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4・拗らせて初代

「……わふう」


 扉の外には、申し訳なさそうな顔をした黒い犬がいました。

 わたしを背中に乗せられるくらい大きな犬です。

 魔獣フェンリルではありません。あれは狼ですからね。犬と狼の違いは、実はよくわからないのですが。


「……神獣ガルム様?」

「うむ。小さくなって中に入っても良いか?」


 クラウス殿下との婚約を報告しに行ったときお会いした神獣ガルム様が、マーナと同じくらいの大きさの犬に変化します。

 そういえば婚約破棄のときは報告に行きませんでしたね。

 悪意などないのでしょう。ガルム様が小屋の中へ進みます。


「きゃふ!」


 マーナが嬉しそうな声を上げました。

 ……え? もしかして?

 わたしの視線を受けて、神獣ガルム様は頷きました。


「うむ。おぬしが思っている通りじゃ。わしはマーナの夫。彼女が産んだ仔犬達の父犬じゃ」

「ガルム様はずっと神殿にいらっしゃったのでは?」

「以前ヨハンナの魔術研究で召喚されてから、この森へは転移できるようになったのじゃ。たまに遊びに来ておっての。朝の散歩中のマーナと出会い、恋に落ちた」


 神獣ガルム様は本来冥界の存在、闇の神様の眷属です。

 地下に眠る資源を巡る戦乱に明け暮れていたこの地を憂えた闇の神様によって遣わされ、神殿の創立者聖女エミリア様とともにヴィンター帝国建国に尽力し、その後も守護を誓ってくださっていると言われています。

 鉱石などの地下資源が豊富な代わり魔獣も多いこの土地は、ガルム様の存在によって守られているのです。……魔獣フェンリルはいなかったようですね。


「出産直後の母犬は興奮しているから会うのを我慢しておったが、もう限界じゃ。わしも仔犬達と一緒に暮らしたい!」

「ひゃん?」

「ひゃんひゃん」

「ひゃんひゃんひゃん」

「おお、我が子達よ!」


 赤ちゃん達が、ヨロヨロとしたおぼつかない足取りでガルム様へ向かいます。

 父犬だとわかっているのでしょうか。

 マーナはゆったりとした慈愛に満ちた表情でそれを見守っています。


「わたしは良いのですが、ヴィンター帝国は大丈夫なのですか? 神獣ガルム様は聖女エミリア様とともに帝国の守護を誓われたのでしょう?」

「わふ?」


 ガルム様は首を傾げました。

 ううう、神獣様相手に不敬だとわかっていても可愛いです。

 父が黒犬、母が白犬だったから、仔犬達は黒、白、灰色だったのですね。


「わしもエミリアもそんなことを誓った覚えはないのじゃ。あの初代皇帝とかいうヤツが勝手にわしの家を作って餌を貢いでくれただけじゃぞ? 兄上達と仲直りした後は冥界へ帰っても良かったのじゃが、たまにエミリアの血筋の顔を見るのが楽しかったから留まっておったのだ」

「……え?」


 神獣ガルム様が冥界からこの世界へ来たのは、仔犬のときに兄犬様方とケンカしたからだそうです。

 そしてエミリア様に拾われ、たまたま初代皇帝と知り合ったのだとか。

 後、ヴィンター帝国の伝承では聖女エミリア様は生涯純潔を守ったと言われていますが、本当はアンスル公爵家の先祖であるアンスル王国の王子と恋をして帝国から去って行ったらしいです。


「寂しかったが、当時のわしはまだ仔犬で自分の力を制御できなんだ。初代皇帝の側にいたほうが暴走したときに安全だと思い、ついて行かなかったのじゃ」


 ヴィンター帝国の初代皇帝は聖女エミリア様が好きで好きでたまらなかったのですけれど、全然相手にされていなかったと言います。

 まあ、なんだかんだで別の女性と子孫を作っているのですから、その程度の気持ちに過ぎなかったのだと思います。でも彼の念のようなものが皇族の血に残っていて、それがアンスル公爵家の令嬢を求めさせていたのだとしたら怖いですね。

 『アンスルの呪い』の原因ってそちらなのかしら。


 元々帝国を守護していなかったのなら、この小屋で暮らしても問題はないでしょう。

 わたしは、毎晩毛皮に櫛をかけさせていただくことを条件に神獣ガルム様を迎え入れました。あ、神殿の人間が神獣様不在で責められたりしないようニセモノの影を置いて来たそうですよ。

 というわけで、モフモフがいつつです! 夫婦犬でイチャイチャしてるのも、親犬仔犬が仲睦まじくしてるのも可愛いですわーっ!


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