天狗様、潜伏す(13)
「る……水咲さん、ありがとう! ちゃんと打てたよ!」
「私も偉そうには言えませんけど、良かった……」
理科室以降、なんとなく距離を少しだけ詰めてくれるようになった瑠璃さんのレクチャーのおかげで、初めてちゃんと九字切りを最後までやりきる事が出来た。
思っていたより大きな音がしたけど、壁や天井には傷はないし、大丈夫だろう。
二人で喜んでいると、九字を放った空間がぐにゃりと歪み、さっきまではなかった輪郭が現れだした。
片方は大きな体躯の男性、片方は最近昼も夜も顔を合わせる見知った人――
「やった! 僧正坊さん、豊前さん! 見つけましたよ!」
はっきりと露わになったその姿を見て、思わずピースサインを作って宣言した。
二人ともなぜか床に座り込んでいたけれど、豊前さんはにっと笑ってくれた。僧正坊さんは…………何故か怒ってる……。
「あ、あれ……? なんで怒ってるんですか?」
「なんでも何もあるか。人が話しているところに、性懲りもなくいきなり九字なんぞ打ちおって。なんて暴力的で無粋なんだ、貴様は!」
「え、ええええっ!? 驚かせたのはすみませんけど……話してるかどうかなんて知らないし……だいいち今、逃げたり隠れたりしないといけないんじゃ……?」
「まったく、ああ言えばこう言う。おい狐娘! 貴様があの九字切りを指南したのか!?」
「は、はい! すみません!」
瑠璃さんは、まったく悪くないのに震え上がった。僧正坊さんの目は、それだけつりあがっていた。
身を固くする瑠璃さんに、僧正坊さんは視線を向けて……
「この暴力娘の九字を、さっきの可燃性ガスをばら撒いたような酷いモノから、まあまあ形になっている状態にもっていったな。よくやった」
「…………え?」
え、褒めてる?
ていうか私の方のけなし方がひどくない?
「僧正坊、何が言いたいのだ?」
豊前さんが、落ち着いた声でまっとうなことを聞いてくれた。
僧正坊さんは意外と短気で、怒ると話がまとまらなくなりがちなのだ……。
「狐娘の指南は良い。暴力娘はもう少し威力を制御できるように努力しろ。あれでは爆破テロだ。そのうち絨毯爆撃でもやるつもりか?」
「何なんですか、その扱い! ゴ〇ラですか! モス〇ですか!!」
「あの怪獣の方が人間を守っている時があるだけ常識的と言うものだ」
「ひ、ひどい! だったら神の眷属のくせに私たちを呪って殺そうとしたあなたは何なんですか!」
「古い話を持ち出すな!」
「たった1ヶ月ほど前です!」
「いい加減にせんか!」
豊前さんが珍しく声を荒らげると、後ろにいた瑠璃さんがことのほかびくっと竦んでいた。一番気にしなくていい人を怖がらせてしまった……。
だけど瑠璃さんはびくびくしてはいたけど、おそらく豊前さんが一番話が通じやすいと悟ったのか、おそるおそる話しかけていた。
「あ、あの…………たろう、さん……は……?」
「うむ?」
そういえば、私がルール化したんだった。太郎さんは、瑠璃さんが見つけるって。
「ああ、太郎なら逃げたぞ。だがつい先ほどのことだから、まだ近くにいるのではないか?」
「わかりました! あ、ありがとうございます!」
瑠璃さんは、豊前さんに向けてしっかりとお辞儀をすると、その横を通り抜けて走って行ってしまった。
「水咲さん、頑張って!」
「うん!」
頷いたその顔には、どこか逞しい笑みが浮かんでいた。自身がついたんだろうか。
「何故一人で行かせる? 手伝ってやればいいだろうに」
「さっき、ちょっと話して……約束したんです。太郎さんは、瑠璃さんが一人で探して、一人で見つけるって」
「ふぅん……よくわからないな。合理的じゃないね」
「男には男の意地があるように、女子にも女子の意地があるのだろう」
「さすが豊前さん。わかってらっしゃる」
「……俺も、理解は出来んがな」
「あはは……」




