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天狗様といっしょ  作者: kano
第二章
96/210

天狗様、潜伏す(12)

「遅いなぁ、藍……大丈夫かなぁ」

「うるさいよ、太郎。さっきの悲鳴を気にしてるのなら時間の無駄だろう。あの娘があんなしおらしい声を上げるものか」

「僧正坊……藍のこと、何だと思ってるの……?」

 藍たちが清光坊のイタズラのせいで時間を喰う羽目になっていたその時、太郎、治朗、僧正坊、豊前坊の4人はちょうど1階上の図書室にいた。

 残りの4人が揃って目と鼻の先にいるというのに、余計な足止めを喰らったことになる。清光坊が後でもう一度怒られたことは、また別の話だ。

「まあ、今度は三郎に前鬼・後鬼どの、それに法起坊さまもついているのだ。案ずることはあるまい」

「むしろ、我々自身の身を案じた方がいいかもしれませんね、兄者」

「うん?」

「確かに……あれは、危険だな」

 治郎の言葉に、僧正坊と豊前坊が揃って頷く中、太郎だけが首をかしげていた。

「そう? 僕……実はちょっと安心したんだけど」

「あ、安心だって!?」

「どこが……ですか?」

 治郎の声に緊張が走った。

「先ほどの藍の九字の威力は、明らかに早九字の粋を超えていた。管狐たちどころか、下手をすれば隣にいた水咲、果ては藍自身まで大けがをさせていたかもしれない。それの何が……」

「それは……僕を責めているの? それとも純粋な疑問?」

 治郎の荒い声にも、太郎は眉一つ動かさない。太郎こそ、治郎に尋ねているのではない。落ち着けと、諭しているのだ。

 治郎は一度息をついて、再び太郎を見据えた。

「失礼しました。疑問を抱いていることは確かです」

「うん、じゃあ答えるね。藍にはね、心強い守り神がついてるんだよ。それがちゃんと機能してるってわかったから」

「……は? 守り神?」

「そんな話は初耳だが」

「というより、守り神がついていると言うなら、治郎はなんのために着けてるんだい?」

「守り神って言っても万能じゃないんだよ。藍の力を中から制御してくれる役割って言えばいいかな。だから藍の周囲に目を光らせて何かするのはできないんだよ」

「なるほど。それで、今までは機能していなかったと?」

「藍がちゃんと術を使えなかったのは、それが原因だと思ってたんだ。でもここぞという時にちゃんと働いてたからまぁ、最悪の事態は避けられるかなって」

「先ほど九字が無力化されたのは、兄者の術ではないのですか?」

「僕はあんまり何もできてないよ。何かしようとした時にはもうほとんど無効化されてた」

 治郎と僧正坊が顔を見合わせる中、豊前坊が考えを巡らせながら、ぽつりとつぶやいた。

「三郎とも話していた。あれは、藍自身ではない何者かが干渉したような消え方だったと」

「僕も、そう感じた」

「干渉、ですか」

「それで、その干渉してきた”何か”の見当はついているのかい? 大天狗たちを前にして随分と大胆なことをするね」

「まあ、一応は」

「……誰だい?」

「言わなきゃダメ?」

「君が、私達にもあの暴力娘を守るよう働けと言うなら、教えてもらわねば困るな」

「その通りだ、太郎」

 僧正坊、豊前坊が揃って神妙に頷いた。太郎に、視線を外させまいとしている。治郎もまた、太郎から視線をそらさずにいた。

 太郎は、3人の視線をうけて、一瞬の瞑目の後、口を開いた。

「それはね――」

 その先の言葉が、声になろうとした――その時、太郎の眉がぴくりと跳ね上がった。

「あ、まずい。バカ娘が来る。逃げなきゃ」

「え」

 太郎は短く告げると、さっさと向きを変えて立ち去ってしまった。ほんの一瞬のことだった。

 それまで息を呑んでいた三人には、止める間もなかった。

「……あ、ちょっと! 待ってください兄者!」

 同様に、治朗までが止める間もなく行ってしまった。残された僧正坊と豊前坊は唖然としたと言うより……呆れた。

「逃げられたのかな、これは?」

「さあな。藍たちが近づいているのは間違いないが」

「そんなに出し惜しみするような情報か?」

「……俺ならばさっさと話して協力を仰ぐが……太郎の考えることは時々わからん」

「やれやれ。つくづく変わった奴だよ、太郎は」

 僧正坊はため息交じりに肩を竦めた。

 やぶさかではない――と言っているのに、肝心の太郎が協力する姿勢を見せないのではどうしようもない。

 どうしたものか。二人そろって同じ言葉を浮かべたその時――

「臨・兵・闘・者・皆・陣・烈・在・前!!」

 至近距離で耳が裂けんばかりの大声が鳴り響き、同時にとてつもない衝撃が二人を襲った。手榴弾を放り込まれて起こるような爆風に煽られたかと思ったら、二人それぞれが自らの周囲に張り巡らせていた見えない壁が、音を立てて崩れ落ちていった。

 まるで……爆破テロではないか……。

 僧正坊が苛立ちとともに大声の主を見た。案の定、そこに立っていたのは――

「やった! 僧正坊さん、豊前さん! 見つけましたよ!」

「この……暴力娘……!」

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