天狗様、登校す(4)
かかってきた人数は5人。同じクラスが3人、残りは別のクラスだ。
動きから見て、武道の経験者は根岸一人。根岸は空手で市大会上位に入ったことがあるとは聞いていた。だから彼の動きには最も注意して、他の奴らの間合いを計る。
案の定、一斉にかかってきてぶつかりそうになってる。体捌きができてないんだ。
互いに距離をとりかねて軽くたたらを踏んだその瞬間に、一気に間合いに踏み込んだ。
「はっ!」
1人目に中段蹴りを、次いで2人目に拳を叩き込んであっという間に制圧した。続いて迫ってきた3人目も攻撃をかわして、蹴り一発で地面に沈めると、4人目が後ずさって根岸のそばまで戻っていた。
「うえ、なんだコイツ……」
「だから、コイツは強いって言ったろ。クソッ、あっちのヒョロいのをやるつもりだったのに……!」
根岸が歯噛みしながらそう言った。やっぱりそうだったか。例え私が太郎さんから離れなくても、5人でかかれば何とでもなると思ったんだろう。
昔からこういう時のための訓練を治朗くんから散々やらされてきたのが役に立った。
地面にうずくまる3人と立っている2人を交互に見て、構えを正した私に、根岸たちは身を固くした。
「ち、ちょっと待てって。俺ら、ちょっと話したいだけだって」
「いきなり殴りかかってきたでしょ。あれは何の話?」
「くっ……」
私が一歩前に踏み出し、彼らがそれに対して構えようとした。
と、その時太郎さんが、静かに歩み出た。
太郎さんは、そっとわたしの拳を収めようと優しく触れた。
「藍、大丈夫だから」
「大丈夫って……」
さっき、殴りかかられましたけど?
「そんな風に敵意ばかり向けてちゃ何も知ることはできないよ。君みたいな強い人が構えてたら尚更ね」
「太郎さん?」
「君の勇姿は見ていたいけど……とってもとっても見たいけど、それで君が負の感情を向けられるのは本意じゃないな」
「いやいやいや。あなたさっきから散々敵意向けられてましたよ? 教室でのあれ、まさか本当に足長いからひっかかっちゃったとか思ってます?」
「あれは仕方ないよ。彼の好きな子が僕に声かけてきたんだから。面白くはないでしょ」
「なっ!!?」
太郎さんが言うのとほぼ同時に、根岸が顔を真っ赤っかにさせた。怒ってるのか恥ずかしいのか、両方か……。
「あ~いや、でもね。だからってあんな絡み方していいわけじゃないでしょ」
「小学生が好きな子いじめるのと理屈は同じだよ。自分の中のモヤモヤをどう発散させればいいかわからないんだ。わからないと、一番短絡的な暴力に走る。ね? どうしていいかわからなかっただけなんだよ」
「”ね?”って……何のフォローにもなってませんよ。ていうか、どうしてそこまでして庇うんですか?」
「う~ん……同じ恋する者として、ちょっと共感というのかな」
「短絡的とか小学生とか、人の気持ち勝手に暴露したりしといて、”共感”……?」
「う、うわあぁぁぁぁぁ!」
突如、咆哮とも嘆きともとれる叫び声が響き、顔を真っ赤にした根岸が太郎さんめがけて突っ込んできた。さすがに耐えられなくなったらしい。
太郎さんは微動だにしない。このままだと間合いに入られる――!
私は咄嗟に太郎さんの前に出て、構えをとる。空手経験者とは思えない滅茶苦茶な拳をかわして顎めがけて足を振り上げ――
バキッ
上段回し蹴りが入った。我ながらきれいに決まったと思う。
根岸はそのまま倒れ込み、動かなくなった。……さすがにちょっとかわいそうかもしれない。
背後では太郎さんが拍手していた。
「いや、拍手してる場合じゃないでしょ」
そう、まだ一人残っていた。根岸の傍に、もう一人。
残る一人に視線を向けると、何故かそいつは茫然と立ち尽くしていた。
「……?」
こちらに向うでもなく、逃げるでもなく、ただ立っていた。目も開いている。不思議に思っていると、何やら声が聞こえだした。だんだん大きくなる声が。
――失敗シタ……失敗シタ……失敗シタ……失敗……
「これって……!」




