天狗様、市(ショッピング)へ行く(1)
「ねえねえ、山南さん。どういうアクセサリーが好き?」
「……へ?」
「山南さん、キリっとしてるから、こういうデザインなんか似合いそう!」
「こっちのシンプルなのもね」
「ねぇ、この中だったらどれが好き?」
最近、クラスの女子からやたら話しかけられる。服の好みだとか、食べ物の好みだとか、好きな教科だとか、好きな芸能人とか……プロフィール欄に書くようなことはひとしきり聞かれた。
最初は戸惑った。そして、ちょっと嬉しかった。今までそんな風に興味を持ってもらえたことが皆無だったから。ずっと治朗くんと二人でいて、そういう会話とは縁遠い生活でいたら、自然と女の子たちのはしゃぐ空気が苦手に感じるようになっていっていた。だけど、ああいう女の子らしい会話に参加したいと思ったことがないわけではなかった。
今日みたいに、可愛い服やアクセサリがたくさん載った雑誌を見ながらあれこれ話すのは、とりとめもなくて、結論もあまりなくて、ちょっとストレスに感じることもあるけど……ほんのちょっとだけ、楽しい。
「太郎くん、山南さんはこういうシンプル系を選びつつ、実はこういったカワイイ系にも興味ありのようです!」
「そうなんだ……ありがとう。ご苦労様でした」
「いえ! 私たち、TKO(太郎くんの恋を応援する会)ですから!」
会話の直後に真横でこんなやりとりが聞こえてさえこなければ…………!
太郎さんが転校初日に鮮烈なデビューを飾ってからというもの、校内では瞬く間に彼の人気が高まり、私設ファンクラブ……ではなく、私設応援団が結成された。
その名も「太郎くんの恋を応援する会」、略して「TKO」。男女問わず会員数を伸ばしており、いまや全学年の50%が在籍しているとの噂もある。
それがあながち大げさな数字でもないようで、毎日毎日全く知らない人から”太郎さんの素晴らしさ”について語られる。もはや新興宗教に近い気もしている……。
正直、この人にここまでの人望があったとは、想定外だった……!
「ねえ、藍。学校終ったら買い物に……」
「行きません!!」
どの口が、すぐ真横で聞きだした情報をもとに誘えるのか……。神経が図太すぎるだろうが。とりつく島など、与えてなるものか。
「……心配しなくても、僕と二人じゃないよ。治朗も行くし、あともう一人も」
「……もう一人?」
「いや……もう4人かな?」
「?」
「太郎くん、頑張って」
「健闘を祈ってるよ、太郎くん」
「太郎くんなら、きっとできるよ」
放課後、どこから聞いたのかすごい大勢が教室に詰め掛けて、口々に太郎さんにエールを送っていた。太郎さんもまた、一人ひとりに真摯に対応していた。慕われる理由がそこにあるんだろうけど……。
「頑張って、山南藍と恋人になってね」と、当の山南藍の目の前でどうして言えるのだ、この人たちは……?
なんだか複雑な気分でいると、今度は窓の外から別の歓声が聞こえてきた。
「何かあったの?」
窓際にいる治朗くんに聞いてみた。
「おそらく、あれだろうな」
あれと言って指さした先は校門。そこに、主に女子を中心に人だかりができいる。
「誰か芸能人でも来てるの?」
「さあ、わからん」
人だかりが大きすぎて、肝心の中心にいる人物が見えなかった。私たちがなんとか覗き込もうとしていると、背後から太郎さんがひょいと顔を出した。
「あ、来たんだ」
「来たんだって……知り合いですか?」
「うん、三郎」
三郎……管狐使いの飯綱三郎さんだ。あの後聞いたところによると、元人間の術者で、卓越した才能を持っていたことから天狗に迎えられ、すぐに二代目・飯綱三郎の名を継いだとか。本人はいたって気のいいお兄さんという感じの人だったと覚えている。
「三郎を呼んだのですか? いったいなぜ……」
「う~ん、交換条件?」
「よくわからなけいど、今日お買い物に一緒に行くのが三郎さんてことですか?」
「うん、まぁいいじゃない。とにかく行こうよ。三郎を待たせてるし」
そう言うと、太郎さんはスタスタ歩いて行った。妙に足早だ。いつもはもっとヒョロヒョロ歩いていて、絶対私たちに遅れてくるのに。
何か……企んでる?




