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天狗様といっしょ  作者: kano
第二章
67/210

天狗様、天敵(?)と相対す(7)

「何か聞こえた? 隣の教室?」

「何か……壊れたか?」

「今度は……叫び声?」

 太郎さんがテストに臨む間、私たちは隣の教室にいた。向上心高き太郎さんの姿勢に感銘を受けた治朗くんが、自分たちも勉強に臨むぞ!と言い出したからだ。

 こんな風に目を爛々と輝かせたらもう反論は受け付けられない……。それを知っているので大人しく従うことにした。

 だけど教科書を広げて数分で何やら破砕音が聞こえてきた。

「地震? でも全然揺れてないよね」

「まさか……結界が破られた音か?」

「……ふん」

 怪訝な顔をする私と治朗くんを、僧正坊さんが馬鹿にするように笑った。

「いったい誰が結界を張ったって? あそこにいるのは、太郎坊と人間が二人だよ」

「しかし」

「だいたい、隣は今テストの真っ最中だよ。結界を張らなければならないテストって、いったい何なんだい?」

「それもそうか……」

 僧正坊さんの言葉にとりあえず納得して、再び教科書と向き合おうとしたその時、教室の戸が勢いよく開いた。

「あれ……太郎さん?」

 戸の向こうには太郎さんが立っていた。

 なぜか下を向いている。なんだか肩も落ちて、だらんとしている。

 これは……落ち込んでいる……!?

「ど、どうしたんですか太郎さん?」

 驚いて立ち上がる私に、太郎さんは……

「藍……あいぃ~~~~~~~っ!!!」

 ぶわっと涙をあふれさせて、両手をいっぱいに広げて駆けてくる太郎さん。

 そんな太郎さんを、私は……


 すんでのところで躱し

 腕を絡めとって

 体ごと転がし倒して

 そのまま関節技で腕を締め上げて――


「どうしたんですか、太郎さん?」

「こ、この状態でもう一回同じことを言える藍が、僕は大好きだよ……!」

「なんだ、余裕ですね」

「藍! いい加減にしないか!!」

 治朗くんの声を合図に、私は苦しそうな太郎さんを解放した。

 以前は、治朗くんの視線がチクチク痛かったけれど、最近はあまり気にならなくなってきたな……。

 とは言え、流れるように関節技までいってしまったのはさすがにやり過ぎたと思う。

「ごめんなさい……つい反射的に……」

「まったく……なんて暴力的な……!」

 吐き捨てるような僧正坊さんの声が聞こえたが……無視!

 太郎さんは締め上げられた腕をさすっているけど、何故か嬉しそうだった。それがわからない。なぜ喜べる……?

「え~と、それで本当にどうしたんですか? 泣いてませんでした?」

「ああ……うん、僕はとても……とても屈辱的な目に遭ったんだ……」

「なんだい? 試験に失敗したとか?」

 せせら笑う僧正坊さんに対するリアクションについて、私たちのだいたいの共通の予想では、次の3つのうちどれかが返ってくると思っていた。


①『まさか。おかしなこと言うなぁ』

②『藍までそんなこと考えてたの? ひ、酷い……!』

③『ハァ? 何言ってんの?』 


 だけど実際には、太郎さんの体がピクンと大きく跳ねただけだった。

 怒るなり呆れるなり泣くなりの反応を何も返してくれないので、3人とも次の言葉を出せずにいた。そうしているうちに、最悪の状況が頭に浮かんで、尚更、口に出せなくなっていく……。

 ま、まさか……!

 3人とも同じことを考えていると、表情に出ていた。

 そしてまた、太郎さんの沈痛な面持ちが、私たちの予想を裏付けているように見えて仕方がなかった。 

 誰だ……? 誰が”その言葉”を口にするんだ……!?

 私たちは視線でその役目を押しつけ合った。

 と、その時、背後でバタバタと大きな音がしたかと思ったら、乱暴な開閉音が教室に響き渡って――


「ちょっと天狗! あんたのせいで私まで再々試験になっちゃったじゃない!!」

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