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「譲太!こっちこっち!」
駅に着くと、大声で俺の名前を呼んで、こちらに向かって手を振る男の姿が目に入る。
「慎平、目立つだろ。やめろ」
早くその大袈裟な身振りをやめさせるために、速足で慎平の下へ駆け寄る。
慎平はそんなのお構いなしに、笑って俺の背中を叩いた。
「おう、辛気臭い顔してんなー相変わらず」
こいつはおれと違って、昔から底抜けに明るい奴だ。
今は有名な大企業で営業としてバリバリ働いている。
慎平と一緒にいると、肩ひじ張らずに居られるのがいいところだ。
「うっせ。今日はどこ行くんだよ」
「今日な、とびっきりいいところ連れてってやるよ」
そう言って、慎平は人差し指を上に向けた。
自分の意思がないおれは、こういうときはいつも慎平が選んだ店に連れてってもらう。
そんな他力本願な俺に文句を言わないのも、こいつのいいところだ。
「よっしゃ、行くぞ!」
今日は本当に“とびっきり”いいところなんだろう。
慎平はいつもより不敵な笑みを浮かべながら、俺の肩に腕を回してきた。
飲む前から酔っぱらったような慎平の足取りに、おれは黙って合わせながら歩いた。