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王国の最終兵器、劣等生として騎士学院へ  作者: 猫子
第一章 王国の最終兵器、劣等生として騎士学院へ

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第六話 入学試験②

 第二試験は魔術試験である。


 八メートル離れた先の的に三回魔術を放つ。

 当たったかどうかだけではなく、試験官が目視で威力や速度から発動者のマナの出力量を測る。

 要するに魔術の練度や制御、マナの出力量が試されるのだ。


 やや髪の長い、だらしなさそうな男が試験官だった。

 淡々と受験者に指示を出し、メモを取っている。


「ここで頑張らなきゃです……」


 ルルリアはバンバンと自分の顔を叩いていた。


「何をしているんだ?」


「気合を入れているんですよ、気合を」


「なるほど?」


 あまりよくわからなかったが、俺もやってみた。

 パチパチと自分の顔を叩く。


「入りましたか、気合?」


 これも世俗の文化なのだろうか。


「すまないがまだ習得できそうにない。練習しておこう」


「いえ、そういうものじゃないので……」


 ルルリアが困ったように口にする。


「私、実は火と水の二重属性(デュアル)なんです。しっかりここでアピールして、ちょっとでも点数を稼がないと……」


二重属性(デュアル)?」


「魔術属性を二つ持ってるんです。高位貴族の中にもほとんどいない、特異体質だそうです。なので、聞いたことがなくてもおかしくはありませんよ。一説によれば、伝説の大魔導士クロウリーは四重属性(カルテット)だったそうです。ちょっと信じられないですよね」


「いや、それは知ってるんだが……」


「あ、すいません……。何だかその、変な自慢してるみたいになっちゃいましたね」


 ルルリアが慌てふためきながら釈明する。

 ……俺が相手取ってきた敵には三重属性(トリプル)くらいだと珍しくなかったのだが、黙っておいた方がいいだろう。

 更に言えば〈幻龍騎士〉には七重属性(パーフェクト)がいたが、これも言っても信じてもらえそうにはない。


「魔術はまともに使えないんだ。あまり極端なヘマはしたくないんだが……」


「アインさんにも苦手なものはあるんですね。ちょっと意外です」


 俺の身体は錬金術や呪術で弄られている。

 特にマナの出力を引き上げられている。

 その影響は〈循魔〉を筆頭とした身体能力の強化には役立っているが、魔術を行使する際にどうしても乱れてしまうのだ。


 俺の前はルルリアだった。

 

「次はそこの、桃色髪の嬢ちゃんだな。悪いが平民は厳しめに付けるように言われてるから、しっかり気張れよ」


「おいトーマス!」


 試験官の男が小馬鹿にしたように笑いながら言い、別の試験官から睨まれていた。

 トーマスというのが、俺達の担当試験官らしい。


「取り繕うより教えてやった方が優しいだろ? さて、〈ゴーレム〉……と」


 試験場に魔法陣が展開され、人間大の土人形が姿を現した。

〈ゴーレム〉は土人形を生み出す、中級魔術(ランク3)だ。

 あれが魔術試験の的としているらしい。


下級魔術(ランク2)〈ファイアスフィア〉!」


 ルルリアがゴーレムへ手のひらを向ける。

 放たれた炎球はゴーレムの頭部へと当たっていた。

 ゴーレムの顔が焦げて、剥がれていた。


「ほう、正確さも速さも威力もなかなかだ。いいぞ、二発目を撃て」


 トーマスは目を瞬かせ、意外そうに口にする。


下級魔術(ランク2)〈ウォーターガン〉!」


 ルルリアの放った水の直線が、ゴーレムの顔面から腹部の辺りへと放射された。

 ゴーレムの顔から腹部に掛けて、水の放射によって深い溝ができていた。

 

「入学前から大した制御力……いや、それより、二重属性(デュアル)とは。見縊っていたらしい」


 トーマスの様子を見て、ルルリアはほっと息を漏らしていた。


 ルルリアは三発目の魔術に〈ファイアアロー〉という、炎の矢を射出する魔法を使っていた。

 打撃力より貫通力に特化した魔術だ。

 敢えて別の魔術にしたのは、広い魔術の練度を高めているアピールだったのだろう。

 トーマスにも好感触の様子だった。

 なるほど、ああいう感じでいけばいいのか……。


「どうにか、ミスを出さずにできました……。アインさんも、頑張ってください!」


 ルルリアが笑顔を浮かべながら戻ってきた。


「おい、次、お前だ。早く来い、さっさと進めたいんだ」


 俺はトーマスに番号票を見せ、ゴーレムへと魔術を撃つ所定の位置へと移動した。


 魔術制御は苦手なのだが、やるしかない。

 遠距離でも魔技で事足りるため、これまでさほど鍛錬も積んでこなかったのだ。

 俺はぺちんと頬を叩いて気合とやらを入れてから、また造り直された新しいゴーレムへと目を向けた。


下級魔術(ランク2)〈ダークボール〉!」


 魔法陣を展開させる。

 黒い光の塊を生じさせる。


 俺が扱えるのは闇属性のみだ。

 元々は火属性だったらしいが、その頃の記憶は俺にはない。

 物心ついた頃には、身体に施された魔術の影響でこうなっていた。


 トーマスは眠そうな目で俺を見ていたが、俺の手許の魔弾が膨張するに連れ、段々と目を大きく開いていった。


「おい、お前! それ止めろ……!」


 ゴーレムへと撃ち出したつもりだったが、魔弾はほぼ斜め下方に向かい、かなり手前の地面へと着弾した。

 轟音と共に黒い爆風が巻き起こり、地面が大きく抉れた。

 何事かと、周囲が一斉に俺を見た。


「な、なんだ、今の馬鹿げた威力は……」


 トーマスの手から、メモが落ちた。


 い、一撃目は盛大に外してしまった。

 ゴーレムは無傷でケロッとしている。

 二発目でどうにかするしかない。


 やはり制御は無理だ。

 ゴーレムに当てるのではない。

 範囲魔術にゴーレムを巻き込むつもりで行った方がよさそうだ。


 元々、試験にはしっかり合格ラインで入りたかった。

 だが、魔術試験で三回外して終われば、合否が怪しいラインでさえなくなる。

 あからさまに不合格だったはずだと周囲から疑われかねない。


 俺は目を瞑り、息とマナを整える。

 時間が掛かる上に安定しないので実践的ではない上、威力がセーブできないので悪目立ちしかねないが、背に腹は代えられない。


 トーマスは茫然と〈ダークボール〉によって抉れた地面を眺めていたのだが、慌てて俺へと向き直った。


「お、おい、お前、何をやる気だ! 一旦止めろ!」


特級魔術(ランク5)〈アビスブレイク〉!」


 前方に大きな魔法陣を展開した。

 魔法陣が段々と漆黒の光に覆われていき、大爆発を引き起こした。

 試験会場が激しく振動し、悲鳴が飛び交った。


 土煙が晴れた後、ぽっかりと半球状に抉れた地面が露になった。


 ……だが、僅かにゴーレムには到達していなかった。

 もう少し〈アビスブレイク〉が奥であれば、ゴーレムは抉れた地面のついでに消し飛んでいたはずなのだ。

 失敗した……次で当てなければ、本当に後がない。

 不必要に高威力魔術を放って悪目立ちしたため、近くで試験を受けていた者達にも外したのが露呈してしまった。


 トーマスは口を開けて地面に空いた穴を見つめていたが、俺が次の〈アビスブレイク〉のために息を整え始めると、真っ蒼になって駆け寄ってきた。


「止めろ! これ以上、試験会場を壊すつもりか!」


「試験のルールでは後一発撃てるはずだ。先の二発を見て、これ以上は無意味だと断じる気持ちはわかる。だが、次こそはあのゴーレムを消し飛ばす」


「頼むから止めろ! これ以上は試験どころじゃなくなる!」


「どうか機会をいただけないか。俺は不合格点を取るわけにはいかない」


「点数なら満点くれてやる! 終わりだ、終わり! おい、土魔術を使える教師を呼んでくれ! 会場の修繕を行いたい! 時間が掛かるから、並んでた奴は一旦別の会場で受けろ!」


 トーマスは俺から顔を逸らし、魔術の轟音を聞いて騒ぎに駆けつけてきた教師へと指示を出す。

 俺はトーマスの手を掴む。


「話を聞いていただきたい。俺は正規の方法で合格点を得たいのだ。そんな投げやりな点数では納得できない。青春を共にする学友達とはなるべく対等な関係でありたい」


「こ、これだけやっといてお前……もう色々、そういう次元じゃないだろうが!」


 トーマスは顔を青くして叫ぶ。


「あ、あはは……魔術試験……魔術試験は、自信、あったのに……」


 俺の後方で、ルルリアががっくりと肩を落としていた。

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