天狗様、潜伏す(5)
「どう?何か感じる?」
「……何も。そもそも感じるっていうのがよく分からないです」
何か変化はないかと、さっきから廊下や教室を手当たり次第に見て回っているけど、瑠璃さんの反応はあまり良くない。表情もどんどん暗くなっていく……。
なにせ法起坊さんたちが玄関そばで見つかったものだから、見つからないと捗っていないように思えてしまうんだろう。
一階の教室はほぼすべて見て回った。探し回るとなると、たったそれだけの距離でも気力を使ってしまう。
気分を変えたいのと、ずっと気になってるのと、両方の目的でちょっと関係ないことを言ってみよう。
「……敬語やめない?」
「……努力します」
嗚呼、やめる気ない……。
仕方ないか。瑠璃さんから見れば、私は恋敵ってやつだろうし……敵意を持つなって方が無理か。
でももう少しぐらい距離を詰めたい感じはするなぁ……
「あっ!」
「な、何ですか!?」
「太郎さんだよ」
「な、何が……?」
「太郎さんを探せばいいんだよ」
「はぁ……そりゃ、うまく見つかればいいなとは思いますけど」
怪訝な顔をする瑠璃さんの肩を、無遠慮にがっしり掴んだ。
こうでもしないと目を見てくれないから。私の名案を聞いてくれないだろうから……!
「どんな名探偵でも、よく知らない相手をノーヒントで探すなんて無理じゃない。今がまさしくそうなんだよ」
「……はぁ、言われてみれば……」
「でも! 瑠璃さんにとって、ノーヒントじゃない人が一人いるじゃない!」
「そ、それが太郎坊さん……?」
返事の代わりにぶんぶん首を振ると、ようやく瑠璃さんの顔がちょっと明るくなった。
「そっか……確かに」
「ね? いけそうじゃない?」
「は、はい。頑張ってみます……!」
――と意気込む二人を見送りながら、三郎と豊前坊は廊下のど真ん中で微動だにせず立ったまま何やら話し込んでいた。
「おお、あの俯き娘にやる気を起こさせるとはやるなぁ、お嬢」
「しかし……太郎は泣くな」
「間違いなく、な。『僕を見付けるのは藍じゃないとダメなんだよ!』とか言いいそうだな」
「うむ」
その様子を想像することは、二人にとってかなり容易だった。神妙に頷き合いながら、笑いがこぼれる三郎と豊前坊だった。
その傍らで、鈴のような音がした。そして、ひょこっと3つの影が姿を見せた。
「ごしゅじんさま、わらってるの~?」
「どうかしたのですか、ご主人様?」
「おもしろい……?」
「おお、琥珀、珊瑚、翡翠。起きたか」
早朝でまだおねむだった見習い管狐
3人が起き出してきたのだ。三郎の結界内のことだから、藍と瑠璃には3人の声は届いていない。
だが3人は、藍たちの気配をそれぞれクンクン嗅ぎ取ったらしい。
「おねえちゃんなの!」
「あいさんですね!」
「あと、もうひとり……だれ?」
「お、わかるか。今日は藍と、もう一人お姉さんがいるんだ」
「もうひとり? だれ? だれ?」
「だれですか? なんだか……会いたいです」
「そうだろうそうだろう。なんたってそのお姉さんはな、俺たちともちょいと縁があるんだ。あの天狐がお父さんなんだからな」
「てんこさま!!!?」
三人同時に、瞳がこぼれ落ちそうなほど驚いた。その様子に満足そうな三郎は、何故か自慢げに続けた。
「いいだろ~。今、そのお姉さんも修行してる最中なんだ。終わったら遊んでもらいな」
「三郎、三郎……おらんぞ」
豊前坊の野太い声だけが三郎のもとに届き、三郎は、はっとして辺りを見回した。
すると……
「てんこのおねえさ~ん!!」
きゃいきゃいはしゃぎながら走り去る3人の幼女たちの姿が、階段の上へ上へ……藍たちが立ち去った方へと向かっていった。
「お、お前らーっ!!! 戻れ! 戻りなさーい!!」
「別にいいではないか。子供同士仲良く遊べば……」
「馬鹿! 今、あいつらが気配を消しきれずに近づいて察知されてみろ! お嬢なり狐娘なりの九字切りをもろに食らうんだぞ!」
「……っ! いかん!」
二人は、全力で幼女たちのあとを追った――!




