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天狗様といっしょ  作者: kano
第一章
42/210

天狗様、工作す(2)

「はい?……わ、私?」

 みんなの視線を一手に受けてなんとか絞り出した言葉が、そんなものだった。

 だけどみんなは呆れるのではなく、後押しするかのように一様に頷いて見せた。どういうことなのか、説明を求めて法起坊さんに視線を戻した。

「理由は2つだ。1つは、親子だから」

「え? わかるようで、まったくわからないんですが……」

「親子だからだろうな。藍と母君の気の波動はよく似ていてな。この中で一番彼女の気に近い藍なら、彼女の夢にもぐりこめる可能性が高いというわけだ」

「な、なるほど……それでもう一つの理由は?」

「これもやっぱり、親子だから」

「え、本当にわからないんですけど……!?」

「親子だから、落ち着いてじっくり話を聞けるだろうと思ってな。儂や治朗みたいな強面が行ったら緊張するだろう?」

「法起坊どの、なんで俺までそこに含めるのですか」

「むやみに睨んで怖いからだよ」

「そんな!」

「では私は!? 私ならば治朗よりは物腰穏やかですし、母君とも懇意にさせていただいておりますよ」

 急に名乗りを上げた僧正坊さんに法起坊さんは少し驚いた様子を見せていた。だけどすぐに表情を元に戻して告げた。

「さっきも言ったろう。気の波動が近い藍が適任なんだ。儂が補助する。太郎坊、お前も手伝え」

「はい」

 善は急げ、とでも言うように法起坊さんと太郎さんは何かしらの配置についた。例によって例の如く、私は置いてけぼりにされたままだ。そんな私を囲んで、法起坊さんと太郎さんが呪文を唱えている。

「こ、これはいったいどうすれば……!?」

 二人を見て慌てふためく私に、後鬼さんが優しく語り掛けてくれた。

「ご心配なく、藍さん。あなたとお母様の夢をつなぐための術です。これで、あなたが眠りにつけば、お母様とお話が出来るはずですよ」

「ほ、本当ですか……?」

そうこう言ううちに、ふたりの呪文?は終わった。ふぅっと一息つくと、揃って私を見て言った。

「終わったよ。さぁ、寝て」

「いきなり眠れるわけないでしょ!」

「部屋に戻ってもいいよ? 僕がついててあげる」

「いりません! 何食わぬ顔して部屋に入ろうとするな! 寝顔見ようとするな! あわよくば、とか考えるな!!」

「僕のことよく分かってるね。でも怒らないで。興奮したら余計眠れないよ」

「怒らせてるのは誰ですか!!!」

 相変わらず話が通じるかと思ったら通じなくなる……。太郎さんは興奮のあまり肩を上下する私を見て、う~んと何か考えて……私の手を取った。

「仕方ないなぁ」

 あ、何か吸われてる……。いつもの感覚に見舞われたかと思ったら、太郎さんは私の目の前でくるくる指を回し始めた。

「ほら、眠くなる。眠くな~る」

「眠く……なるわけ……zzz」

「寝た……!」

 一同の中から驚きの声が漏れた。

 後で聞いた話だけど、人の意識を操作して、ましてや覚醒状態をムリヤリ催眠状態まで落とすのはかなり高度な術なんだとか。それをあっさりやってのけた太郎さんと、あっさりかかった私に驚いていたそうな……。

 法起坊さんだけが、呆れ顔で太郎さんを見ていた。

「太郎、お前さん、ほんと便利なんだか不便なんだかわからん奴だな。気を吸いさえすればあらゆる術を使いこなせるが、逆に言えば誰かから貰わない事には何一つできんとはな」

「うん、彼女に会えて良かった」

「まぁそれはいいが、今の術は悪用するなよ」

「今の術?」

「今の、瞬時に眠らせるやつだ」

「ああ、これを悪用?………………ああ、うん、しないしない」

「……本当に大丈夫だろうな?」

「だ、大丈夫だよ」

「……………………」

「ほんとに大丈夫だよ……たぶん」



 さて、そんなやりとりがあった頃、私は意識の淵に沈んでいた。

 沈むと言うより、泳ぐという感覚に近かった。地に足は付いていないけれど、手足をばたつかせてなんとか進むことができて、重力を感じないふわふわした感じがまさしくそうだ。

 最初はいったいどこにいるのかわからなかった。だけどどこか見覚えがあった。見覚えはあるけど、どこか知っている風景と違うような感じ……と、俯瞰で見てやっとわかった。ここは、私の家だ。天井の梁ぐらいの高さから見下ろしているから不思議な感じがしたんだ。

 このままでは変な感じがするから早く下りたい。そう思ったとたん、私の体は急に重力を取り戻した。

 どすん! と音を立ててしりもちをつくと、いつもの見慣れた風景が目に飛び込んできた。いや、これが見慣れた風景と言うのも複雑だけど……。

 風景が戻ってくると、今度は良い香りがしてきた。この香りは、これこそ覚えがある。私は香りの元へ向けて走り出した。確かめなくてもわかる。この香りの正体は――

「~♪ ~♪」

 鼻歌交じりで台所に立つ、割烹着を纏った後ろ姿。この姿は、間違いない……!

「お母さん!」

 私ん声にぴくりと肩を震わせて、そっと振り返ったその人は……やっぱりお母さんだった。

「藍ちゃん!?」

 私以上に驚いていた。当然だろう。ここはお母さんの夢の中だ。私の来訪なんてまったく予想外だろう。

「どうしてここに? ここってお母さんの夢でしょう? あ、そうか。藍ちゃんに会いたいからどこかから出てきたのね」

「あ、あのねお母さん。よくわからないけど、法起坊さんと太郎さんに送り込まれたの。つまり私は夢の中の私じゃないです」

「あら、そうなの? 天狗さんてよくわからないことするわねぇ」

 その言葉自体には全くもって同感なんだけど、今はそれどころじゃない。

「あ、あのねお母さん。今、お母さんはなんか術にかけられて目が覚めないらしいの」

「あら、そうなの? どうりで夢の時間が長いなと思ったわ。暇だから延々とご飯作っちゃった。藍ちゃん食べてく?」

 よく見たら台所の机の上には出来上がった料理の皿が所狭しと並べられていた。もう置くところはない。今作っている煮物はどこに置くつもりなのか……。

「食べたいけどそれどころじゃないんだってば。どうにかしてあげたいけど、方法が分からないの。お母さん、この1ヶ月ぐらいの間、何か変なことはなかった? 誰か変な人に遭わなかった?」

「変な人? 天狗様たちぐらいかしら」

「確かにあれ以上変な存在とは今後一生出会わないだろうけど……!」

「大丈夫よ。太郎坊さんが何とかしてくれるでしょ」

「もう! なんでそう楽観的なの! ていうかなんであの人とそんな仲良いの!」

「ええ~だって太郎坊さんとは散々喧嘩して戦った仲だもの。ライバルを通り越して友情が芽生えた、みたいな?」

「なに少年マンガの主人公みたいなこと言ってんの……!」

「あら藍ちゃんこそ、どうしてそんなに信頼ないの?」

「どうしてって……日頃の行いの結果というか……」

「日頃? 随分助けてもらってるじゃない」

 言われて思い返してみれば……そうかもしれない。お料理の手伝いも、学校であやかしに襲われた時も、ショッピングモールであやかしに出くわした時も……太郎さんが何とかしてくれた。

 その都度、冷静な対応をしているのも確かだ。その度見直している気がするけど……その度、何かしら台無しな行動をするからまた印象がマイナスに戻っているというのも確かなのだ。

「う、う~~~~~~~~ん……」

「まぁ確かに時々、ちょっと気持ち悪くて根暗でマイペース過ぎで話通じなくて無神経で自己中でウジウジしてて弱っちくて空気読まないめんどくさいところはあるけど……」

「お母さん、私、そこまで言ってない……」

「でもまぁ、大丈夫よ。もうちょっと信頼してあげなさい。何があっても、あなたを傷つけるようなことだけは決してしないわ」

「私を……?」

「ええ」

 そう言うお母さんの笑みには、なにか逆らいにくい力があった。きっと、何を言っても答えは一つなんだろう。

「……わかった。お母さんがそう言うなら、そうする。あんまり答えになってないけど」

「あら、任せたって伝えてくれたらいいのよ」

「はぁ……じゃあついでに、他には伝えとくことある?」

「他に? そうねぇ………………あ!」

「なに?」

「僧正坊さんに、お茶漬けをお出しして頂戴」

「…………は?」

 なにゆえ”お茶漬け”? それも僧正坊さんだけに? 最近感じる僧正坊さんへの依怙贔屓えこひいきだろうか。

 そう聞こうとした瞬間、ガクンと強い力で引っ張られる感覚がした。また、来た時のような浮遊感に見舞われたかと思ったら、どんどん上へ上へと引き上げられていった。

「頼んだわよ~♪」

 お母さんはものすごく気分よさげに、離れ行く私にそう叫んだ。


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