天狗様、天敵(?)と相対す(10)
「え、あやかし!?」
思わず瑠璃さんを二度見してしまった。瑠璃さんは視線を受けて居心地悪そうにしている。
一方の太郎さんたち天狗様方は、一様にうんうん頷いていた。
「やはりそうか」
「どうも何か、”臭い”と思っていた」
「く、臭いって……!」
ひ、ひどい……治\朗くんも僧正坊さんも。
だけど私には、頷けないんだけど……?
「あやかしって……どう見ても人間じゃないの?」
私が今まで見てきたあやかしは、だいたいが黒い影か、ぼんやりとした光のような形のないモノがほとんどだった。稀に人間や物に憑依していたぐらい。
こうもはっきりと人間の姿をとって、しかも目を合わせて会話できるあやかしは、16年関わってきて初めて出会った。
たぶん私の言いたいことが分かったのだろう。太郎さんが頷いて言った。
「うん、全部あやかしじゃない。人間が混ざってる。変なにおいがする」
「へ、”変なにおい”……!!?」
太郎さんまで、容赦がない……!
瑠璃さんは、もううっすら涙を浮かべている。
「あの……その”におい”の話はやめにしません? すごく人聞きが悪いですよ」
「そう? じゃあ本人からはっきり言ってもらおうか。君は何者?」
「はい……言った通り、あやかしと人間の混血です」
「本人は力の使い方をよくわかっていないようだが……秘めた力はなかなかのようだな。だからあやかしにちょっかいをかけられていたんだろう」
「ということは……親のあやかしは、大物ということかい?」
「大物かどうかは……確か、天狐って言ってました」
「天狐!!?」
治郎くんと僧正坊さんが、揃って驚いていた。珍しい……。
一番冷静そうな太郎さんにこそっと聞いてみた。
「す、すごいんですか?」
「狐の中でもかなり位が高い、あやかしどころか神の使いだよ。狐たちの……総理大臣くらい?」
「めっっっっちゃすごいじゃないですか!!」
「うん、すごいよ。親はね」
うわ、棘を隠そうともしない……。
「なるほど、生まれながらに力が強いわけだ」
「まぁ強いけど、ちゃんとした訓練受けてないよね」
「は、はい……母から聞いただけで、父親(?)とは会ったことないですし」
「そ、そうなんだ……」
生まれながらによくわからない”強い力”があって、
よくあやかしに狙われて
お父さんがいなくて……
この人、もしかして私と似た境遇かもしれない……
「あの、太郎さん……」
「なに?」
太郎さんは急に笑顔になった。
掌返しはこちらの心臓にも良くないからほどほどにしてくれないかな……。
違う違う、今はそんな場合じゃない。
「この……瑠璃さん?も、一緒に修行させてあげられませんか」
「……うん?」
私が太郎さんに力の使い方を教わる約束に、彼女を加えられないかと、思ったのだ。
幸い、私は試験勉強第一でまだ修行に入れていなかった。今始めれば、同時スタートできるんじゃないかと思っていたりする。
「……あ、うんうん。修行ね。はい、君の修行ね」
あ、忘れてたな……。
「まさかと思いますけど、忘れてませんよね? もしくは、このままうやむやにしようとしてた……ってことはないですよね?」
「ないないない。大丈夫大丈夫。ホントに」
こうやって大げさに否定するときはだいたい怪しい。
「で、えっと……君と一緒に修行だっけ? 君の方はどう思う?」
太郎さんが瑠璃さんに視線を向けると、瑠璃さんは戸惑っていたようだった。嫌なんじゃなく、突然の思いも寄らぬ申し出に驚いているという感じだ。
「ちゃんと勉強すれば、まぁもう少しマシな結界は張れるようになると思う。まぁ今のままでも対して難儀してないんなら必要ないとは思うけど」
「や、やります! やらせてください!」
瑠璃さんは、全力で頭を下げた。
それを見た太郎さんは……ちょっと複雑そうなお顔……。何が気に入らないの、この人……?
「せっかく君と二人きりだと思ったのに……」
「修行自体忘れてたくせに……」
「はぁ……まぁ君が言うなら仕方ないか。正直気乗りしないけど」
「私よりは……覚えが早いんじゃないですか? だって、見てないですけど曲がりなりにも結界を張れていたんでしょ?」
「うん、ペラッペラのが、ね」
「ダメなんですか?」
「天狐の娘で、僕が教えたんなら、せめてもうちょっと様になるように鍛えててほしかったなぁ」
「だって……そんな人いなかったんでしょ?」
「まぁそうだけど」
太郎さんは、面倒そうに頭を掻いていた。瑠璃さんは、喜んでいいのかどうなのか、わからないようだった。
「兄者から見て、素質がないと思われるのですか?」
「う~ん……見どころは、あると思う」
「え、ええっ!?」
その言葉に踊りていたのは、誰あろう、瑠璃さん本人だった。
あれだけこき下ろした後の、まさかの誉め言葉……。
全員が同じ反応を示した。弾かれたように太郎さんに視線を向け、次の言葉を待った。
「あの結界、ペラペラだったけどまぁ形にはなってたし。何より治朗が藍に張ってた結界を超えてきた。鍛えればそれなりにはなるかもしれない」
「ほ、本当ですか……!?」
「藍に兄弟弟子っていうのも、悪いことじゃないしね」
「は、はい! ありがとうございます!」
良かった……! 太郎さんに術を教えてほしいって自分からお願いしたものの、職権乱用して変なこと言い渡されたらどうしようかと心配していたのだ……。
彼女も一緒なら、無茶なことは言わないだろう。
何より、私と普通に会話してくれる! 治朗くんの結界を超えられるなんてすごい……!
……
…………
……………………
「あれ? 今なんて?」
「ん? 兄弟弟子ができたよって」
「いや、そうじゃなくてその前……」
「鍛えればそれなりに……」
「もうちょっとだけ前!」
「? あ、治朗が藍に張ってた結界ってところ? 知らなかったの?」
『知らなかったの』だと?
……いや、そこに反応している場合じゃない。
私は治朗くんに向き直った。
「治朗くん、そんなことしてたの?」
「ああ。お前は昔から、良くも悪くも目立っていたからな。容姿もさることながら、片親で、男勝り……そういう者は負の感情をその身に受けやすい。だから好意も悪意も受けにくいように、目立たないように結界で存在感を消していたんだ」
こんなところで、まさかのカミングアウトとは……。
私にずっと友だちができなかったり、みんなから気付かれなかったり、成績が悪くても気にかけられなかったのは、全部……全部……
「あんたのせいかっ!!」
「な、なんだ? 何を怒る?」
「治朗、そういうのはちゃんと話さないと」
「そ、そうですか? それはその……すまん。一旦解いてやるから……」
「いや、待った」
印を結ぼうとした治朗くんを、太郎さんが制止した。
太郎さんの顔が、再びニヤリと笑みを浮かべた。すごくいいことを思いついた(と自分で思っている)時の顔だ……!
「藍、修行その一を始めようか」
「え、今からですか?」
「うん、今から。治朗が藍に張った結界、自分の力で解いてみて」
「はぁ、なるほど………………って、えええええぇぇぇ!? 私が!?」
「そう」
太郎さんは、ニッコリ笑って”頑張って”と付け足した。
兄弟弟子ができたり、私のボッチの理由が分かったり、初めての修行が無理難題だったり……色んなことの、幕開けとなった一日だった……
幕が引けるのは、いつだ……!?




