天狗様、天敵(?)と相対す(4)
「私、アンタたちの秘密、知ってるんだから」
「…………秘密?」
ふんと鼻を鳴らしながら言う少女に対し、太郎は眉根を寄せて、首を傾げた。
「って、何のこと?」
「とぼけても無駄だからね。天狗には、独特の秘術が色々とあるんでしょ?」
「……まぁ、あるね」
「例えば、そう……神通力とか」
少女は、ビシッと指さして、大仰に言った。
太郎はその指をポキッと折り返してやろうかという衝動に駆られたが……なんとか抑えていた。
「神通力なんて秘密でも何でもないし、天狗だけのものでもないけど。しかもそういうの、普通にインターネットで検索したら出てくるし」
少女は、太郎の苛立ち紛れの様に気づく様子もなく、指を向けたままだ。
「私が言ってる秘密はそういうことじゃなーい。その使い道のことを言ってるの」
「……………………うん?」
太郎はいよいよ混乱してきた。
この娘はいったい何を言いたいのか?
天狗たちがよく使っている神通力と言えば……
他心智證通……他者の心を読む力。主に天狗同士の連絡手段に使っている。通称:天狗net
神境智證通……空を飛ぶ、姿を変えるなどのあらゆる超能力。主にこの中の神速通と呼ばれる瞬間移動をよく使っている。
天眼智證通……自分や他者の過去から未来への流れを見る力。予知能力もこの力に含まれる。
「はい、それ! それです!!」
また大声で少女が止めた。
太郎は耳鳴りで一瞬少女の声が聞こえなくなった。
「君、うるさいよ……」
「天狗のくせに何言ってんの」
「天狗だって耳はデリケートなんだよ」
「はいはい、ごめんなさいね。それでその予知能力よ」
太郎の中で、怒りが沸点に達しかかっていた。まるで火にかけていた笛付ケトルがピーと音を出し始めているように、頭の中で警鐘が鳴っている。
沸騰しかかって、ケトルの蓋までがカタカタ鳴り始めているような状態をなんとか抑え込んで、努めて穏やかに、静かに、言葉を紡いだ。
「…………なに? 早く言ってくれる? テスト解かなきゃ」
「そう、それもある。つまりね、アナタたち天狗は、テスト問題が事前に見えていたわけよね?」
「…………は?」
太郎は、心の底から、言っていることが理解できなかった。それで茫然としている様子を、少女は図星を指されて戸惑っていると解釈したらしい。
さらに胸を反り返らせて、力強く太郎を指さして言い続けた。
「だから全員、上位に入れるんでしょ? そうなんでしょう! そうに決まってる!」
「いや……え?」
「というわけで……この結界から出してほしければ、私にもその問題および答え、教えなさい!」
決まった――! と、少女は思っているのだろう。
太郎に向けた人差し指の反り具合が、少女の言葉の自信のほどを示していた。
この数分でいったい何度指を突き付けられたか知れない。
太郎は、一瞬めまいを覚えて、ふらふらと机に倒れ掛かった。
その瞬間、頭の中の笛付ケトルが、けたたましい警告音を鳴り響かせた――!




