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天狗様といっしょ  作者: kano
第一章
9/210

天狗様、集う(3)

「俺は、飯綱山の大天狗”飯綱いづな 三郎さぶろう”の大将だ。よろしくな」

 『飯綱三郎』……さっき読んだ本に出てきた。

 確か――管狐を使役する、日本で3番目の天狗と称される大天狗。

 そんな人が、ただの一般人の私に、にっこり笑っている。恰好はどう見ても人間のお兄さんなんだが、背後に広がる漆黒の翼がそれを否定する。

「ん? どうした嬢ちゃん?」

「びっくりしてるんだよ、羽しまい忘れてるし」

「おっと、そうか。ここは山じゃないんだったな」

 からから笑いながら、三郎さん(と呼んでいいのかな?)はどこかへと翼をしまい込んだ。その下では、真っ白な毛並みの狐たちが落ち着きなくきょろきょろしている。

「あの……山南藍です。この家の娘です。」

 ぺこりとお辞儀をすると、何故か狐たちも一緒にお辞儀を返してくれた。

「今日は厄介になるよ。俺のことは気軽に”三郎”と呼んでくれ。しかし、なるほど……」

 三郎さんはじっと私の顔を見つめている。どこか面白がってるような雰囲気だ。

「あの……?」

「いや、すまん。気にしないでくれ」

「……あの、私も気になることがあるんですが……いいですか?」

「おう、何だ? 何でも聞いてくれ」

「さっき羽がありましたけど、飛べるんですか?」

「おうとも! お望みなら今からでも大空の散歩コースに連れてってやろうか?」

「いえ、それは結構です。ただ……」

「ただ?」

「飛べるんならどうして、狐さんたちに乗ってるんですか?」

「え」

 ちらっと下を見る三郎さん。

「す、すまんお前たち! もういいから! 戻ってくれ」

 慌てて狐さんたちから降りると、必死に狐さんそれぞれに言った。

 すると狐さんたち、輪郭がぼやけて何やら光りだした! それも一瞬で、すぐに光は人間の形に収束した。その姿は……

「か……可愛い!!」

 思わず洩れた声は私のものだ。だって……可愛いんだから!!

 光の中から現れた……いや、白い狐たちが姿を変えたのは、3人の小さな女の子たちだった。3人それぞれ少し違う毛色をしているが、服装はおそろいになっている。なんだかアイドルグループのようだ。

「ご主人様、もういいの? コハク、まだできるよ!」

「ヒスイは……もっと乗っててほしい」

「こら、ご主人様がこまるでしょ! お仕事できているんだよ!」

3人の幼女たちはきゃいきゃいしながら三郎さんの足元ではしゃぐ。

「こ、こらお前たち。ちゃんとご挨拶しないか。太郎坊と治朗坊と、二人がお世話になっているお姉さんだぞ」

「は~い」

3人揃っていいお返事を返すと、こちらに向き直って、ピッと背筋を正す。

珊瑚さんごです」

赤毛まじりの子がきっちりと話した。

琥珀こはくで~す!」

小麦色の毛並みの子が元気いっぱいに言った。

翡翠ひすいです……」

名前通り翡翠色の毛が混じった子がおずおずと言った。

それに対して、こちら側3人もぺこっと会釈を返した。

「どうも、愛宕山太郎坊です」

「比良山治朗坊と申す」

「や、山南藍です……」

この二人に混じって挨拶していいのかわからずにいると、小麦色の毛並みをした琥珀ちゃんがぴょこぴょこ前に進み出た。

「お姉さんニンゲンだぁ! ニンゲンなのにどーして天狗様といっしょにいるの?」

「いや、私もよくわからない……」

「え~? どーして~?」

「こらコハク、”おとなのじじょー”というものがあるの。何でもかんでも聞いちゃダメ!」

「ぶ~」

ちょっと待って……何でもかんでも”おとなのじじょー”でまとめないで……!

「ずいぶん賑やかだね。この子たちまだ見習い中?」

「ああ。つい先日生まれてな。まだ未熟だから俺が手元で教育中ってわけだ」

「教育……?」

「管狐の教育。管狐ってのは、まぁ俺たち術者が使役する狐のあやかしだな。人にとり憑く狐憑きの一種とも言われるが、俺は主に色んな情報収集に役立ってもらってる」

「情報収集……? どうしてですか?」

「現代社会ってのは、情報を制した者が勝つ――そうだろ?」

「はぁ……」

「昔から各地で占術の手助けや、間者の真似事をしていたな」

「ああ、なるほど……えっと、それでどうして3人の幼女の上に乗ってたんですか?」

「なんか言い方が厳しくなってないか? 一応言っとくが、こいつらが乗せたがるんだって」

自分たちが話題にのぼったとわかったのか、3人はまたわらわらと三郎さんの足元でぐるぐるはしゃぎ始めた。

「ご主人様のやくにたちたいの~!」

「狐使いのいげんを示すため、わたしたち狐を乗りまわすのです」

「ヒスイ……もっと乗ってほしい……」

「わ、わかった! わかったから、もうそれ以上しゃべるな……あぁ! そんな目で見ないでくれ!」

太郎さんはわからないけど、私と治朗くんの三郎さんを見る目は完全に冷え切っていた。

「みんな、あったかいミルクとお菓子食べない?」

「たべる~!」

 やはり”お菓子”の効果は絶大なのか、3人はぱっと顔をほころばせて私のもとに走ってきた。

「いや、ちょっと待て嬢ちゃん……! 頼むから誤解だけ解かせて……!」

「諦めろ。ああなったからには、多少の時間がかかる」

 治朗くんは三郎さんの肩にぽんと手を置き、しみじみそう言った。何の励ましにもなっていないけど。

 三郎さんを置いて、私と管狐ちゃんたちは勝手口へ向ったのだった。

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