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天狗様といっしょ  作者: kano
第二章
84/210

天狗様、渇望す(14)

――俺は、お前の傍にいる


 聞き間違いだろうか? 初めて聞く言葉が、治朗くんから飛び出した。

「ど、どうしたの……治朗くん?」

「どうしたの、とは何だ」

「何だって、何……いきなりそんなこと言って」

「お前こそ、いきなり山へ帰れと言ったろうが。お互い様だ」

 ごもっとも。だけど頭の中ではずっと考えていたことだった。治朗くんの、この発言は……いったいどうしたことなんだろう?

「どういうことも何も、お前が言ったんだろうが。俺と一緒にいたいと」

「……心読まないでよ」

「すまん。思念が大音量過ぎて、区別がつきにくい」

 しかし……いつの話だろう。常々思っていたことではあるけど、口にしたことなんて……

「あ、もしかして……?」

「兄者がお前に会いにはるばるやって来た日に、お前が俺に言った。忘れたのか」

 あの時か……! 色々ありすぎて忘れてた。

「今のは、何も聞かなくともわかるぞ。忘れていたな」

「は、はい……申し訳ございません……」

「……だが、思っていることは、変わらないのだろう?」

「え」

 治朗くんの視線が真正面から投げかけられる。逸らすことなど許さないと言うように、まっすぐに私の瞳を射抜いていた。

「う、うん。変わらない。治朗くんと、もっとずっと、一緒にいたい」

「……俺もだ」

 あれ? この言葉は……

「俺は、お前をずっと見守ってきた。お前を守るのは俺だと思ってきた。今更投げ出すなど、できるはずがない」

「治朗くん……それって……」

「俺も、離れがたいんだ。守ってやりたいと思っている」

「それは、太郎さんに言われたとかは関係なくってこと?」

「きっかけは兄者だが、今言ったことは俺の意志だ。嫌か?」

「嫌なわけ……」

 やっと……欲しかった言葉がもらえたのに、嫌なわけがない。あの時はぐらかされて、どれだけ腹立たしくて悲しかったか……。忘れられたような態度と言動をとられてどれだけはらわたが煮えくり返っていたかしれない……!

 でも、治朗くんはちゃんと言葉を返してくれた。それも、思ってもみないような嬉しい言葉を。

「……情けない話だ。兄者がお前を必死に守っている姿を見て、初めて気づくとはな」

「……うん? 太郎さんの……?」

「ああ」

 確かに……太郎さんが来てからは、太郎さんが守ってくれることが多いような気がする。いやでも回数じゃないし。回数だとしても、小さい頃からなんだから絶対に治朗くんの方が多いはず。

 なのになんで、目の前の治朗くんは、心底から笑っていないんだろう。

「あの……私を守ってくれたのは治朗くんだって思ってるよ。治朗くんが傍に居なければ、絶対にあやかしに喰われてたと思う」

「ああ。それを見越して、兄者は俺を遣わしたんだろうな。やはり、兄者は素晴らしい。お前を守るために何が必要か、あの頃から考え抜いておられた」

「?? ちょっと待って、治朗くんは何が言いたいの?」

「? 何を混乱している?」

「えっと…………治朗くんは、私を今までもこれからも、ずっと守ってやりたいと思っていると」

「ああ」

「え~と……だけど、太郎さんはもっとすごいぞ~……って言いたいの?」

「当り前だ」

「何じゃそりゃ~~~~っ!!」

 結局、兄者大好きかいっ!!!

 結局、私は太郎さんに敵わんのかいっ!!!!

「よくわからんな。何を怒る?」

「怒るわっ! せっかく感動したのに……返してよ! 私の純情を返してよ!」

「返す返さないというか……いやそこまで言わずとも……」

 この男……なぜ、きょとんとする……?

 え~とよくわからなくなりそうだから、落ち着きがてら整理しよう……


私は、ちょっと前に治朗くんに(勢いで)告白しちゃった。で、玉砕した。

 

太郎さんが現れた。


私のことを守る役割を太郎さんが担う場面が増えた。


それでちょっと考えを改めた治朗くん。


治朗くん自身、言われたからじゃなくて、本心から私のことを守りたいと思っていたことに気付いた。


私、感動した。


でもそういった一連のこと全部、まるっと最初から考えていた太郎さんが一番!!という治朗くんの考え(←イマココ)


 ダメだ……どうあっても治朗くんの太郎さん第一信仰についていけない……!

「あ、あのね……私、たぶん天狗じゃなくて人間だから、かなぁ? 治朗くんたちに比べて人生が短いからかもしれないけど……私は治朗くんほど、大局でものを見れないというか……」

「どういうことだ?」

「だから……私は、わかりやすくずっと傍にいてくれた治朗くんの方がすごいと思ってるってことで……」

「……そうか?」

 治朗くんは、腕を組んで首までかしげていた。何か、本当に引っ掛かる言葉があったらしい。

「そうかって何が?」

「お前は最近、俺よりも兄者の名を口にすることの方が多いだろう」

「………………は?」

 また何を言ってんだこの人は……

「この間からずっと、兄者の忙しさを心配していただろう」

「だ、だって本当に忙しそうだったから」

「今日もそうだ。忙しなくしている兄者を心配そうに目で追っていたぞ」

「だから炎天下で立ちっぱなしだったから……」

「兄者の応援がなかったと心細そうにしていたじゃないか」

「誰がそんなこと言っーー」

「それ本当っ!!?」

 その声は、保健室の奥のベッドから響いて瞬く間に耳元までやってきた。

 そして衝撃は、振り返る暇もなくやってきた。

「た、た、た、太郎さん!!?」

 太郎さんが、いつの間にか首に腕を回して私をぎゅーっと抱きしめていた。

 しまった! あまりに突然のことで咄嗟に避けられなかった……!

「ち、ちょっと……放して……!」

 ちょっと苦しくなりながら出した声なんて、届くはずもなかった。

「僕もだよ。僕も藍のこと応援できなくてとってもとっても悲しかったよ。寂しかったよ!」

「は? そ、そうですか? どうも……あの、放して……」

「仕事できる男の方がいいのかと思って頑張ってたけど、あそこまで引き離されるなんて予想外だよ! あれじゃただの拷問だよ! 地獄だよ!!」

「わかりましたから、放してください……!」

「い や だ!! 僕はもう半月ほども藍の寝顔も、宿題で苦しむ顔も、テレビ見て笑ってる顔も、おやつこっそり隠れ食いしてるところも見てないんだよ。限界だよ!」

「見るな、そんなところ!! 何が限界ですか!」

「限界に決まってるよ! 僕には藍が必要なんだよ! もう僕は、藍が……藍が、足りないんだよ~~~~~~~~っ!!!」

「私は灯油か~~~~っ!!!!」



 その頃、グラウンドでは全校生徒が集合して閉会式が行われていた。

 そこでは実行委員が選出した本日のMVPが発表されるらしい。校長先生から読み上げられたその名は、生徒・職員全員のどよめきと歓声に包まれて、保健室にいる私たちのもとまでは届いてこなかった。

 私は、最初で最後の大注目を浴びるチャンスを、保健室で騒いでいたせいで、逃してしまった……。

 私たちの体育祭は、これにて閉幕――

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