表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
8/20

8・おうちに赤ちゃん(仔犬)が待っているんです!

「どうしてここに?」

「ポーションを売りに来たんです」


 反射的にクラウス殿下の問いに答えてしまいました。

 一応まだヴィンター帝国の民ですが、勝手に婚約破棄をしたような人間に個人情報を与えるべきではありません。失敗しました。

 話すこともないのでお暇したいのですけれど、彼はわたしの手を離してくれません。


「そうか、彼女も……彼女? 彼女とはだれだ? 私はコリンナを、俺は彼女を……」

「……クラウス殿下?」


 もう関わり合いになる気はなかったのに、あまりに混乱した様子で呟いているので、つい声をかけてしまいました。手も掴まれたままですしね。

 彼はなぜが不思議そうな顔をします。

 青い瞳から光が消えているように見えるのは気のせいでしょうか。


「クラウス? そうだ、私はクラウスだ。違う、俺は……」

「がうっ!」


 ガルム様が吠えると、クラウス殿下の瞳に光が戻りました。

 その瞬間、彼の手から力が抜けました。

 逃げるなら今です。


「失礼いたしますわ、殿下」

「わふわふ!」


 クラウス殿下は魔術学園と並行して騎士団でも学んでいらっしゃいました。

 そうでなくても美しいのはお顔だけでなく鍛えた体も整っていらっしゃる殿下です、本気で駆けっこをして勝てるはずがありません。

 なぜだか彼が呆けている間に逃げるしかありません。


 しかし森で暮らしているとはいえ、狩りひとつしたことのないわたしです。

 気がつくとクラウス殿下の腕の中にいました。

 後ろから抱きすくめられたのです。そんな莫迦な! わたしは必死で走っていたのに、クラウス殿下は一、二歩歩いただけですよ?


「待ってくれ、コリンナ。私が悪かった。……謝りたい」


 彼の吐息が耳をくすぐります。

 婚約者だったのに、こんな近くで声を聞くのは初めてでした。

 なんだか三年間の森暮らしで忘れていたものを思い出しそうな気がして、わたしは頭を左右に振り回しました。


「謝罪のお手紙ならいただきました。邪魔になるのでもう出さないでください」

「そんなことを言わないでくれ。少しだけでも話ができないか?」

「家で赤ちゃんが待っていますので」

「……赤ちゃん……?」

「わっふう!」


 さすがガルム様です。

 クラウス殿下の腕の力が緩んだ隙に、近くにあった空樽を蹴り上げて彼を封じてくださいました。

 頭から空樽を被った殿下を置いて、わたしはガルム様と一緒にその場を去ります。村を出てしばらくしたらもう安心。本来の神獣姿に戻ったガルム様の背中に乗せていただいて、可愛い赤ちゃんの待つ小屋へと一直線です。


 ……あのとき、どうしてクラウス殿下は硬直なさったのでしょうか。

 マーナはカタリーナ妃殿下にもらった犬ですし、殿下も宮殿で飼われている仔犬のことを思い出したのかもしれませんね。

 案外わたしがマーナをもらったことをご存じで、幼いころのマーナの姿が胸をよぎったのかもしれません。赤ちゃんのマーナは白くてフワフワで、そりゃもう可愛かったですからね!


 わたしの手を掴んだ彼は力を加減して痛くないようにしてくれていましたが、なぜかその場所はいつまでも熱を帯びたように感じました。

 風邪をもらってしまったのかもしれません。

 仔犬達にうつさないよう、帰ったらわたしもポーションを飲んでおきましょう! 予防用にスタミナポーションだけで大丈夫かしら。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