にルルリア達に逃げるように言ったのではないか、と。


「そ、そんなことあり得ませんわよ! だってあの、アインですわよ! 〈銅竜騎士〉のエッカルトにあっさりと勝ったくらいなんですから、負けるわけないじゃありませんの!」


 ヘレーナが不安を紛らわせるように大声でそう言った。

 それを聞いたマリエットが眉を顰め、ルルリアはしまったと口許を歪めた。


「ヘレーナさん! その話、マリエットさん達の前で下手にしていい話では……!」


 エッカルトとアインの一戦については、緘口令が敷かれている。

 

「……普通はあり得ない話だけれど、今更もう疑わないわ。本当だとはまさか思っていなかったけれど、それらしい噂は耳に挟んだことがあったし。聞かなかったことにするから安心しなさい」


 マリエットが呆れたように息を吐く。


 そのとき、後方から「オオオオオ!」と叫び声が聞こえてきた。

 ルルリアが振り返れば、三体のオーガの姿があった。

 

「オ、オーガ!? 最悪です! 三体だなんて……」


 ルルリアは唇を噛んだ。

 一体でも全滅しかねない、と想定していたオーガである。

 まさかそれが三体も現れるとは思っていなかった。


「とっ、とにかく、足を速めて振り切るしかありませんわ! ぶつかったら絶対勝てませんもの!」


「で、でも、オーガの脚力から逃げられるとも思えません。何か、策を練らないと……」


「戦って勝つのが無理なんだから、逃げるしかないじゃない! 余計なこと考えている場合じゃないわよ!」


 ギランが足を止め、背後を振り向いた。


「チッ、ミシェル、降りろ! ルルリアに背負ってもらえ! 俺が時間を稼いでやる」


「む、無謀すぎますの! ちょっと、ルルリアさん! この男を説得してください! 死ぬつもりですの!」


 そのとき、轟音と共に、通路の奥から巨大な逆さの人面が現れた。


「ケタケタケタケタケタ!」


 不気味な鳴き声が響く。

 女の顔の奥には、黒々と輝く甲殻が続いていた。

 修羅蜈蚣である。

 オーガなどとは比べ物にならない、巨鬼級(レベル5)の魔物である。


 修羅蜈蚣は、あっという間に三体のオーガを引き潰し、ルルリア達へと迫ってくる。

 先程まで決死の時間稼ぎを行う覚悟を決めていたギランも、現れた化け物を目にして顔を真っ蒼にしていた。


「あ、あんなの相手じゃ、さすがにまともな時間稼ぎもできねぇぞ!」


 修羅蜈蚣の、天井へ向いた顎の上には、見覚えのある道化の悪魔が乗っていた。

 アインに斬られて帽子だけの姿になっていたはずだが、既に身体を再生し終えたようであった。


「ヒヒヒヒヒヒ! 確かに僕の力は弱まっているけれどね、こうして他の魔物を誘導することなんて、僕ら悪魔にとっては簡単なんだよねえ! ニンゲン如きに舐められたまま逃げるなんてごめんなんだよ! 君達を嬲り殺しにして、借りを返してあげるよ!」

挿絵(By みてみん)

【他作品情報】

 『最強錬金術師の異世界開拓記』、本日書籍第一巻発売日となっております!(2021/01/05)

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― 新着の感想 ―
[良い点] 素直に逃げておけば命だけは助かったろうに……。
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