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天狗様といっしょ  作者: kano
第一章
21/210

天狗様、登校す(2)

 『あの転校生は何者だ!?』 それが、今日の生徒たちの最もアツい話題だった。

 

 口を開くなりトンチンカンな挨拶をぶちかまし、一人の女子生徒に付いて回る(挙句蹴り飛ばされる)という奇行。

 かと思ったらネイティブ顔負けの英語力を披露し、教師が解説した数式についてのミスを指摘してのけるという偉業を遂げる。

 それを鼻にかけるのかと思いきや、聞かれたことすべてに真摯に答え、埃の溜まった個所を自ら掃除するという聖人ぶりを発揮。

 わずか半日の間に、転校生についての評価が様々挙がった。ストーカー、天才、帰国子女、大企業の御曹司、身分を隠した探偵、異世界からの使者、等々……。

 生徒たちは色めきたつと共に、混乱していた。

 本当に、彼はいったい何者なんだ!?


 それは――1000年生きた、天狗様です。


 天狗様は、4限の日本史にて、室町~明治時代の変遷を細かな出来事まで交えて実にユニークかつシンプルに、噛み砕いた解説をして午前の授業を終えた。生徒たちは沸き上がり、担当教諭は燃え尽きていた……。

「人間離れしたことしないでって言ったのに……」

 この数時間の間にハラハラしっぱなしで疲れ果てて突っ伏していると、熱い声と飄々とした声が降ってくる。

「やはり兄者は素晴らしい。一日……いや半日で威厳を示されるとは」

「……僕、知ってることを喋っただけだよ?」

 そう、そうなんだ。あくまで自分の中の知識の引き出しを開けているに過ぎないのだ、この人にとっては。だからそれが『偉ぶったところがない』という評価にもなる。だからか……時間がたつにつれて増えていた。彼を見つめる熱い視線の数々が。

「ねえねえ、愛宕くん」

 声のした方には、少し明るい色の髪を高めの位置でふわっと結った女子が立っていた。話しやすくて可愛らしい、クラスの中では友だちも多い人気者の人だ。精一杯の愛想を可愛らしいお顔に集めて最上級の笑顔に変換しているように見える。熱い視線の代表格らしい。

「ねえ、良かったらお昼一緒に食べない? で、その後学校を案内してあげるよ」

 言うと同時に、背後できゃーという歓声が上がった。きっと友だちに背中を押してもらって来た……ってところだろう。どうでもいいけど私や治朗くんの姿は見えないのか?

 そういう空気は苦手だけど、しかし太郎さんはどうなんだろう。これで彼女のお誘いに乗るなら、私もお役御免に――

「え、僕、彼女と少しでも離れると死ぬから無理だよ」

「え」

 彼女の顔が、見ていないけど、手に取るようにわかる。きっとメデューサの首を向けられたみたいに驚いたまま硬直しているだろう。そんな顔、見られません……!

 ていうか一応、生まれ変わったっていうまでの約1000年、思いっきり離れてたにもかかわらずあなた生きてますが、そこはどう説明するんだ?

「どうしたの? お腹すいたの?」

 まだ背後に彼女が立っているのにそう尋ねる太郎さん。彼女とその向こうにいる女子たちからの視線が、痛い……。

「ねえねえ、じゃあご飯にしよう。僕、君が作ったお弁当早く食べたい」

「!!」

 彼女がとどめを刺されて息をのむ声というか音が聞こえた。

 彼女は、一言も告げずに、ちょっとふらふらしながら立ち去った。向こうの方で女の子たちが口々に慰めている。ごめんなさい……困った人で、ほんとごめんなさい……!

