天狗様、工作す(7)
「え~と、あったあった」
母屋2階の私の部屋にある桐製の小物入れの引出の中に、それはあった。真っ白い立方体に紅いリボンの箱。そっとリボンを解いて中を開けると、貰った時から傷一つついていないピンクゴールドのリングが姿を現した。
なるべく指紋がつかないように箱から取り出して、ポケットにしまっていたチェーンの端を通すと、リングのペンダント……シェアリングが誕生した。
太郎さんの思惑通りに事が運んでいるようで、なんとなく複雑ではあるけど、貰い物は大事にしたいし、今のところ私が役に立てそうなものはこれを着けておくことぐらいだろうし。
電灯の明かりを受けてキラリと光ったリングを首から提げて、服の中にしまった。見つかったら何を言われるかわかったもんじゃない。
さて、お母さんのところに戻ろう。と、廊下に出ると、隣の部屋の明かりが目に留まった。
お母さんの部屋だ。今は、太郎さんがいて工作……じゃなくてお母さんを救う手だてを探してくれている。
…………見ちゃ、ダメかな? 何かできることがないか聞くだけでも……。確か、覗いちゃダメとは言われてないはずだし。
ちょっとだけ……そう思って、そっと……音をたてないように、襖を開けた。
「え」
「え?」
目の前に、太郎さんの目があった。
「「わぁっ!!」」
驚いて、二人同時に飛び退った。本当に、二人ともびっくりしていた……。
「び、びっくりした……どうしたの?」
「い、いや、どんな様子かなと思って……」
「だったら声かけてよ。なんで気配消すの?」
「それは…………ごめんなさい。まさかそんなところに立ってると思わなくて」
「ああ、だって怪我したから」
「怪我?」
太郎さんはぴっと人差し指を見せた。確かに、さくっと一筋、切れ目がいっている。ハサミで切っちゃったんだろう。
「血が出てるじゃないですか」
「うん。絆創膏、ある?」
「私の部屋にありますよ。ちょっと待っててくださいね。そ・こ・で!」
「……はい」
私は、なんとか太郎さんが部屋についてくることを阻止した……!
「はい、これで大丈夫です」
「ありがとう」
太郎さんは、絆創膏を巻いた指をしげしげと見つめていた。
「どうかしたんですか?」
「ううん、何でもない」
「? そういえば、何やって切っちゃったんですか?」
「え、ああ、紙で人形作ってて」
そう言って指さした先には、私が渡したハサミと、紙の残骸が落ちていた。何やら人間の形らしきものは見える。見えるけど、どれも足やら手やらが切り落とされていて……
「なんか、痛そう……」
「だよねぇ……ねぇ、お願いが……」
「わかりました。作ります」
「何も言ってないけど……いいの?」
「折り紙になってもいいですか? 紙一枚を切るのは苦手なんで」
「うん、もちろんだよ。ただし、この人形は僕だって思いながら折ってね」
「……はい? 太郎さんだって思いながら?」
「うん」
嬉々として頷いているからきっとそれでいいんだろう。私は残っていた紙を取って、記憶にある人形の折り方をなぞった。
でも……なんか、呪いをかけてるみたいでちょっと怖いな……。
「はい、できましたよ」
「うわぁ、すごい! よく手本もなしにこれだけ折れたね!」
太郎さんは思ったよりも感激してくれた。これだけ目をキラキラされたら、ちょっと悪い気はしない……。
「ふ、ふふん。折り紙は得意なんです」
「一人でもできるもんね」
「……っ!!」
この人……人の急所を……!
「あ、ごめんごめん。藍は器用だからね」
「もう遅いです」
「ごめんって、怒らないで。もう一つ頼みたいんだから」
「…………なんでしょう?」
「ここに、僕の名前書いてくれない?」
ここ、と指したのは折り紙人形の胸から腹部分。たしかに、名前を書き込むぐらいのスペースはある。
だけど………………何故に??
なんて考える暇も聞く暇も与えず、太郎さんは私に黒いペンを渡してきた。
「早く早く。漢字で書いてね。豊前が来たらすぐ始めるんだから」
「は? 漢字くらい書けますよ! 豊前さんが来たら? え? 何を?」
まずい、混乱してきた……。
「落ち着いて。今回の術を”返す”準備はできたから。あとは豊前を待つだけなんだよ」
「”返す”? って誰に……?」
「いいからいいから」
太郎さんは、とにかく急かしてくる。よくわからないけど、名前を書きさえすれば答えてくれるんだろう。
「……はい。書けました」
「ありがとう」
受け取る太郎さんは、嬉しそうだ。宿題を手伝ってもらった小学生みたいに。……ちょっとズルになるけど。
「それ、何に使うんですか?」
「え? 燃やすんだけど?」
「も、燃やす!!?」
急に呪いめいてきた! よくわからないけど、さっき太郎さんの名前を書いちゃったけど大丈夫だったんだろうか……?
「燃やして……お母さん、目が覚めるんですか?」
「母君の話とはちょっとだけ違うかな。これは、僕のため」
「? 太郎さんの……?」
もう少し尋ねようとしたその時、頭の中に何かが割り込んできた。何かというのは、子どもの頃からの習慣だからわかっている。
これは、治朗くんが思念に割り込んできた時のサインだ――!
――兄者! 藍! 母御前が危ない!
「!」
簡潔に伝える言葉……間違いなく治朗くんが呼んでいる。
「行こう」
太郎さんが、さっきまでとは打って変わって神妙な面持ちで頷いた。頷き返すと、太郎さんは私を先導するように前に立って走り出した。
その手には……私が追った折り紙人形とハサミ、そしてさっき見せてくれた幼稚園時代の絵を抱えていた。
いったい……何をどうするつもりなんだろう???




