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「阿部光には要注意ですよ、三村先生」
4月、この高校に新しく赴任してきた俺は、同い年くらいの女性教師にそう声をかけられた。
「阿部光…ですか」
「もう授業は遅刻するわ、来ても寝るわで、散々ですよ」
波岡先生、だったかな。
若くて綺麗な先生だ。
俺はそう言われてもう一度担任するクラスの名簿を広げてみる。
「へえ…成績は良かったような気がするんですけど」
「そうなんですよ!だから何も言えないっていうか」
高校教師になって4年目、担任を持つのは2回目だ。
3月までいた高校で大抵のことは経験してきた。
不真面目な優等生ってのは、どこにでもいるもんだと再確認する。
「気を付けてくださいね、相談なら乗ります」
「ありがとうございます」
そんなに厄介な子なんだろうか。
少し不安を抱きつつ、俺は見慣れない廊下を歩き、2年2組の教室へと向かった。