表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
天狗様といっしょ  作者: kano
第一章
27/210

天狗様、市(ショッピング)へ行く(2)

 校門前につくと。ちょっとした騒ぎになっていた。

 黙って一人で立っていれば”ちょいとワイルドでハンサムなお兄さん”である三郎さんであるからして、当然女の子たちの視線は釘付けになる。その女の子たちの波を掻き分けて、さらに声をかけるには勇気がいった……。

「おう、お前ら! 遅かったな」

「三郎、お待たせ」

 三郎さんが私たちに向けて大きく手を振ると、人垣がさっとはけて通り道が出来た。そこを通る時の視線と言ったら……業務用冷凍庫みたいだった。

「三郎、もっと人少ないとこで待っててよ。すごい目立ってる」

「何だよ、待ち合わせは目に付くところでするもんだろ?」

 この人は気付いていないんだろうか。私たち(太郎さん除く)が、目の保養になるイケメンを攫う悪の組織のように睨まれているということを。



 ぶーぶー文句を言う三郎さんを、何とか人の少ない裏通りまで連れて行き、ようやく話をする事が出来た。

「じゃあ今日は、管狐ちゃんたちのお買い物なんですか?」

「おうよ。この前みたいな正式な場に出る時の服装を、こいつら持ってなかったからな。ひとつ正装を選んでやってくれよ、お嬢」

 この前のあれは……正式な場なのか? あと「お嬢」って……なんか言い方がヤクザっぽくなっていく……。

「天狗ってのは男ばっかりだからな。どうも女の子の服ってのはわからん」

「はぁ……まぁ、わかりました。で、肝心の管狐ちゃんたちは?」

 三郎さんはにやっと笑うと、腰から下げていた何本かの筒の封を解いた。すると、中から光が溢れ出てきて、やがて小さな形に収束した。三人の、小さな女の子に。

「珊瑚、まかりこしました」

「コハク、まかりこりしました」

「ヒ、ヒスイ……来ました」

 3人はちょこんとお辞儀をして、挨拶をしてくれた。

 ダメだ、もう…………

「か、かわいい~~~~~!! みんな、こんにちは~~~~~!」

 私の黄色い声に応えるように、管狐ちゃんたちはきゃわきゃわし始めた。

「おねえさんだ~」

「太郎坊さま、お久しぶりです」

「治朗坊さまも……」

 私が3人に抱き着く様を、男3人は生温かい目で見ていた。

「まぁ喜んでくれて何よりだ。こいつらも、ずっとお嬢に会いたがってたからな」

「ホントですか!?」

「お姉さん、すき~」

「ご、ご主人様の次に……」

「……やさしい……」

「う、嬉しい! 私も大好きだよ~」

 テンションが上がり続ける私に、治朗くんが半分怯えながら話しかけた。

「あ、あのな藍。人通りが少ないと言っても、大声を出せば聞こえるんだぞ」

「だって可愛くて仕方ないじゃない。小さい頃から私の身の周りには、不愛想で頑固な男の子が一人しかいなかったんだから」

「う……」

 なんだかダメージを受けた治朗くんはほっといて、今は管狐ちゃんたちだ。私は今日、彼女たちを可愛く見立てるという大役を任せられるということだけど……。

「三郎さん、本当にいいんですか? この子たちの見立てが私で。私、今まであんまりオシャレとか気にしてこなくて……」

「え? でも君、毎日毎晩、寝る前にファッション雑誌読んでなかった? これいい~とか、これとこれの組み合わせかな~とか、いつも楽しそうじゃない」

 三郎さんの代わりに応えたのは太郎さん。答えた内容が正確すぎて、聞き逃せないんだけど……。

「……それを、いつ、どこで、聞いたのか……お答え願いましょうか」

 太郎さんは、私の顔を見たまま、まっすぐに答えた。

「え、毎晩、君の部屋の前で、だけど?」

「ひぃっ……!!」

 さらっと正直に答えやがった! そこは少しは怯えなさいよ……じゃなくて!

 最近うっかり忘れがちだったけど、そうだった。この人、ちょっとだいぶヤバいんだった……!

 ていうか、廊下でそんな怪しいことしてるこの人を止めない治朗くんとお母さんもどうかしてないか?

「と、とにかく……今日から私の部屋の周囲、半径50m以内は立ち入り禁止!」

「そ、それじゃ居間に入れないよ……!」

「じゃあ、母屋の2階禁止!! これ絶対!!」

「はいはいはい、じゃれるのはそこまで」

「じゃれてません!!!」

 三郎さんがまとめに入ろうとした。まとめていいけど、そのまとめ方はやめてほしい……!

