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天狗様といっしょ  作者: kano
第二章
75/210

天狗様、渇望す(5)

 5時間目は体育!

 晴れ晴れとした空の下、今日は男子も女子もグラウンドに集合していた。

 体育はだいたい隣のクラスと合わさって、男女に分かれて行われる。今日は、2クラス分の人数が一同に会していると言わけだ。

 そんな大人数に、体育教師がいつもよりちょっと声を張り上げて説明した。

「今日は短距離のタイムを計るぞー」

 一斉にブーイングが湧き起こるが、教師はものともしない。

「はいはい、熱烈歓迎だな。ちなみに手を抜いたら成績の方に響くから、みんな力いっぱいやれよー」

 笑顔だけ聞く耳持たない教師の声で、男子女子、それぞれトラックの両端に移動した。

 移動する際にちらっと視界に入ったのは……まだフラフラしている治朗くんと、つまらなそうな僧正坊さんと、何やらぶすっとむくれているような太郎さん。いったい何があったのか……? 

 不思議に思いつつ進行方向に視線を戻すと、今度は見知った後ろ姿が見えた。私は思わず声をかけてしまった……!

「水咲……さん!」

 名前で呼ぶ勇気は出なくて咄嗟に苗字で呼んでしまった。予想していない呼びかけだったのか、瑠璃さんはびくっとして振り返った。けれど私だとわかってもらえたみたいで……

「ど、どうも」

 小さく会釈を返してくれた。

 ああ……新鮮な反応……! これが挨拶というものなのね……!!

「隣のクラスだったんだね」

「そ、そう……ですね」

「……」

「……」

 会話が、終了した。

 コミュニケーション能力がもっとあれば……こういう時こそ、セイさんのペラペラ止まらない口が欲しい!

「あの……」

「はい!?」

 隣から静かな声が聞こえてきた。

 太郎さんに噛みついていた時とは正反対の大人しい声だった。どっちが本当の彼女何だろうか……?

「な、なんでしょう?」

「太郎坊さんとは……付き合ってるんですか?」

「………………はいっ!!?付き合ってるって……ご冗談を」

「え、でも……太郎坊さん、ずっと『藍』って言ってるし、お弁当だって……」

 言われてみれば、傍から見ればそう思われても仕方ない要素が満載だな……。

 でもそれは太郎さんだけじゃないはずだ。

「それは、太郎さんがうちに居候してるから。治朗くんも僧正坊さんも同じだよ」

「そう、なの……? でも許嫁って……」

「それこそあの人が言ってるだけだから」

「え、そう……?」

 不思議でならない。このご時世に、どうしてその言葉を鵜呑みにできるのか……。

 しかし、今は彼女の言った『付き合ってる』という言葉の方がピンとこなかった。最初から『許嫁』なんて言われ続けてきたから、そんな現実的な関係に落とし込んで考えるってことを思いつかなかった……。

「次、山南!」

「はい」

 折よく順番が回ってきた。私は瑠璃さんに軽く手を振ってスタートラインに立った。

 クラウチングスタートのポーズに構えていると、何故か今までのことが思い出された。

 そうだ。すべてはあの人が……『許嫁』なんて言い始めたことから、あれもこれもそれもどれも、すべてが始まったんだ……!!

 傍に立つ教師が笛をピッと鳴らすと同時に、私は強く地面を蹴って走り出した。

 陸上部のようにフォームが整っているわけじゃないけれど構わない。とにかく腕を振り、足を押し出し、後ろ足で蹴って、風を切って進んでいく。

 自分でもよくわからないイライラを見据えて腕を振ると、足が引っ張られて大きく前に出る。その力が糧になって、次の一歩がさらに大きくなる。その繰り返しだ。

 呼吸を合わせ、ゴールを見据えて、その先になんかこうモヤモヤするもの全部あると思って、突進していく! 

「ゴール!」

 カチッというストップウォッチの計測音とともに、ゴールラインを走り抜けた。他の人には見えなかっただろう。私がその向こう側にある”何か”を殴り飛ばしていただろうことは。

 殴り飛ばして少しスッキリして息を整えていると、息を荒くした計測係の女子が飛んできた。陸上部の子だ。

「や、や、山南さん! これ!」

 興奮した様子で、ストップウォッチを見せてくる。表示されているのは11秒そこそこの数字。意味を図りかねて首をかしげていると、その子はずずいっと近づいた。

「これ、すっごい記録だよ。非公式・・・県大会記録だよ!」

「え、そうなの?」

「そうだよ!」

 めちゃくちゃ興奮しているが、正直、それより速いタイムを打ち立てたことだってあったんだけどな……。スルーされたけど。

 言ってる間に体育教師までやってきて仰天していた。

「お前……なんで陸上部入ってないんだ……」

「なんでと言われましても……」

「ていうか、なんで今までお前のこの記録を見逃してたんだ? 俺たちはバカか!?」

 ああ、こういうところにも効いてたのね、治朗くんの結界というのは……。

 なかったら、きっと違う人生が待っていたんだろうなぁ……。

「山南、体育祭では大活躍してもらうからな」

「え」

 体育教師がニヤッと笑った。すごく嫌な予感がする。というか、わけもわからずに取り返しのつかないことをしてしまった気がする……。

 若干後ずさる私を置いて、体育教師は手元のタイムの一覧を見ていた。男子の方も全員計測が終ったらしく、私たちのクラスの一覧を並べて見て「ほぅ」と呟いた。そして、私ともう一人を見て、これまた悪そうな笑みを浮かべた。

「お前ら……ほとんどタイムが一緒だな」

「お前()って?」

「山南と、比良山だ」

 そう言って見せてくれた私と治朗くんのタイムは、確かに差がほとんどなかった。むしろ、私が0.2秒ほど勝っている。

「どうだ、お前ら。デモンストレーションしないか?」

「はい?」

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