6・おうちが一番ですわ!
季節は秋。
そろそろ冬に入りかけた季節の変わり目は、一番風邪が流行るころです。
暖炉の炎が肌寒い朝の辛さを和らげてくれます。
「可愛いのですわー」
「可愛いのじゃ」
わたしと神獣ガルム様は小屋の床に寝転がって、マーナのお乳を飲む仔犬達を眺めています。
コロコロした赤ちゃんの姿から目が離せません。
「可愛いのですわー」
「可愛いのじゃ」
暖炉で燃えているのは、クラウス殿下からの手紙です。
謝罪の手紙など一通でいいのに、なぜか毎日のように届くのです。
アンスル公爵家が受け取って代書官が返事を書いた後、火種用にまとめて持って来てくれています。最初は懐かしい彼の文字に涙することもありましたが、最近は暖炉に直行です。冬じゃなくても調理や薬湯作りのためには暖炉に火を入れなくてはいけませんからね。
「はうーなのですわー」
「はうーなのじゃ」
「きゃうん?」
仔犬を眺めるのに忙しいわたし達を見て、マーナが首を傾げます。
「だ、大丈夫よ? 毎年ヘルブストの村には風邪予防のスタミナポーションと罹ったとき用のキュアポーションを届けているけれど、今年はまだ温かいから。朝晩が少し肌寒くなっただけですもの」
「わ、わしが狩りに行かんでも今夜の夕食の肉はあるのじゃろ? コリンナよ」
「きゅうん?」
飼い主のわたしが言うのもなんですが、神獣ガルム様の心を射止めただけあって、マーナは美しく賢く気高い犬です。
黒く濡れた瞳に見つめられ、わたしの胸が疼きます。
「……ヘルブスト王国の村へポーションを届けてきます」
必要な量はもう完成させています。
仔犬達と離れるのが嫌で行く日を延ばしていたけれど、向こうの方々はきっと期待して待っていらっしゃいますものね。
三年前に初めて持って行ったときは、伝説の救いの魔女様の再来だと歓迎されましたっけ。かつてヨハンナ様が疫病の蔓延していた村を救ったのだそうです。
「……わしも狩りに行ってこようかな」
「きゃふ!」
「わふ?」
「ガルム様はいらっしゃったばかりなのですから、家族水入らずでお過ごしくださいな」
言いながら立ち上がると、ガルム様も体を起こします。
「いや。コリンナの護衛としてわしも同行しよう。薬は早く届けるべきだが悪い予感もすると、我が妻マーナが言っておる」
「まあ。村になにか起こっているのかしら」
なにしろ祖国ヴィンター帝国ではなく隣国ヘルブスト王国の村ですから、アンスル公爵家に見守るよう頼むわけにもいきません。
「なぁに。なにが起こっていようとも、わしが行けばすぐに解決じゃ」
「さすが神獣ガルム様ですわ」
「ひゃうん」
「ひゃうんひゃうん」
「ひゃうんひゃうんひゃうん」
「きゅうん!」
お乳を飲み終えた仔犬達と愛しい妻にも称賛されて、ガルム様の尻尾が踊っています。
火のついた手紙の破片が暖炉から飛び出しそうなので、ほどほどでお願いしますね。
準備を終えて、わたし達は旅立ちました。この小屋だとアンスル公爵領よりもヘルブスト王国の村のほうが近いです。
「行ってきます」
「行ってくるのじゃ」
「「「……」」」
「きゃふ」
お乳を飲んでお腹いっぱいになった赤ちゃん達の寝息が聞こえます。なぜか赤ちゃんって一瞬で寝ますよね。
我が家は楽園です。
早く用事を済ませて帰りましょう!