 私が心の中でさっきの彼女に平身低頭で詫びていることなどつゆとも気付かない様子で、太郎さんは私の手をとった。

「さ、行こう行こう」

「い、行くってどこへ?」

「う~ん、人の少ないところ」

「!? い、いやです!」

 とてつもなく嫌な予感がして手を振りほどいたけど、太郎さんはそれすらも楽しいかのように、ニコニコしている。

「心配しなくても治朗も一緒だよ」

「兄者、申し訳ないが、先に行っておいてくれませんか。俺は、購買部で昼餉を調達せねばなりません」

「あ、そうか。いってらっしゃい」

 治朗くんは小さくお辞儀をすると、風のように走り去ってしまった。私のことは、どうでもいいのか? この扱いの差というか、急転直下ぶりが一番悲しいんですけど……!

「ねえ、どこ行く?」

 この強引さ……なんだかんだで我慢しきりの私にとっては、ちょっと見習うべきかもしれないな……。

「………………じゃあ、中庭で」

 諦めて鞄からお弁当を取り出して、歩き出す。その一歩後ろを、妙にウキウキしながら太郎さんがついてくる。

 公然と女子を袖にした男と、袖にさせた女に、視線が集まらないわけがない。視線て、本当に刺さるんだということを今、身を以て味わっている。一刻も早くこの針の筵から逃げ出したい。そう思って、ぐっと歩を速めた次の瞬間――

 バタンッ

 という大きな音がしたと思ったら、背後の太郎さんが姿を消していた。と、思ったら床に倒れていた。お弁当を抱えたまま、顔からいっちゃってる……!

「だ、大丈夫ですか!?」

「うん、大丈夫。君の一本背負いの方が痛い」

 モノ申したい気持ちをぐっとこらえて太郎さんに手を貸すと、すぐ近くで声がした。

「くすくすくす…大丈夫ですかぁ?」

 すぐ近くにいた男子の集団だ。私も何度かちょっかいかけられた奴らだ。ちょっと浮いてたり、弱そうな人を見ると必ず絡んでいた。

「ごめんねぇ、俺足長いから~当たっちゃったかも~」

「ちょっと、あんたね……!」

「なに、山南さん? ちゃんと謝ってんだけど?」

 謝ってるとは思えない、ヘラヘラした嫌な笑い方だ。

 だけど表向きは言うとおりだし、下手に私が庇いすぎると後で太郎さんの立場が悪くなるかもしれない。

 怒るのか。愛想笑いするか。大きく分けてこの2つのうち、どちらの反応を返すかで、このクラスにおける太郎さんの立ち位置が決まる。太郎さんが、選んだのは――

「っ! お弁当! お弁当無事!? 米1粒もこぼしたくないよ!?」

 選んだのは、無視でした。いや、歯牙にもかけないと言った方がいいのか……。

 太郎さんは、転ばされたこととは全く別の事で、さっきまでの落ち着き払った(?)物腰を忘れたかのように取り乱していた。

「ぶ、無事だと思いますよ」

 私が手を差し出していることにも気付かず、まずお弁当の確認をしている……。そんなに食べたかったの……? お弁当の無事を確認できたら、太郎さんはようやく私の手を取って起き上がった。

「良かった。無事だった……ん?」

 と、そこで、ようやく気付いたらしい。自分が注目を集めていたことに。

「どうしたの、みんな?」

 キョロキョロして、周り中と視線が合う中、太郎さんをひっかけた男子とも目が合った。

「?」

 それを華麗にスルーして、太郎さんはふたたび私の手を取って……というか引っ張って、教室を後にしようとした。

「お、おい! 謝ってんだろ! 何かないのか」

「え? ああ、無事だったし。気にしてないよ」

 本当に何頃も気にしていないようにけろっと言う太郎さん。相手の男子の顔がどんどんひくつくのが見て取れた。

「あ、そういえば足長いからって言ってたっけ」

「お、おう……」

「見た感じ、治朗の方が長いけど、治朗と一緒にいて転んだことないなぁ。なんでだろ?」

「っ!!」

 すごい……最終的に治朗くんまで巻き込んでしまった……。

 そして言うだけ言って、今度こそ太郎さんは私の手を引いてさっさと教室を後にした。



 これは……この後の教室の空気の方が心配かもしれない……。

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