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天狗様といっしょ  作者: kano
第二章
59/210

天狗様、再び(2)

 【天狗】

 深山に棲息するという想像上の怪物。人のかたちをし、顔赤く、鼻高く、翼があって神通力をもち、飛行自在で、羽団扇はうちわをもつという。 

――広辞苑より


もしくは……


日本固有の山の神の一。また,(トビ)(カラス)と関係の深い妖怪の一。修験道の影響を受け山伏姿で鼻が高く赤ら顔,手足の爪が長くて翼があり,金剛杖・太刀・羽団扇(ハウチワ)をもつ。神通力があり,飛翔自在という。仏道を妨げる魔性と解されることもある。

――大辞林より


 いずれにせよ、人のかたちをとるものの、翼を以て自在に空を飛び、神通力を操る人ならざる存在。

 魔性と捉えられる者もいるけれど、中には山の神、その眷属として信仰の対象となっている方もいらっしゃいます。

 例えば、この方々――



「いやーめでたい! 藍ちゃんはすごいぞ!」

「ホント、すげーや。まさかここまでやるとはな~」

「ああ、お嬢はやる時はやる子だって信じてたぜ」

 次々に聞こえる賞賛の声……

 ”藍ちゃん”とは、お恥ずかしい……私の事です。

『山南 藍』――ただの女子高生です。『小料理屋 ゆう』を営むお母さんと一緒に暮らす、本当に、本っ当に普通の女子高生なのです。本当です!

 ちょっと、いやだいぶ不思議な方々と知り合いなだけで――

 

 今日も今日とて騒がしい。

 皆さん夕方頃からやって来て、居酒屋代わりに宴会を始める。週末は特に集合率が高い……。

 今日は特に、彼らにとって喜ばしい……というか褒めるという口実があったせいで、全員集合していた。

 日本を代表する、大天狗様たちが――




「お嬢やるじゃないか。前日しか時間がなかったって聞いたのにな」

 そう言ったのは、歩けば誰もが振り返るカッコイイお兄さん。だけど腰には配下の管狐を封じた筒を下げた飯綱法の使い手の大天狗――飯綱三郎いづなさぶろうさん。



「うむ。もともとが努力家なのだろう。結果を出せるのは、日々の研鑽あってこそだ」

 いえいえまったくそんなことしてません……。

 こんな風に過剰に褒め湛えるのは、言葉の優しさの割に強面で筋骨隆々とした逞しい体躯の大柄な大天狗――英彦山豊前坊ひこざんぶぜんぼうさん。



「え~それもあるけどさ~やっぱ教える方の教え方も良かったんじゃね? 頑張ったよな?」

 軽い調子でそう言うのは、髪を軽く結った上に緩めのTシャツやらパーカーやらズボンやらを着崩しているチャラい若者風の、これでも大天狗――伯耆大山清光坊ほうきだいせんせいこうぼうさん。皆さんからはセイと呼ばれている。



「セイ。本番で結果を出したのは藍さんですよ。今日は、藍さんを労う会でしょう」

 こんな感じでいつもセイさんを窘めてくれる白峰相模坊しらみねさがみぼうさん。

 穏やかで(セイさん以外)誰に対しても優しい人です。怒ってるところをめったに見ないと、他の天狗様たちも言ってました。



「よくわからねえが、よく頑張ったんだな、姫は」

 豊前さんを凌ぐ巨漢であり、一度は我が家の勝手口を破壊せしめたこの方は、元鬼の大天狗――大峰山前鬼坊おおみねざんぜんきぼうさん。

 役小角という修験道の祖とも言われる人に、大昔から着き従っている。いつもニコニコと人懐こい方です。



「藍さん、おめでたいって言って逆にこき使ってしまって本当にすみませんね。あたしで良ければ、何でも言いつけてくださってかまいませんから」

 この人は後鬼ごきさん。前鬼さんの奥様で、同じく役小角さんの従者です。

 前鬼さんだけじゃなく、他の天狗様たちにも目を光らせていて、頭が上がらない方も多数……相談にも乗ってくれて、とても頼りになる姐さんです。



「藍ちゃんや。今日ぐらいは給仕は別の者に任せちまっていいんじゃないか? 儂ら今日は、藍ちゃんを褒めた湛えたくて集まってるんだしな」

 そう言って、親戚のおじさんムード満開のこのロマンスグレーのおじさま……先ほど出てきた役小角さんその人であります。修験者として道を開いた後、天狗としての名も与えられ、この場では石鎚山法起坊いしづちやまほうきぼうさん、もしくは親父さんと呼ばれています。

 余談ですが私とは遠い遠い遠~い親類にあたるらしく、姪っ子のように可愛がっていただいてます……。


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