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カロリメト  作者: 甘木銭
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ヨハアケテ

「つまり、別れたいってこと?」

「そうは言ってないけど...でも、このままあなたに持たれたっぱなしじゃダメだと思うの。ついつい甘えちゃうから、だから...」

「なら、自分で言わなくちゃいけない。俺に言わせちゃダメだ。自分の為なら...」

 その後は、駅まで二人で手を繋いで歩いた。そして...



 ---------------



「はは...は...」

「...あのカップルに何かあったの?

 ひとしきり笑い終えた所で志乃が僕に声を掛けた。だが僕は答えることが出来なかった。志乃の言葉の意味を理解することが出来なかった。それくらい僕の頭の中はぐちゃぐちゃになっていた。

「とりあえず、こっちおいで。」

 そう言って志乃が僕の腕を引っ張る。なんとか立ち上がった僕は、それでも何も考えることが出来ないまま志乃に引かれて歩き出した。

 しばらく歩いていたただろう。気が付いたら僕は駅にいた。

「落ち着いた?ほら、水。」

「ひゃぁい!?」

 首筋を中心に体全体がゾクッとなった。

 どうやら、志乃が冷たい水の入ったペットボトルを首元に押し付けてきたらしかった。

「なんてことするんだ。」

「なんだ、反抗する元気は残ってるんだ。いいじゃないのこれくらい。心配かけた罰だからね。」

 ここに来て僕は、どうやらまたしても彼女に助けられてしまったらしいことに気付いた。物理的にも、精神的にも。

 それが何だか癪で、でも少し嬉しくもあった。

 そんなおかしな感慨に浸っていると、志乃が隣のベンチに座りながら僕に微笑みかけて来た。志乃は笑顔もやっぱり綺麗だった。

「さ、それじゃゆっくり話を聞かせてもらおうかな?ん?」

 しかしその綺麗な笑顔にはおびただしい量の殺意が込められているようだった。

 ああ、僕はもうここで死んでしまうのではなかろうか。




 ---------------




「なるほど、あの子も中々やるのね。」

 一通り事情を説明し、話を聴き終わった志乃の第一声がこれだった。

「まだ奈央だと決まった訳じゃないけど...」

「は?あんたの中で確信があったからあんなに取り乱したんじゃないの?」

「いや、まあ、確かにあの時は間違いないと思ってたけど、でも今になって考えてみるとほんとにそうとは言い切れない感じで...」

「うじうじしてるなぁ。でもあんたが確信持ったんならまず間違いないと思うけど。なんか直感的に分かるもんだよ、そういうの。」

「そうなのか?」

「そうなのよ。」

 断言されてしまった。僕はビッチが苦手なので何となく逆らえない。とまあ、それは冗談にしてもなんとなく今は恐縮してしまって、反論する事が出来ない。みっともない姿を見せてしまった後だということもある。

「うーん、振られた直後に女を呼び出す彼氏と振った直後に男を呼び出す彼女か。逆に今までよくやってこれたね。」

「待て、呼び出したとは限らない。呼び出されたのかも。」

「一緒でしょこの場合。呼び出されてホイホイついて行くのもどうなのよ。」

 なるほど、それもそうだ。これは一本取られた。

「ちょっと携帯貸して。」

「え、なんで...」

「いいから!まだ連絡先残ってんでしょ?私が一発ガツーンと文句言って...」

「やめてくれよ、別に文句を言いたい訳じゃない!」

 これは本心だった。僕は別に振られた腹いせをしたい訳でも、復縁をしたい訳でもない。

 男とラブホテルから出てきた事にも驚きはしたが、決して奈央に未練がある訳では無い。

「...もう、好きにすればいいじゃん。」

 志乃が拗ねてしまった。僕は何か悪いことをしてしまっただろうか。

 とりあえず、今日の所はこれで別れることにした。




 ---------------




 来る者拒まず去るもの追わず、失った物や手に入らない物には執着しない、と言うのが僕のモットーだった。そのモットーは時に僕を守ったが、同時に幸せを手放していたようにも感じた。


 朝起きた僕はいつも通り顔を洗って、いつも通り大学に行く準備を進める。いつも通りじゃないのは、奈央と連絡を取らないことだけ。ふと、今までどんな会話をしていっけと思ったが、トーク履歴を消してしまったのでもう振り返ることも出来ない。思い出そうとしても、特に何も思い出せなかった。




 ---------------




「大丈夫?なんか顔色悪いけど?」

 講義が終わると、志乃に呼び止められて大学のカフェテリアに来た。普段大学に来ていない志乃がなんで今日はいるんだろうと思ったら、聞く前に教えてくれた。

「あんたの事が心配だったからね。」

 ふむ、心配してくれているのか。心配してくれる人がいるというのはなんだか嬉しいものだ。僕は調子に乗って少し高いコーヒーを飲むことにした。

「言っとくけど、奢らないから。」

 なんという優しくない。そういえば、ラブホテル代も結局僕が出した気がするぞ。まあ、自分で蒔いた種なのであまり気にしないことにする。

「で、その後元カノとは会った?」

 元カノの部分を嫌に強調してきた。きっと昨日僕に訂正されたことを根に持ってるんだろう。というか、そんな何気ない事を覚えていたのが少し不思議だった。

「いや、全く見かけてない。もしかしたら今日は来てないのかも。」

「そっか、なら良かったね。」

 そう、良かった。さすがに昨日の今日で顔を合わせるのは気まずすぎる。ハッキリ言って死ねる。

「で、あんたどうするつもり?もう立ち直ったわ...」

 急に志乃の顔が凍りつくのを感じた。こいつは美人なのに動揺すると本当にブサイクになるなと思った。

「伏せて!」

 志乃が小声で、まるで洋画の襲撃シーンのようなセリフを言う。僕は戸惑いながらもその場に伏せることにした。こういう時素直に従わないとゲンコツが飛んでくるのがこのゴリラだ。

「どうしたんだよ。」

「元カノ襲来!」

 なんと、志乃の不審な行動は僕を庇うためのものだったらしい。ありがた迷惑な気もするが。

「どこ?」

「おそこあそこ!」

 志乃が必死で指さす方を探してみたが、奈央の姿はどこにもなかった。

「どこだよ?」

「だからあそこだって、見えないの!?」

 見えないのと言われたって、見えないものは見えないし、見つけられないものは見つけられない。どんなに辺りを見渡しても、どこにも奈央の姿は無い。志乃の指さす方には数人の女子が固まっているだけだ。

 大体、そんなに人がいる訳でもないこのカフェテリアで目につかないということは、普通にここには居ないと考えるべきだ。

 志乃にからかわれたかな、と思いながら頭を上げる。

「もうそういうのいいから、恥ずかしいし頭上げなよ。」

 志乃は目と鼻の穴をカッと開きながら、信じられないというような調子で言う。

「あんた...ホントに見えてないの...?」

 よく分からなかったので、とりあえず曖昧に笑って濁すことにした。


 僕の中の何かは、まだ壊れたままだ。




 ---------------



 好きになった人の頭がおかしくなってしまった場合、私はどうすればいいでしょーか。

 誰でもいいから教えろください。

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