天狗様、市(ショッピング)へ行く(3)
「「「おおきいの~!!」」」
目的地についてすぐの、狐ちゃんたちの第一声は、3人そろってこれだった。
そうは言っても、私達もみんなほぼ同じ感想だった。
「ここまで大きいとはな」
「今までちょっと大きいスーパーにしか行ったことなかったもんねぇ」
「人……多そうだね」
太郎さんは少しだけ俯き加減に言った。心なしか、いつもより顔色が悪いように見える。人に酔いやすいんだろうか?
「……太郎さん、大丈夫ですか?」
「平気……君が手をつないでいてくれれば」
そろっと手を掴もうとするので、するりとかわした。
「却下」
心配して損した。私は狐ちゃんたちを先導してさっさと子供服売り場へ向った。
「お前さん、なんであんな回りくどいことしてんだ?」
「……何のこと?」
三郎は、前方をかしましく歩く女子4人を見守りながら、隣に立つ太郎に尋ねた。
「俺との会話を聞かれたくないなら、そもそも連れてこなけりゃいいだろうが。あの子には治朗がついてんだから、目の届くところにいる必要もないだろ」
「……三郎にはわかんないよ」
「おお、すいませんね。所詮、だいぶ前に人間やめた身には、恋心なんざわかりませんよ」
「…………」
「わかった、悪かったよ。そう拗ねなさんな。本題の話を聞こうか」
「うん……ちょっと、変わったあやかしを見たんだ」
――約2時間後
「これで、どうでしょう……!」
ショッピングモール内にある有名百貨店の支店内にある子供服売り場の中心で、私は唸るように声を吐き出した。
私たちの前には、黒と白を基調としたワンピースを纏った三人の女の子が並んだ。
このワンピース、一見シックでシンプルな一枚もののワンピースのようだが、実は何枚かの生地を重ねた”重ね着風”に作られている。ワンピースの裾などから、ところどころチェックの生地が見えて、それが3色の色違いで用意されていた。琥珀ちゃんは黄色、珊瑚ちゃんは赤、翡翠ちゃんは青のチェック生地が、スカートが翻るたびにちらっと見えて可愛らしい。
そして、靴もこだわってみた。ワンピースは同じデザインだから、靴はそれぞれのイメージと本人たちの希望を取り入れて変えてみたのだ。アクティブな琥珀ちゃんはブーツに、珊瑚ちゃんはニーハイソックスにストラップ付のパンプス(低ヒール付)、翡翠ちゃんはひざ下のハイソックスでパンプス(ヒールなし)にした。
最後は髪飾り。3人とも綺麗な白い毛並みが銀髪に姿を変えていて、櫛を通すだけで艶やかだったけれど、何もしないなんてもったいなかった。デザインがおそろいのコサージュが、リボンだけ色違いで並んでいたので、ここでもそれを採用! レースとリボンで花の形に整えられた可愛らしくも大人っぽいコサージュだ。
銀髪の中に比較的多めの小麦色の髪が混ざる琥珀ちゃんは、高い位置でポニーテールにして、そこに黄色いリボンのついたコサージュをつけた。彼女の元気を象徴するような色合いになっている。
銀髪に少しだけ赤髪が混ざった珊瑚ちゃんは、低い位置で横にずらして一つにまとめてみた。紅いリボンが、お姉さんぽく見せている。
翡翠色混じりの銀髪の翡翠ちゃんは、低めの位置で二つ結びにして、片方をリボンに、片方をコサージュにとアシンメトリーにしてみる。大人しい翡翠ちゃんに、青いリボンが良く似合っている。
「どうですか、お父さん……! 」
「誰がお父さんだ」
すかさず突っ込む三郎さんだったが、ふむふむと狐ちゃんたちを眺める様子から見るに、おそらくまんざらでもないと思われる。
それに対して、座り込んでただただ2時間あまりぼーっと眺めるだけだった治朗くんからは、ため息を頂戴した。
「長い…………! 服と靴と髪飾りで、どれだけ待たせる気だ」
”辟易している”と顔に書かれている。もともと短気だし、飾りっ気もないので、服選びでこれだけ時間をかけるというのが理解できないんだろう。だがしかし、言わずにはおれない……!
「治朗くん、女性のお買い物は、時間がかかるものなんだよ。それを笑顔で見守って待てるかどうかが、男の器というものじゃないかな」
「……俺は”男の沽券”だの”男そしての器”だのといったものとは離れた次元で生きているから、さっぱり理解できん……!」
「え、俺はなんとなくわかるけど?」
「!」
治朗くんが示そうとした威厳らしきものを、あっさりと崩した三郎さん。どうやら今は、味方のようだ。
「ですよね、さすがは三郎さん」
同志(?)として握手を求めると、三郎さんは苦笑いして身を引いた。
「握手したい気持ちはあるが……お嬢に触ると太郎にとんでもなく怒られるからなぁ」
「え、太郎さんが?」
そういえば……セイさんや前鬼さんと話した時も、そんなことをしていたような……。別に握手くらいいいだろうに。
「太郎さん、どうしてそこまで……あれ?」
一言言おうと思って振り向くけど、そこに太郎さんの姿はなかった。
「あれ? あれ?」
四方どこを見回してもいない。頭ボサボサで、目の下に隈があって、猫背気味で俯き加減の人――。あそこまで揃ってる人はそう見ないのに、今はいない。
「あの、太郎さんは?」
「え、あ、あぁ……そういやどこ行ったんだろうな」
「厠だろう」
厠=トイレ……そうならいいけど、ちょっと気になる。ここに着いた時、少し元気がなさそうだったような気がするし。
「まぁまぁ、いいじゃねえか。そのうち合流するって。それよりホラ、ファッションショーは終わりか? なんなら和装も――」
「いや、私は和服は……」
「いいからいいから」
なんだか、太郎さんのことから注意を逸らせようとしていないか? そんなことをされると余計に気になる。何をしているのか、も気になるけれど、ちゃんと無事でいるのかも、今は無性に気になる。
「あ、あの……私やっぱり探してきます!」
売り場へ促そうとする三郎さんを振り切って、私は駆けだした。
「あーあ、逃げられた……」
「またあいつは一人で……」
やれやれと悪態をつきながら、治朗が腰を上げた。
「おいおい、ついてく気か? 野暮ってもんだろう」
「失敬な。二人からは見えないところで様子を見るだけだ」
「それが野暮だってんだよ。くっつけたいなら少しは本当に二人にしてやれ」
「そんなことを言っている場合では……」
「この人だかりだ。思念が多すぎて、俺たちはかえって役に立たんかもしれん」
「だが……」
「だいたいお前、お嬢と太郎をくっつけようと躍起になってるみたいだが、ちと酷じゃないのか?」
「な、何がだ?」
「お嬢の思念からダダ洩れになってるぞ。お前、あの子の好意をカウンターで叩き潰したってな」
「なっ!!」
「お前から太郎と恋仲になれって言われ続けるのは、いくら何でも惨いだろうよ。それをお嬢はああして明るく耐えて、健気なこった」
「し、しかし……俺にはどうすることも……」
「まぁ、もうどうにもできんな。太郎がなんとかお嬢を元気にしようと、ああしてピエロになってくれている間に、もうちょっとマシなフォローを考えるんだな」
「ぴ、ピエロ?」
「あれはどう考えてもそうだろう。真面目にあんなことしてる奴がいたらおまえ、変態だぞ。ああして変なことしてる間はお嬢は少なくとも元気だからな。嫌われてでも、彼女を励ましたいのさ」
「変態? そ、そうなのか?……兄者は、藍から罵られても張り飛ばされても蹴られても投げ飛ばされてもゴミクズのように見られてもいつも、本気で喜んでいるようだが……?」
「……………………お前それ、本気で言ってる?」
「本気と言うか……本当だが」
「………………………………」
三郎は言葉を失くし、深く深くため息をついた後、静かに天を仰いだ……。




