天狗様、潜伏す(7)
想定していたよりも少し早い昼休憩を、私達は空き教室でとることにした。天狗の神通力を悪用……じゃなくて活用して、鍵のかかっているはずの教室に入り込んだのだ。
待ち望んだ休憩、お弁当タイムだと言うのに、皆さんの表情はどこか重い。それもこれもすべて、教室中に響き渡る、ぐずぐずいってる泣き声のせいだ。
「うぅ……僕……僕、助けようとしたのに……」
私のせいであやうく管狐ちゃん達に大けがをさせてしまうところだったこと、太郎さんが咄嗟に私の気を吸いあげることで九字そのものを消し去って事なきを得たということ、突然過ぎて余裕がなくて身体ごと抱きすくめる以外に方法がなかったこと……等など。
事情は、すべて聞かせてもらった。だから納得は一応した。
だけど、認識していない状態で抱きついてるのはいくら何でも反則だろう……と、咄嗟に思ってしまって、つい……
「藍、いい加減に一言謝らんか。いきなり投げ飛ばすなとあれほど言ったろうが」
「……知らない!」
そう、つい……一瞬反省して油断した太郎さんに、一本背負いをかましてしまった。事情があったって全部が全部のみ込めるわけじゃないのだ。
治朗くんが私にお説教かまそうとしてくるのも、いつもの通りぷいっとそっぽ向こうとしていた。が、その先で、神妙に頭を下げられた。
「すまん、お嬢! この通りだ」
「え、ええっ? なんで三郎さんが?」
「俺が管狐たちから目を離したせいだ。あいつはそれを助けてくれたってだけなんだ。この場は俺に免じて、どうか太郎を許してやってくれ」
ちらっと三郎さんの背後を見やると、管狐ちゃん達3人が身を寄せ合っていた。あの時、私が向けた九字がよっぽど怖かったらしく、しばらく全員が泣き叫んでいた。時間がたった今でも震えている。
私は、知らなかったとはいえ、酷いことをしてしまったらしい……。
「それは……悪いのは私も、です。よく確認もせずに、いい気になってあんな危険なことしようとして……」
「藍、あまり気に病むな。飯綱法の使い手のくせに管狐たちを制御できなかった三郎に責がある。それに俺も、どういうことになるか考えが及ばなかったせいで、狐たちを追うのが遅れた。俺と三郎、二人の責任だ」
頭を下げる三郎さんに代わって、豊前さんがそう言ってくれた。
「いや、そもそもこういうことになる危険性を考慮しなかった主催者の責任だろう」
私が淹れてきた冷たい麦茶をすすりながら、よく通る声で法起坊さんがそう言った。知らず知らず、全員がその言葉に耳を傾けていた。
そして、主催者……いや首謀者に目を向けた。
「どう思う? 主催者よ」
名指しで問われた太郎さんは、涙を拭って法起坊さんに顔を向けた。心なしか、姿勢を正して。
「……申し訳、ありません」
「謝る相手は儂じゃなかろう」
言われて、太郎さんはくるりと向きを変えた。
「三郎、狐ちゃんたち、申し訳ない」
「いや……」
頭を下げられた狐ちゃん達も、そろそろと太郎さんを見上げた。太郎さんとの関連性が分かっていないのだろう。
太郎さんはその後、私にもきちんと向き合った。
「藍、危ないことさせてごめん」
神妙に頭を下げる太郎さんに、少し戸惑った。ここまで殊勝な謝り方をされることは珍しい。意固地になっていた自分が、恥ずかしくなってくる。
「い、いえ……私も、投げ飛ばしたのはごめんなさい……」
「ううん。君が与えてくれる痛みなら喜んで受け入れるよ」
爽やかに残念なこと言ってる……。これさえなきゃ、なぁ……。
と、考えていたところに、大きな手打ちの音が響いた。法起坊さんだった。
「さぁ、謝罪会見はこのあたりで終了! 昼飯&午前の活躍の振り返り会にするぞ」
法起坊さんの一声で、みんながお昼の準備を始めた。こうやってみんなの気分を強引にでも変えてくれるあたり、本当に、さすがだと思う。




