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7・望まぬ再会

 久しぶりに来たヘルブスト王国の村は平和でした。

 冬が近いというのに人が増えて活気に満ちています。

 村長さんのお宅を訪れて、ポーションを買い取っていただきました。


「いつもありがとうございます。コリンナ様のお作りになるポーションのおかげで、去年の冬は死者が出ませんでした」


 アンスル公爵令嬢だとは明かしていませんが、貴族の娘だということは気づかれているようです。

 国境沿いの森で魔術の研究をしている、変わり者の令嬢だと思われているのでしょう。


「少ないのですが……」

「とんでもありませんわ。こちらでポーションを買い取っていただけるから、森で暮らしていけるのですもの」


 罪悪感を覚えながら村長さんの差し出すお金を受け取ります。

 アンスル公爵家と絶縁しているわけではないので、お金がなくても大丈夫なのです。

 ポーションに使う薬湯の材料の薬草は森で摘んでますしね。ですが、お父様やお母様にお金をもらうよう言われたのです。薬が無料で手に入ることに慣れてしまったら、いつかわたしが来られなくなったときに困るのは彼らだと。


 そうですよね。ヨハンナ様だって竜の国へ行かれました。

 わたしだって一生森で暮らすとは限りません。

 病気になったり事故で怪我をしたりして、ポーションを作れなくなる可能性だってあるのです。せめて、いただいたお金を使うことでこの村の経済に貢献しましょう。


「ガルム様、少し買い物をしていきますね」

「わふわふ」

「え? あ、そうですね。買い物をしますよ、ガルム」

「わふ!」


 マーナと同じ大きさになったガルム様が神獣だと見抜く人はいないでしょうけど、犬に様付けしている人間は怪し過ぎますものね。

 わたしは小麦粉と牛乳、卵と塩を買いました。

 蜂蜜も欲しかったのですが今は売っていないようです。……クラウス殿下は婚約破棄をなさったくせに、未だにわたしの誕生日には花束とお菓子を贈ってくださいます。


 まあ上辺を取り繕っているのに過ぎないのでしょうね。

 案外止める手続きをしていないから、部下が以前の命令を繰り返しているだけかもしれません。

 皇太子を廃されて、ドロテア様に駆け落ちされてからはどうなさっているのでしょうか。謝罪の手紙はもう出さないでください。ガルム様が火を吐けるので、火種用の紙はいらなくなりました。


「ぐるる」

「ガルム、村の犬にケンカを売るのはやめなさい。……あら?」


 ガルム様が唸っていたのは、村の犬相手ではありませんでした。

 そうですね。マーナにさえ逆らえなくて股下に尻尾を挟んで逃げていく、この村の犬がガルム様に逆らうはずがありません。みんなお腹を見せていました。

 彼が睨みつけていたのは、フードで顔を隠した怪しいマント姿の男です。とはいえ、季節柄わたしもフードをかぶっていますけど。


「……行きますよ、ガルム」


 急いで前を通り過ぎようとしたとき、その男性がわたしの手を掴みました。

 村の人間ではありません。

 わたしがポーションを卸すようになってから、ポーション目当ての旅人が訪れるようになったと聞いています。マーナの悪い予感とはこのことでしょうか。でもこれってガルム様のせいのような?


 秋の風がフードを落として、わたしの手を掴んでいる男性の顔が露わになりました。

 淡い昼下がりの光を浴びて金色の髪が煌めきます。

 端正な顔を彩る青い瞳がわたしを映しました。


「コリンナ!」


 ──クラウス殿下でした。


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