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天狗様といっしょ  作者: kano
第二章
63/210

天狗様、天敵(?)と相対す(3)

「まず……名前を書こう。今、書こう。すぐ書こう。ね、愛宕くん!」

「わかってますよ。ほら、書いてるでしょ」

 太郎は配られたばかりの解答用紙を教師に見せた。名前欄には、ちゃんと『愛宕 太郎』と書かれてある。

 それを間近で確認した教師は、ほっと胸をなでおろして、教卓に戻っていった。

 教室内には生徒は二人。太郎と、一つ後ろの席に座る別のクラスの女子のみ。だと言うのに、教師は太郎にだけ名前の確認を強いてきた。当り前ではあるが……。

 ここまで馬鹿みたいな扱いを受けるのは、太郎にとっては(誰にとってもだが)かなりの屈辱だった。だが胸の奥底では、藍が自分を相当心配してくれていたのが、ちょっと、いやかなり嬉しかった。その気持ちを思い起こし、ニヤリと笑みを浮かべて試験用紙に向かった。

 良い気分で受けた方が、頭もよく働くだろう。そう考えたのだ。

「え~では、時間は45分。早くできたら提出して出ても構いません。では、はじめ!」

 教師の声と同時に解答用紙を表返し、問題用紙にさっと目を走らせる。

 教科は数学。授業で説明された数式や、教師のちょっとしたこぼれ話まで頭に入れた上で何度も問題をシミュレートした。

 まさに、予想した通りの問題だ。これならば、満点も夢ではない。

 まずは1問目の、単純な計算からだ。

 解く前から筆じゃなくてペンがのってる感じがする――と、ペンを走らせようとして、止めた。

 指先に、チリチリとした感覚が走った。痺れるような、焼けるような、凍えるような、その全部が一度にくる感覚。その感覚は指先を包み、あっと言う間に太郎の全身を包み込んでいった。

 この感覚は、覚えがある。他人の結界に引きずり込まれた時の感覚だーー 

 太郎は、我知らず、ため息が出ていた。

 せっかくやる気になっていたのに、と……。

 そして、ペンを置いて言い放った。

「いったい、何の用? こんな結界に閉じ込めて……」

 太郎の言葉に応える代わりに、その人物は口角を上げて、笑いながらつぶやいた。

「あなた、天狗……だよね?」

 後ろの席に座る少女の眼鏡の奥から、矢のような視線が太郎に向けられていた。

 その言葉に、太郎は振り返った。

 言葉を発した少女は、不敵に微笑んでいる。尋ねているのではない。確信しているのだ。

「だったら?」

 少し苛立った太郎の声にも少女は臆せず、もう一度くすりと笑みをこぼした。

「怖い顔しないで。別に退治しようなんて思ってないよ。ちょっと、取引したいだけ――」

「あ、そう。じゃあテスト終ってからにしようよ。忙しい時にまったくもう……」

――と言うと、太郎はくるっと机に向き直って問題用紙に向ってしまった。

「あ、あれ……?」

 後ろで少女が明らかに戸惑っているが、太郎は見向きもせず問題を解き始める。

 見向きもしないはずだ。今は、テスト中なのだから。

「一個だけ忠告しておくと――」

 問題用紙に向かったまま、太郎がぼそっと喋った。すると少女は、ぱっと顔を上げた。見られてもいないのに、妙に顔を綻ばせて。

「結界、解いた方がいいよ。集中力が削がれるから」

 そう言うと、また無言に戻った。

 何度も言うが、今はテスト中なので、これが当り前だ。むしろ喋りすぎだ。

 だが、結界を張った当人の方は、納得がいかないという顔で太郎を睨みつけていた。

「ちょっと! 話聞きなさいよ!」

 結界によって普段の教室から切り取られた空間に、少女の高い声が良く響いた。

 集中していた太郎にとっては耳障りだったのが、顔をしかめて振り返った。

「なに? テスト中でしょ? さっさと解きなよ」

「なに真面目に受けてんのよ! 天狗のくせに!」

「ここは人間の里なんだから人間のルールに則って試験を受けるのは当たり前じゃないか。だいいちその理屈(?)で言うなら人間である君の方が真面目に受けないとダメなんじゃないの?」

「うっ、ま、まぁ……そうね」

 思わぬ正論だったのか、少女は押し黙った。

「だいいちこれ、追試だよ? てことは君も成績危ないんじゃないの? ちゃんと受けとかないと後が怖いよ」

「そ、そんなのアンタだって同じでしょ。追試受けてるじゃない!」

「僕は名前書き忘れただけだから。成績の方は心配無用だよ」

「そう! それ!!」

 ただでさえ叫んでいたのに、少女は太郎を指さしてひときわ大きい声を出した。

 そこそこ至近距離で大声を出されたので太郎は耳鳴りしたが……少女はおかまいなしに続けた。

「天狗、天狗、天狗……アンタだけじゃないよね。さっきもいた比良山くんと、転校生の鞍馬くん……あの二人もそうなんでしょ?」

「そうだけど」

「確か、3人とも成績上位だったよね」

「まぁ……そうだね」

「やっぱりそうなんだ」

「やっぱりって何が?」

 答えず、少女はニタリと笑みを浮かべた。

 太郎は、(普段の自分は棚に上げて)その笑みを不気味に感じた。椅子に座ったまま、思わず距離をとろうと身をよじったその時、少女はようやく笑うのをやめて太郎に向けて言った。

「私、アンタたちの秘密、知ってるんだから」

「…………秘密?」

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