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天狗様といっしょ  作者: kano
第二章
93/210

天狗様、潜伏す(9)

「あっちなのー」

「こっちからも感じます」

「あ、向こうに行っちゃった……」

 狐ちゃんたちが加わったおかげで、午後の捜索はだいぶんとはかどってきた。普段から三郎さんの諜報活動を手伝っている……というか、後に諜報部員として活躍する管狐の卵たちの嗅覚と直感は、想像以上に鋭いものだった……!

「お、お前たち、ちょっとそのへんにしとけ。お前らが見つけちまうと、お姉さんたちの修行にならないだろ」

「応援するって言ったの~」

「応援するって言いました」

「応援したい……」

 3人揃って同じことを言った。

 どうやら三郎さんに言われたことを強く強く意識しているらしい。ありがたいし、可愛い……!

「う~ん、みんなありがとう! 助かるよ~。じゃあまず……セイさんはどこ行ったかわかる?」

「わかる!」

「あっちです」

「逃げた……」

「よし、追いかけよう~」

「ち、ちょっと待って……私そんなに速くは走れないですよ……!」

 3人ははしゃぎながら廊下の向こうへ走り出した。もちろん、私たちのペースに合わせてくれる。

 でもこれは、ズルにならないかなとちょっと心配になるけど……まぁいいか。



 鈴のようなはしゃぎ声を聞きながら、三郎と法起坊はその場でその姿を見送った。5人を影ながら見守る役目は、前鬼と後鬼が果たしている。

「やれやれ元気だな」

「まあ、あの二人だけで行動させるよりは安全だろう」

 一緒に行動すれば、誤って攻撃対象になることもないだろう。そう考えて管狐たちを二人につけたが、どうにも張り切りすぎている。

 かえって二人の修行の邪魔をしてしまわないか心配だが……楽しそうにしているので、三郎はそれ以上は言わないことにした。

 その代わり、法起坊に向けて、少し固い声で尋ねた。

「まあ、そうですね……しかし親父どのはどう思われますか?」

「うん? 天狐の娘とやらか?」

「あの娘もですが……俺はそれよりも、お嬢の方が気になる」

「それはそれは……太郎には黙っといてやる」

 くつくつと笑う法起坊を、三郎はねめつけた。

「茶化さんでください。天狐の娘さんの方は……正直、想定内の才能と実力かと思います。だがお嬢があれほどとは……」

「……確かにな」

 法起坊は笑うのをやめた。三郎の危惧がわかったからだ。

 法起坊自身は件の現場には居合わせなかったが、離れた場所からでも、藍がとてつもない力を放とうとしていたことを感じられた。

 あれほどの力を感じる人間を、法起坊は自身を含め数えるほどしか知らない。

「太郎や天狗の頭領というならば頷けますが、人間であれほどとは……」

「儂は、そうは思わんな。お前はあの子の前世という姫を知らんのだろう?」

「はぁ……」

 三郎は、予想と違う返答に少し困惑した。

「あの藍姫という娘も、それは強い力を持っておった。藍と違うのは、環境だな。生まれた時から優れた陰陽師が傍につき、厳しい修行を課していた。それゆえ、幼い頃から自らの力を使いこなしていた。なんとも末おそろしい子だったよ」

 天狗として、遠い血縁として、法起坊はかの姫と対峙したことがあった。

 今でも覚えている。目を見ただけで心が洗われるような、澄み切った清らかな気を全身に纏っていたこと。

 藍に初めて対面した時、言葉とは別に直感で理解していた。この娘はあの姫と同じだと。身に纏う気が、あの姫を彷彿とさせるどころか、見紛うほど似ていたから。

 そして同時に、彼女の身の上を案じもした。藍は、おそらく藍姫以上の力をその身に宿している。その上で、藍姫ほどの師もついていないとなると、いったいどうなるか……。

「優れた陰陽師……ですか」

「ああ。だから今の藍に必要なのは、まさしく修行だと思っている。あの強大な力を自らの意志で使いこなせるための、な。あの時、管狐たちを傷つけるようなことになっていたら、きっとその心も折れていただろう。太郎は本当に、よくやってくれた」

「……もう一つ、それも気になっていた」

「なんだ?」

「親父どのはご覧になっていないでしょう。先ほどの瞬間を」

「ああ、呼ばれてから行ったからな。管狐たちに九字を切ろうとしたところを、太郎が気を吸い上げることで打ち消したと聞いたが?」

 三郎はしばし瞑目した。どう言えばいいか、言葉を探しているようだった。

「ええ、そういうことになっています。だが、俺にはそうは見えなかった」

「ほう?」

「太郎に気を吸われたなら、もっとゆっくりと霧散するように消えるものだと思うのです。だがあの時、九字の光はこう……押しつぶされるように一瞬で消えた。まるで誰かが干渉したみたいに……」

「……そういうこともあるんじゃないか?」

「ええ、ただの勘ですけどね。ただ、太郎に聞いてみたらやっぱり言っていたんですよ。そんなには吸えなかった、と」

「ふむ」

 三郎の話は、あくまで仮定のそう見えたというものであって、なんの確証もない。おまけに前例のある話でもない。この場で論じてどうこうなるものでもなかった。

 だが三郎は、重々しい表情を変えなかった。

「良くも悪くも一番影響があるのはお嬢だ。”ただの勘だ””そういうこともある”で、その場限りの話で終わらせてはいけない気がしましてね」

「なるほどな……その話、太郎には?」

「さきほど」

「ふむ。ならばあいつのことだ、何か手を講じるだろう。儂らをどんな風に使おうともな」

「そうですね」

「しかし……お前自身、藍には何のかかわりもないだろうに、随分気に掛けるな?」

「そりゃあ、管狐たちが世話になってますし。何より……」

「なにより?」

 三郎の顔が、ふっと軽くなった。口の端が持ち上がり、目尻が少し下がった。

「お嬢の飯は……いや、お嬢と太郎が作る飯は美味い。あいつらには、一緒にいてもらなわいと、困るんですよ」

「確かに……ありゃあ絶品だ」

 二人は、また藍たちの向った方を見て、ほんの少し笑った。

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