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天狗様といっしょ  作者: kano
第一章
19/210

天狗様、議す?(5)

「いただきます」

 きちんと手を合わせてから、互いにお皿に箸を伸ばした。

「美味しい!」

「そう? 良かった」

 ふわっと微笑むと、太郎さんは自分も一口、ぱくりといった。美味しそうな笑みを浮かべていたけど、一つ気になった。

「あの、ベーコン入ってますけど……お肉食べていいんですか?」

 天狗は元・僧侶だった人間が多いと今日読んだ本に書かれていた気がする。

「ああ、僕は僧侶出身じゃないし。だいいち、天狗って魚は食べるから、肉だけダメって理屈も通らない気がする」

 確かに……他の人たちも平気で食べてるし。しかもみんなお酒呑んでるし。

 気付けば目の前で太郎さんまで手酌でぐいっとやっているじゃないか。

「お酒……呑めるんですか?」

「うん、天狗は酒好き多いよ。見ての通り」

 言われて改めて見回すと、本当に全員が呑んでる。唯一、治朗くんだけが端っこで寝転んでいる。お酒に弱くて、早々に戦線離脱したのであった……。

「そうじゃなくて、年齢的に大丈夫なんですか?」

「僕、1000歳はゆうに超えてるよ?」

「……あ、そういえば千年前って連呼してたなぁ」

「でしょ」

 そう言って箸を伸ばす太郎さんに向けて、そろそろと、お銚子を差し出した。

「え?」

「ま、まずは一献……」

「あ、ありがとう……あ、三々九度?」

 いらんことを言った瞬間、お銚子を引き下げた。

「あ~うそうそうそ! お銚子ごと取り上げないでよ」

「お前ら、そうしてると本当に夫婦みたいだぞ~」

「やっぱりしたらいいんじゃねーの? メオトノチギリ」

「う、うるさ~い!!!」

 茶々を入れてくる」三郎さんとセイさんを追い払ってもう一度座ると、太郎さんが静かに麦茶を入れてくれた。

「まあまあ」

 穏やかにお茶をすすめる姿は、なんというか……見た目若いけど好々爺だ。料理の手際もよくてすごく助かったし、一緒に何かする分にはいい人なのかもしれない。

「その……今日はありがとうございました。助かりました」

「ううん。突然言ったのは僕だから、当然でしょ。それに……」

「それに?」

「……君と一日、狭い部屋で二人っきりで、き、き、共同作業しちゃったし……すっごく嬉しかったよ。ふふふふふふ」

「ひぃ……!」

 最後の最後に出た。どうして言い方と笑い方が異常に気色悪いの、この人……!?

 だけど今は治朗くんはダウン中だし、他の人は追い払っちゃったし、たまには立ち向かわなくては……!

「え、え~と……でも結局、話はあんまり進展できずじまいだったんじゃないですか?」

 考えてみたら、今日太郎さんがみんなに持ちかけた相談とは、私が術を使えない件と封印をどうやって解くかの件……どっちも解決法らしい解決法は見つからないまま今日の話を終えている。

「まぁ、ここまでに千年かかってるんだし、気長に行くよ」

「でも……」

「なんで君がそんな気を落とすの?」

「だ、だって私が色々出来てたら、色んなことが解決してたかもしれないのに……」

「色々って?」

「それは……治朗くんがここまで苦労しなくて済んだかもしれないし、もっと早くにぱぱっと封印だけ解けたかもしれないし、そうしたら太郎さんも私も許嫁とかさっさと白紙に戻せたかもしれないのにって」

 そう言ったとたん、何故か太郎さんがカチャンと箸を取り落とした。

「え? なんで封印が解けたら嫁入り話が白紙になるの?」

「え? ならないんですか?」

「え?? なんでなるの?」

「ち、ち、ちょい待ち、落ち着け、お前たち」

 三郎さんと、それに続いて法起坊さんも寄ってきた。ごほん、と大きめの咳をして空気を正す法起坊さん。

「太郎坊、そういえばちゃんと聞いた事なかったな。あの姫の封印を解いたら、こっちの藍ちゃんとはどうするんだ?」

「へ? だって許嫁でしょ?」

「へ? 許嫁って……封印を解くために私を愛宕山へ連れてくための建前じゃないんですか?」

「へ? それならただ攫えばいいだけじゃない?」

 おいおい、物騒な発言だな……!

「つまり、太郎はいずれにせよ藍さんを妻に迎えたいということでしょう。藍姫と同様、強い力を持つ彼女ならば、天下の愛宕山天狗・頭領の妻としてふさわしいですからね」

「まぁ…………そうかもしれないね」

「”そうかも”ってことは違うのかよ?」

「言われてみれば、彼女なら頭領も周りの天狗も納得するかなって、今気付いた」

 いつの間にか散り散りに呑んでいた全員が私たちの周りに集まっていた。そして、今の一言で全員が怪訝な表情になった。そんな中で、太郎さん一人が晴れ晴れとした顔を浮かべている。

「うん、そうだよ。誰から見たって君以上の人なんていないよ! そうだよ! やっぱり今からでも愛宕山の頭領に報告に……!」

「行かない! 肝心の私の許可が出てないことをお忘れなく!」

「待て待て、太郎。お前、頭領にも言ってなかったのか」

「言ったよ。姫を見に行ってきますって」

「肝心なところが抜けているよ、太郎坊……」

 三郎さん、僧正坊さんが口々に言っても、まだ太郎さんはピンときてない顔だった。

「皆も落ち着け。太郎が心に決めた相手が最もふさわしいのは確かだ。その相手が、大天狗の妻にふさわしい素質を秘めていたということは、偶然とはいえめでたいではないか。我々の知恵を借りてでも彼女のこと、自分のことをどうにかしたいと思った太郎の気持ちを汲んでやろう」

 豊前さんが力強くまとめてくれた。納得するわけにいかない部分もあるけれど、なんかちょっと感動してしまった。

 他のみんなもうんうんと頷いて、納得したようだった。

 なのに……

「え?」

 またしても素っ頓狂な声で納得してない顔をするこの人……。

「え~と、太郎さん、何が納得できないんでしょう?」

「いや、僕としては君のことは治朗に、封印の事は気長にって考えてたから、今日なんとしてもどうにかしようとは思ってなかったかな。だからなんか、温度差っていうか……?」

「ちょっと待て、太郎」

「さっきから何回も待ってるよ」

「やかましい。あの……あのな、おそらくこの場の全員共通の疑問なんだが……俺たちが今日、各々忙しい中呼び出されたのは、”姫”の生まれ変わりの娘のことと、お前の封印に関することを報告・相談するため……じゃないのか?」

 全員の視線が太郎さんに集まった。

 太郎さんは一度、全員それぞれと目を合わせて……首を横に振った。

「ううん。今日は藍をお嫁さんとしてお披露目して、できれば外堀を埋めるために呼んだんだよ」

「……つまり……」

「うん、見せびらかしたかった」


  数秒後、天狗としての力を失くしたと言っていた若き天狗は、天狗の中の天狗たちから袋叩きにされたのでした……。

 泣いても、今回は誰も止めませんでした……。

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