「はーい、じゃあこれから一駅向こうのショッピングモールに行きまーす」

 三郎さんが行くと言ったのは、電車で一駅の場所にある最近できたショッピングモールだ。駅から直通通路があって雨でも濡れずに異動できる。色々なジャンルのお店をはじめ百貨店までが入り、フードコートも充実、イベント会場も併設されていて、週末はアーティストが無料ライブを実施したり……休みの日に一日遊べる場所だ。

「商店街じゃないんですか?」

「商店街だと店が限られるからな。色々見せてやりたいだろ」

「それもそうですね。じゃあ、駅に向かいますか」

 と言うと、三郎さんが人差し指を立ててチッチッチッと振って見せた。

「お嬢、俺は今日、何のために校門前で待ち伏せしてたと思う?」

「待ち伏せって、隠れてることじゃないんですか? めちゃくちゃ目立ってましたよ」

「いいんだよ、細かいことは! とにかく今日はだな、俺の大人としての威厳を……」

「コハクたちががんばるの~!」

「え、琥珀ちゃんたちが?」

 琥珀ちゃんたちに先を越されたのか、三郎さんは咳払いして、管狐ちゃんたちを整列させた。

「あ~見ての通り、お姉さん、すっごく楽しみにしてるぞ。お前たち、さっき教えたとおりにできるな?」

「「「はい!!!」」」

 3人揃って、とってもいいお返事だった。すると、3人揃って、目を閉じてなにかを念じ始めた。

「何が始まるんですか?」

「まぁ見てなって」

太郎さんの言葉とほぼ同時に、3人は急に光を放った。さっき管から出てきた時と同じだ。そして人の形だったものが溶けて、再び別の形を成していく。

3人力を合わせた、ワゴン車に……!

「うわぁ……!」

「驚いたか、すげぇだろ、うちの子は」

「すごい……! すごいけど、すごいショッキングピンクですね」

「うっ、す、すまん……。ついさっき、そこにクレープの店が出ててな……」

 そういえば放課後にはいつも、ワゴン販売のクレープ屋さんが出てたっけな。きっと美味しそうだったんだな……。

「この車が、狐ちゃんたちなんですか? こんなことも出来るんだ」

「普段はあまりしないがな。変化の術も、ようは自分の気を制御出来るかどうかにかかっている。だからか三郎は昔から、幼い狐たちにはこれで気の扱い方を覚えさせていたな」

「へぇ……」

「お嬢も一緒にどうだ? 今よりは気の扱いに慣れるぜ。何なら俺が手とり足取り……」

 と、そこまで言って、三郎さんの顔色が変わった。

「三郎……」

 なんか、背後で声が聞こえるんですけど。

「なんてな、冗談だって……ハハハ」

 私の背後に何を見たか、想像に難くない……。

「さ、さぁ~みんな乗ってくれ。出発進行!」

 ごまかしながら三郎さんが乗り込もうとするけど、その席は……。

「って、誰が運転するんですか?」

「え、俺でしょ。この流れだと」

「………………三郎さん、免許は?」

「……………………………………」

 他の二人が持っているはずがない。一応”高校生”なんだから。

「じゃあ……乗れないんじゃ……」

「待て待て待て。お嬢、柔軟に考えようぜ。これは普通の車じゃない、あの3人なんだ」「なおさら乗るのが忍びないです」

 大人4人が幼児3人に乗ってる図は、あまり考えたくない。と思っていると、何やら聞こえてきた。


――乗ってほしいの!

――ちゃんとみなさんをお連れします!

――がんばる


 車が喋った……! すごく意欲的に……!

「ほらな。まぁ道順は説明しながらだが、自動走行ってことで行けるさ。というか、それも今回の目的の一つなんだ」

「そ、そうなんですか……!」

「つまりは課外授業だね」

「まぁ、山と違って空気が悪いのだけは心配だが、三郎の判断に任せよう」

「わ、わかりました……」


 こうして、4人と3人が化けた車でお出掛けすることになりました。

 最初は狐ちゃんたちに申し訳ない気がしてたけど、乗ってみたら乗り心地が良くて、そのことを喜ぶと狐ちゃんたちはさらに喜んでくれたので、結果的には良かったんだろう。

 三郎さんが無免ながら運転手席にいてそれらしい動きをしていたことだけが、唯一気がかりだった。検問に引っかかりはしないかと、もう気が気ではなかったのだ……!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