天狗様、潜伏す(4)
「そっか。受け入れる、か」
「……よくわからないなぁ」
誰もいない早朝の廊下を、私と瑠璃さんが何故か正反対の表情で歩いていた。
瑠璃さんは、私と一緒の時は、すごくぼそっと短く呟く……。
「えっと……見つけてやる!って躍起になって血眼になってると、向こうも余計嫌がって出てこないけど、『会いたいな~』って感じで探してたら出てきやすい……ってことかなと」
「なるほど……?」
瑠璃さんは、まだあまり納得できていないようだったけど、私の方をちらっとだけ見て、ぼそっと呟いた。
「じゃあ……やっぱりそっちは……山南さんの担当ですね」
「え? 担当?」
「はい。だって……山南さんの方が受け入れてるし、受け入れられてるし……」
「それは……私の方がほんの少しだけ付き合いが長いからじゃ……?」
あとたぶん、太郎さんに関しては、第一印象が悪すぎたんだと思う……。
「……あの、ていうか……どうして敬語なの? 学年同じだよね?」
「……なんとなく。山南さんだって、太郎坊さんや僧正坊さんに敬語じゃないですか」
「あの二人は同学年に在籍はしてるけどだいぶ年上、目上だから」
「じゃあ、比良山くん……治朗坊さんは?」
「治朗くんは幼馴染だからなぁ。立場を知ってはいるけど、イマイチ実感ないというか……」
本当に、自分でも時々驚くけれど、今日集まっている面々は本当なら私なんかが食事をお出しすることすら恐れ多い方々なのだ。
そんな方々相手に、何やってるんだろう……。
「どうしたんですか?」
「いや、改めて早く終わらせてあげないとなぁと思って……」
「だから、役割分担して……」
「それだと早く終わるかもしれないけど……偏った部分しか伸びないんじゃないかな?」
「え?」
「瑠璃さんは九字は上手くなるかもだけど、気を察知する経験をしないし、私だってアンテナはるばっかりで九字の訓練をちっともしないってことじゃない。太郎さんの意図は、たぶん二人ともが両方上手くなることじゃない?」
「そ、そうかもしれませんけど……」
「うん、じゃあ……交代制にしない?」
「はい?」
「さっきは私が見付けたから、今度はる……水咲さんが見付ける! で、見付けたら私が九字を切る!」
「は、はぁ……」
あれ、名案だと思ったんだけど……瑠璃さんはすごく不審そうな目で見てくる。私が九字切りがヘタだからかな……?
もう一度、じーっと瑠璃さんの顔を覗き込むと、瑠璃さんは再びぱっと顔を背けてしまった。恥ずかしいのか、嫌われてるのか……。
「……わ、わかりました。じゃあ、私が探します」
「本当!? じゃあ、任せた!」
「はい……」
瑠璃さんは、さっきまでの俯き加減から顔を上げて、視線をまっすぐ前に向けて、歩き出した。私はそれについて歩きながら、こっそり頭の中で九字の呪文を反芻していた。咄嗟に言えるか、自信がなかったのだ……。
二人で協力する意思が芽生えた少女二人のほほえましい一場面を、彼女らには見えない感じ取れない場所で、そっと見ていた者がいた。
太郎、相模坊、清光坊の3人である。
「どうすんだ、アレ? 交代制って言って、二人とも苦手分野負っちゃったよ」
「どうしようか……」
「太郎、念のため聞きますが、藍さんが仰っていた二人が相互にどちらもできるように鍛える……といった目的は……」
「そこまで考えてはなかったかな……さすが藍だね。僕以上に深く考察してる……」
「感心してる場合か! これじゃヘタしたら終わらねーじゃん!」
「大丈夫。日没にはタイムアップだから」
「だから遅いっつーの!!」
「……実際、あの天狐の娘の方はどうなのですか? 素質があると?」
「そうだなぁ……まぁ、教えたら何とかなるんじゃないかな。九字もいつの間にかきちんとしてたし、今日一日スパルタでやったら両方……まぁ人間の術者の中では合格点てぐらいには……」
「それってすごくね?」
「たぶん……親が天狐ってだけじゃないかもね」
「はぁ……で、本命の藍さんはどうなんでしょう?」
「藍は……感じ取る方はやればやるだけ上手くなりそう。でも九字はどうかなぁ……失敗したら怖いしなぁ、アレ」
「……てことは?」
「ひょっとしたら、ちょっとぐらい痛い思いするかも。覚悟しといて」
「太郎~~~! 他人事みたいに……!!」
やる気を出して苦手分野に挑もうと意気揚々なお嬢さん方二人の様子を影で見守りながら、天狗たちはそんなことを喋っていたりした。
けっこうニアミスしていたのだが、二人が感じ取ることはまだできなかった。
二人が全員を発見できる時は来るのか――?




