天狗様、渇望す(4)
「あ、太郎坊さん!」
「げっ」
体育祭実行委員は昼休みも絶賛お仕事中だ。今日も弁当を食べながら来週に迫った本番の打ち合わせをしている。
太郎は、傍にいられない分、藍が手ずから作ってくれた弁当を堪能しようと思っていたのに、思わぬ邪魔が入った。
水咲瑠璃だ。
「実行委員に空きが出たから、入っちゃいました!」
「はあ? 何で?」
「だって、弟子ですから」
遠慮なく隣に座ってくる瑠璃から、太郎は無意識に距離を空けた。
それでも、瑠璃はニコニコめげずに笑いかける。
「大声で言わないでくれる? それと大げさ。ちょっと教えただけ」
「それを弟子って言うんですよ」
「弟子は藍だけで十分だよ。君は昔教えた結界術を磨けばそれでいいでしょ」
「でも昨日、教えてくれたじゃないですか。いきなり使いこなせたアレ。えっと……十時?」
飛び出した単語に、太郎は思い切りがっくりと肩を落とした。
本来ならここで話すような話題ではないが、思わず声を落として訂正した。
「九字。名前も覚えてないくせに使いこなせたとか言わない。あれは、ビギナーズラック」
「びぎ……?」
「調べて、自分で」
「はぁい……」
反省しているようで、まだどこか浮かれた様子の瑠璃に、太郎はどこか不安を覚えた。
「あと、本当に昨日教えた九字切り……むやみに使わないようにね」
「え、なんでですか? 威力がありすぎるから?」
その弾んだ声に、太郎は眉をしかめた。なるべく声を荒らげず、しかし鋭さを増した声音で静かに告げた。
「……調子に乗るな」
「え、はい……」
「初めて試して出来たら舞い上がりたくなる気持ちはわかる。でも、君はあまりにも知らなさすぎる」
「どういうことですか?」
太郎の責めるような視線に、瑠璃はようやく、身を固くした。
太郎は、わずかに嘆息した。
「昨日のアレ、治朗や僧正坊がやれば、藍は……跡形もなく消し飛んでた」
「!」
「ま、やらないだろうし。やれば僕が黙ってないけどね」
「そんな……」
「それだけ危険な行為なんだよ。君程度だったから、あれぐらいで済んだんだ」
太郎はそこまで言って、ようやく吐き出し終えたというように表情をやわらげた。残っていた弁当を平らげて手を合わせると、横から強張った声が飛んできた。
「じゃあ……なんでそんな危険なことを、こんな初心者に教えたんですか?」
「君に教えたんじゃない。藍に教えたんだよ」
「っ!」
「君にはまだ出来ないよ。集中力がなさすぎる」
「なさすぎるって……!」
「ないよ。今、ミーティング中だって欠片もわかってないんだから」
太郎はそう言って弁当を鞄にしまうと、他の委員と同様、配布されたプリントに視線を落とした。
それきり、会議が終わるまで、彼が口を開くことはなくなった。




