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天狗様といっしょ  作者: kano
第一章
18/210

天狗様、議す?(4)

 またしても全員が引きつった。引きつって、ぎょっとして、言葉を失っていた。太郎さんまでもが。

 私、何か悪いことでも言ったんだろうか?

「じ、嬢ちゃん……ちょっとよくわからんのだが……その、本当にいいのか?」

「え? はい。そりゃあ、形式だけの行為ですけど……早く封印?解けてほしいし……」

 三郎さんが、汗をだらだら流しながら狼狽えている。治朗くんは……治朗くんまでが目を泳がせている。協力的になればもっと大喜びすると思ってたのに。そして何より太郎さん。なんか顔を赤くして、こっちをチラチラ見るばかりで落ち着かない。それこそ小躍りするかと期待してたんだけど……? みんな、いったいどうしたんだろう? 夫婦の契りって行為に、何かあるんだろうか?

「…………プッ」

 色々考えていたら、急に誰かが噴き出す声が……。と思ったら、またしてもそこかしこで、みんなが噴き出し始めた。

「? ? ど、どうしたんですか……?」

 さっき以上に肩をプルプルいわせている。いったい、私は何を思ってしまったんだ……?

 みんなの様子に戸惑う私を、見かねた様子の治朗くんと後鬼さんが廊下に連れ出した。

 治朗くんは、言葉を選ぶ様子で、静かに語り掛けた。

「え~と……あのな、俺たちは、基本的には、仏教式だ。もしくは神前式だ」

「……は?」

「お前が思ってる『夫婦の契り』とは、本当に形式的なもので、しかも、まず宗教からして大間違いだぞ」

「はぁ……」

「つまりだな、『夫婦の契り』というのはだな、その……指輪の交換じゃ、ない」

「えっ、そうなの? じゃああの、お酒飲むやつ? でもあれ、お互い触らないんじゃないの?」

 とんでもない誤解をしていたみたいだ。お酒飲む形式だったら条件を満たしてないじゃない。考え直さないと……。

「だから……だからまず、そこからして大きく逸脱していて、だな」

 治朗くんが何を言いたいのかさっぱりわからない。いつもはもっと理路整然としているのに、珍しい。

「治朗坊様、よろしければ私が」

 引き継いだ後鬼さんが私の耳元で何やら囁いた。


ごにょごにょごにょごにょごにょごにょ つまり、ごにょごにょごにょ です。


「……………………あ、そゆこと?」

 その言葉に至った瞬間、大広間から大爆笑が湧いた。隣にいる二人も遠慮がちだが笑いを堪えきれないでいる。

「あら藍ちゃん。廊下でどうしたの?」

 お銚子を携えたお母さんと僧正坊さんが現れた!

 ここでお母さんにまで聞かれたらもう生きていけない……!

「いっそ、心臓抜いてください……!」

「は?」

 眉根を寄せる僧正坊さんが、本気でハラハラした表情に変わった。

 けれど――大爆笑の理由を聞いて、二人もその輪に加わってしまった……。

 私もう……どうやって生きていけばいいの…………!!



「僕はいつでもウェルカムだよ? どっちでも……ぷぷぷ」

「わ、笑うな~!!」

 その日の夜、またしても宴会になり、私と太郎さんとで調理場をばたばた走り回ることになった。一つ違うのは、みんな台所かその周辺でまったりしているということ。お皿を出したり下げたりが楽になった。ちなみにお母さんは負傷中なのでみんなの話し相手になっている。

 誰かがお酒とつまみを取りに来て、出来るまでの間まったりして、それを待てなかった別の人が来てまたまったりして……を繰り返すうち、みんなこっちで呑むようになったのだ。

 人によっては手伝ってくれるから、こっちの方が良かったりする。

 だけど……料理しながらネタに……いや、つまみにされるのはいい加減辛い……!

「ほらみんな、そろそろやめてあげましょう。藍さんが茹だってしまう」

「僧正坊さん……! ありがとうございます! 一時は本当に心臓を差し出そうかと……!」

「あの……本当に冗談ですからね? また太郎坊に睨まれるからその話もなしで……」

「お前らコソコソしてないでこっち来いや。もう全部忘れて呑もう、な?」

「私は未成年です」

「いいじゃねえか。三々九度の盃ってことで……ぷぷぷ」

「全然忘れてないじゃないですか!!」

 三郎さんの陽気な笑いが今は腹立たしい……! そう思っていると、管狐ちゃんたちがつまみ片手に三郎さんのもとに寄っていった。

「ごしゅじんさま~『めおとのちぎり』ってなぁに~?」

「なに~?」

「え」

 お、さすがに困るか? どう返事するんだろう?

「それはだな、お互いに大好きな男と女が、なかよ~くすることだ」

「なかよくするの~?」

 くそぅ、危機を脱したか……!

「じゃあコハクもなかよくしたい~! めおとのちぎりする~」

「ず、ずるい! わたしもしたいです」

「ヒスイも」

「あ、ち、ちょっとまてお前ら! そういうことじゃ……!」

 管狐ちゃんたちに次々とびかかられる三郎さんを見て……放っておいてフライパンを振るう太郎さんの近くに戻る。

「いいの? ほっといて」

「ちょっとは困ればいい」

「……おぉ怖い。ていうか、それを最初に持ち出したのはセイだよね?」

「そうでしたね。どうしてあげましょうか」

「あの……一応言うけど、君が勝手に誤解したっていう側面もあるよ?」

「そうでしたね……」

「げ、元気出して。ほら、これ出来たら食べよう。もう料理は十分でしょ」

「そうですね……確かに、疲れました」

 みんなは結構盛り上がっていたので、私と太郎さんも自分たちの料理にありつくことに決めた。太郎さんはフライパンで炒めていた山芋とベーコンの炒めものを皿にうつして、テーブルについた。

「いただきます」


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