天狗様、天敵(?)と相対す(1)
私には、あやかしに襲われやすいことの他に、もう一つ困ったことがあった。
それは、友だちがいない事。もっと言えば、周囲の人から気にかけてもらえない事だ。
もちろん、お母さんと治朗くんは別。二人はいつだって私のことを大事にしてくれた。だけど、それ以外の人たちは違った。
無下に扱われるわけではない。いないように扱われたことはないし、冷たくされたことだってなかった。
ただ、好意を向けられたことも、悪意を向けられたことも、どちらもない。どちらかと言うと、そういった意識の対象外だったように感じていた。
クラスのみんなで遊びに行くとき、本当に私のことを忘れていたらしい。
遠足の時に、ちょっと遅れてトイレに行っていたら、その間に出発しそうになっていた。(治朗くんが止めてくれたけど)
それに、中学からずっと、実は成績が悪かったのだけど……一度も何も言われなかったり……
まぁ最後のはうまく利用して呼び出しを避けていたという面もあるのだけど……太郎さんの機転と言うか、嗅覚によって発覚してしまった。
おかげで中間テスト直前は、1000年以上の人生経験と知識を持つ大天狗様たち直々のテスト対策突貫授業を受ける羽目に……いや、ありがたいのだけど。
現にその結果……
「5教科 平均52点! いやぁ大したもんだ!」
法起坊さんが再び大きな拍手を贈ってくれた。
照れ臭いような、恥ずかしいような……。
「今までが平均20点を超えていなかったんだ……素晴らしいぞ、藍……!」
こっちは涙ぐむ治朗くん。うん、こっちはさすがに恥ずかしい。
ていうか、いらん情報を出さないでほしい。
「いえ、皆様のお力添えのおかげです。本当に、ありがとうございます」
そう言って、その場の皆さんに頭を下げた。
心から感謝してる。それは本当だ。
だけど、心から喜べない。というか、複雑だ……。
何故なら、私の成績アップの発起人である太郎さんは、このほど全科目でなんと0点をお取りになって、見事、全教科追試に相成ったのだ……。
「ぷぷぷ……太郎だっせー。あれだけ『僕のお嫁さんの危機を救って』とか言ってたのによ。自分がピンチに陥ってんじゃん。ぶっははははは!」
「せ、セイ……そんなに笑うと……く、ふふふ……」
笑うのはひどいけど……私も最初は耳を疑った。一番驚いていたのは本人だったけど。
しかも蓋を開けてみれば、なんとも間の抜ける話で……
「ま、笑われても仕方ねーな。なんたって、”名前の書き忘れ”で全教科0点じゃな」
三郎さんの言葉で、火がついたように爆笑が起こった。お酒も入って少々陽気になっているのもあって、ご近所中に響きそうな大声だった……。
「みんなに陽気な話題を提供できたみたいで嬉しいよ」
とても嬉しそうではない太郎さんだったが、こうも笑いの渦に呑み込まれた一同にはもはや効果はなかった。
さっきまでよりも、うるさくなってしまった……。
「しかし兄者、特に勉強せずとも合格点ぐらいゆうにとれるのでは?」
そう。そこが不思議だったのだ。
なにせ、太郎さんは名前の未記入という凡ミス中の凡ミスをしでかしたものの、解答欄はほぼパーフェクトだった。
きちんと名前さえ書いていれば、今頃順位表において、文字通り右に出る者のいない場所にその名が燦然と掲げられていたことだろう。
先生たちはよっぽど残念だったのだろう。0点表記の下にカッコ書きで本当の点数を書いて、『追試では、真っ先に名前書いてね』と言っていた。5教科全部で、5人から言われていた。
それくらい既に点数がとれるなら、今更勉強の必要なんてなさそうに思っていたのに、この太郎さんときたら……寝る間も惜しんで勉強しているのだ。
「本当にそこまでやらなくてもいいんじゃないですか? 赤点さえ回避できれば……」
まさか、私がこの台詞を言う日が来ようとは……
だけど太郎さんは、静かに首を横に振った。
「藍、僕はね、これでも愛宕山という名を背負ってここにいるんだよ」
「………………はあ」
隣の治朗くんを見ると何やら感激している。ダメだ、答えてくれなさそうだ……。
黙って聞くしかないな、これは。
「仮にもお山の名を背負った僕が、追試になっただけでも問題なのに……その上赤点ギリギリなんて点数で終わろうものなら顔向けできないよ! お山に帰れないよ!」
「は、はい……そのこころは?」
「追試では、この前以上の点数を獲得して見せないと、愛宕山太郎坊の名が廃るんだよ!」
太郎さんは、拳を握りしめて叫んだ。
でも大声で叫んだからか、息を切らせていた。
彼が自ら愛宕山太郎坊の威光を口にするとは珍しい……
よほど腹に据えかねていたのだろう。
「ようは……悔しいから前以上の点数とらないと気がすまないんですね」
というより……お山の名を背負ってるんなら、名前書き忘れるのが一番ダメなんじゃ……?




