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天狗様といっしょ  作者: kano
第二章
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天狗様、潜伏す(3)

「いやぁ~まさかこんなに早く見つかっちゃうとはなぁ……さすがは藍ちゃんだわい」

 開始早々――法起坊さんを見つけた。

 視界の端に、ちょろちょろと何かが見え隠れしていて、明らかに見つけてほしそうな気配を感じて、瑠璃さんに九字を切ってもらったら……ものすっごい笑顔で姿を現したのだ。

「法起坊さん……わざと出てきてくれたんですか?」

「いやいや、正真正銘、藍ちゃんと……」

「水咲瑠璃です」

「そうそう、瑠璃ちゃん! お嬢さん方にしてやられたんだ」

 このニコニコ具合からして、きっと手を抜いてくれたんだろうな……。武道の組み手なんかでよくやるやつだ。達人と初心者が組んだ時、達人が大げさに隙を見せて練習としてうたせてあげるというアレ……。

 本当に、この人甘々だな……。

「何はともあれ、ありがとうございます」

「お礼なんぞやめてくれ。言っとくが、二人にそれなりの力がなければ、見つけることも結界を破ることも適わなかったんだ。いくら軽めにしていたといってもな」

「……そうなんですか」

 瑠璃さんは、褒められたととっていいのかどうか迷っているようだった。

「たぶん、本当だよ。何もせずに結界を解いてくれたってことはないと思うから」

「そ、そう……ですか。ありがとうございます」

「うんうん。二人とも、有望じゃのう。では、そんな二人にヒントをあげよう。儂がここにいるということは、この近辺に前鬼と後鬼もいるということだな」

「え、お手伝い禁止なんじゃ?」

「これはお手伝いじゃない。”寝返り”だな」

 あっさり裏切った、この人……。

「ほ、法起坊さん……寝返ったりしたら後が怖いんじゃ……」

「ふん、あんな小僧に怒られるぐらい何ともないわい。それよりも、早く気配を探った方がいいんじゃないか? 移動しちまうかもしれんぞ?」

「え、え~と……」

 私はもう一度、周囲をよーく見回した。本当に、さっきやったのはこれぐらい。

 さっきは、ふわっと法起坊さんがいるような気がして、そっちに集中したら一瞬姿……というか輪郭が浮かんだ気がしたのだ。

 今は、見える気がしない。前鬼さんと後鬼さんが『居る』と聞いて意識してしまっているからだろうか。でも現実には、気配を探る訓練なのだから、これができないと……たぶん他の人はもっと手厳しいだろうし。

「ふぅ……」

 息を吐き出し、自分を空っぽにする。目を閉じて、視覚から来る情報を閉ざすと、さっきより集中できる。

 同時に、前鬼さんや後鬼さんが、どんな感じだったか思い出す。前鬼さんはとにかく大きい。うちの勝手口を勢いで破壊しちゃうぐらい。だけどすごく親切で、話しやすい。気のいい体育の先生って感じかな。

 後鬼さんは落ち着いていて、相談しやすい。そうだ、保健室の先生のような感じだ。

 あんな先生がいたら、学校ももっと楽しいだろうな……。

「ふふ……」

 ふと笑ってしまった瞬間、何かが肌をくすぐる感じがした。何かに触れたのではなく、近くにいる何かを感じ取った時の幻に近い触感だ。この感じは――

「る……水咲さん、ここだと思う」

「は、はい!」

 私が指示した空間に向けて、瑠璃さんは構えた。

「臨・兵・闘・者・皆・陣・烈・在・前!」

 瑠璃さんが十字に指を振り降ろしていくと、うっすらと光の筋が浮かび上がった。出来上がった光の格子がふわりと飛んでいくと、小さくパリンと音がした。

 グラスが割れるような音の後、ぼんやりと輪郭が露わになったのは……大きな大きな体の前鬼と長身で華奢な後鬼さんの二人の姿。

「はは、見つかっちまった」

「お二人とも、お見事です」

「お、恐れ入ります……」

 まだ二人になれない瑠璃さんは、お辞儀も恐る恐るだった。

 私もまた、恐れ多いのと申し訳ない気持ちでいっぱいで、がばっと頭を下げた。

「お二人とも……お付き合いくださってありがとうございます!」

「なんのなんの。藍殿にはいつも世話になってるからな」

「ええ、お役に立てて嬉しいですよ」

 ああ、本当に……この後うちで一杯やっていってほしい……!

「さっきのは、良かったぞ」

「さっきの?」

 姿を現した前鬼さんが、唐突にニッコリ笑って言った。後鬼さんも、なんだか嬉しそうに微笑んでいる。

「私たちのことを思い浮かべて、身近な存在に置き換えたでしょう?」

「ああ。お二人が先生だったらって……」

「そう、それだ。結界と言うのは、境界線。相手を阻むこと」

「自分を阻む相手の境界線を越えて触れるには、方法は2つ。一つは、より強い力で境界線を打ち消す。もう一つは、受け入れることです」

「受け入れる……ですか?」

 思ってもみなかった言葉が飛び出して呑み込めないでいると、法起坊さんがお二人の間に立った。

「相手に受け入れてもらうには、まず自分が受け入れないとな」

「ひ、人付き合いの極意みたいですけど……私、友だち少なくて……」

「あ~まぁそれは治朗をなじっていいが……お前さんは、もうできていると思うぞ。ここにいる全員がなんやかんや協力しているのがその証拠だろう」

「そう……なんでしょうか……」

 言われていることが、まだよく理解できないでいると、法起坊さんはにかっと笑った。

「ま、北風と太陽みたいなもんだ。どっちも時と場合によっては正解ってことだ」

「はぁ……」

「さあ、残りの連中もさっさと探しにいけ。みんな本音では早く終らせたがってるからな」

「そうですね……頑張ります」

 私と瑠璃さんは、言われたことの全部はよくわからなかったけれど、ひとまず3人にお辞儀をして、その場を後にした。



「法起坊様、けっこう喋っちまったけど、大丈夫ですかね?」

「あれは成長するためのアドバイスだ。問題ない」

「私たちのことを教えたのは?」

 法起坊は、ふふっといたずらっぽい笑みを浮かべた。

「どうせ治朗のやつ、手本を見せるだけ見せて真似してみろとしか言わなかったんだろうさ。本当に成長するにはな、段階を踏ませてやる必要があるんだよ」

 そう言って、またニヤリと笑って、虚空の空間に向けて意地悪そうな笑みを見せた。

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