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天狗様といっしょ  作者: kano
第二章
62/210

天狗様、天敵(?)と相対す(2)

 追試当日、私と治朗くんと僧正坊さんは、試験が行われる教室まで太郎さんに付き添った。

 ちなみに、僧正坊さんは下働き処分の後、高校生として何食わぬ顔して転校してきたのだった。どうなってるの、この高校? そしてどんな力があるの、天狗界!?


「いいですか、太郎さん。一番最初に名前書いてくださいね!」

「兄者、慣れぬかもしれませんが『愛宕 太郎』ですよ。普段通りに書いてしまっては下手をすればまた同じ目に……」

「わかってるよ、うるさいなぁ」

 他に心配がない分、この名前記入だけが心配で仕方なかった。

 さっきから同じことばかり口が酸っぱくなるほど言ったせいか、太郎さんは明らかにウンザリしていた。

「もう入るよ。教科書見返したいし」

 太郎さんはそう言って、雑に教室のドアを開いた。

 すると、そこには先客がいた。

「!」

 女の子だ。メガネをかけて俯き加減で、顔はちゃんと見えない。とりあえず同じクラスではなさそうだ。

 一人で真ん中ぐらいの席にぽつんと座っていたところ、びくっと体を震わせていた。びっくりさせてしまったらしい……。

「びっくりさせてごめんね。この人ちょっとイライラしてただけだから」

 声をかけると、女の子はちらっとこちらを見て、小さく会釈を返してくれた。

 そしてそれきり、また俯いてしまった。

「…………」

「愛想ないなぁ」

 太郎さんは不満げな呟きをもらした。だけど私は、言葉をなくしていた。

 感激で……!

「初めて……」

「え?」

「初めて……一言めで返事してもらえた……!!」

 感動にうち震える私を見て、三人ともが首をかしげた。

「今の……返事になるの?」

「だ、だって……だって、今まで治朗くん以外、何回も呼び掛けないと気づいてくれなかったんだよ? それが、こっち向いてペコって……ペコって……っ!!」

「わ、わかったわかった……あの、それより藍、指輪貸してくれないかな」

「はい……はい? 指輪?」

「うん、お守り代わりに。いいでしょ?」

「いいですけど……」

 私はペンダントとして身に着けていた、チェーンのついた指輪を太郎さんに渡した。太郎さんはそれを身に着けず、大事そうに胸ポケットにしまった。

「君の想い、確かに受け取ったよ……」

「ああ、勉強し通しでお腹すいてたんですか? だから倒れないように気の補充を?」

 補足説明いたしますと、この太郎さん、愛しの藍姫に天狗としての力のほぼすべてを封印され、様々な術を会得していたにもかかわらず、術を発動させるだけの気と言うエネルギーがゼロになってしまったのだとか。

 それで、生まれながらにして有り余るほどの気を体内に秘めた私から、いつも接種しているのだ。

 そのための方法の一つが、この指輪――シェアリング制度。

 1日交替で指輪を身に着けることで太郎さんは少なからず気を補充して置ける。それによって、不測の事態にもまあまあ対応できるという寸法だ。

 これによって、日に何度も意味のないスキンシップを受けなくてすんでいるので、ちょっと助かっている。

「まぁ気の事もあるけど……君の身に着けていたものを持っていたら、心強いから」

「そうですか。じゃあ直接肌に拳の痕でも刻みますか?」

 私は思わず、拳をポキポキ鳴らした。

 反応したのは……横にいた僧正坊さんの方だった。トラウマか。

「そんなことしたら、テスト受けられないよ」

「そうおっしゃらずに。もっと大量に気が摂取できるかもしれませんよ」

 身を強張らせた太郎さんの顔面を片手で鷲掴みにしようとしたその時――

「お、なんだ。比良山に鞍馬か。追試終るのを待つんなら、廊下でな」

 追試の試験監督の先生が現れた。

 それだけ言うと、先生はぴしゃりと教室と廊下を隔ててしまった。

「……ほら、私、呼ばれなかった」

 この想いも、扉に阻まれて届いていないのだろう……。

 治朗くんが、そっと肩をぽんと叩いたけど、虚しさは、埋まらなかった……。

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