ひとまずの、終幕?
「やれやれ、すっかりあてられたわい。いい夫婦になるんじゃないか? 前鬼、お前さんたちみたいにな」
「法起坊さま、俺もそう思います。なあ、後鬼?」
「あれが私たちみたい……というのはひっかかりますが、『いい夫婦になる』という点には同感です」
「あの二人、なんだかんだ言って、いい感じなんじゃん。俺らが押しかけて、共同作業の時間を増やしてやったおかげじゃね? なぁ相模?」
「迷惑をかけていたわけでもありますから、”おかげ”と言えるかは難しいですが……豊前、どう思います?」
「あの二人がもともと手を取り合える二人だった……そういうことだろう。きっと、俺たちが何もせずとも、いずれはあのようにじゃれ合っては寄り添う関係になっていたに違いない……」
「……豊前てさ……案外、ロマンチストじゃね?」
「ですね」
「治朗、お前さんはどう思うよ、あれ?」
「あれとは?」
「あの二人、随分距離が縮まったみたいだ。お前さんの望み通りだな」
「ああ、そうだな」
「良かったな」
「ああ、良かった」
「ええ~治朗くん、良かったって思うの?」
「母御前、何ですかいきなり?」
「んもぅ! 藍ちゃんの気持ちを完全無視して太郎さんとくっつけようとするのは、いくら何でもひどいんじゃない?」
「なっ!?」
「あ~やっぱりおふくろ殿気付いてましたか」
「当り前じゃない。私は母親よ。そして何年一緒に暮らしてると思ってるの」
「な、な……だったら俺にどうしろと?」
「んなモン、自分で考えな」
「は?」
「治朗くんがどうするべきか、じゃなくて、どうしたいかを考えて、行動してね」
「はぁ……? 俺が、どうしたいかとは……」
「悩め悩め、若人よ」
「青春ね」
「お、俺は……少なくとも母御前よりは年上ですが……」
太郎さんと私が戻ってきた途端、我が家はいつもの賑やかな姿を取り戻した。賑やか、というのも太郎さんたちが来るようになってから。『賑やか』と言うよりは『騒がしい』だけど……。
この後はまた、いつもどおりの宴会に突入するわけで……
「え? 今日は宴会はなしだよ」
と、唐突に太郎さんはそう発した。顔にアイアンクローの痕をつけながら、けろっとしてそう言うあたり、やっぱりなんかすごい……。
「え、ないんですか? じゃあ今日はもう解散?」
「ううん。みんな残るよ」
「え、なんでですか?」
私がそう尋ねると、太郎さんは、じーーーーーーっと私の顔を見ながら、じりじり近寄ってきた。
「藍……忘れたの?」
「な、何をですか?」
私が後ずさるよりも大きな歩幅で太郎さんはにじり寄って、すぐ眼前にまで迫ってきた。
息がかかりそうな距離で、その言葉は発せられた。
「明日から……中間テストなんだよ?」
「…………え?」
「この前の成果はゼロで終わっちゃったんだから、全部やり直しだよ。大丈夫、いつでも勉強再開できるように準備してたから」
太郎さんはどこからか、単語帳を取り出していた。その背後には、教科書や周期表や年表や、ノートや紙やペンや……色々手にした大天狗様たちが、怪しげな笑みを浮かべて、控えていた。
「さあ、さっそく修行を始めよう。まずは中間試験で平均50点をとること。大丈夫、夜は長いから……うふふふふ」
「ひっ……!」
久しぶりに聞いた気色悪い笑い方……!
もう、私はこの笑いから逃げられないのか――!?
こうして、私の、天狗様といっしょに過ごす日々は、まだまだ続くのでした。




