天狗様、議す?(4)
またしても全員が引きつった。引きつって、ぎょっとして、言葉を失っていた。太郎さんまでもが。
私、何か悪いことでも言ったんだろうか?
「じ、嬢ちゃん……ちょっとよくわからんのだが……その、本当にいいのか?」
「え? はい。そりゃあ、形式だけの行為ですけど……早く封印?解けてほしいし……」
三郎さんが、汗をだらだら流しながら狼狽えている。治朗くんは……治朗くんまでが目を泳がせている。協力的になればもっと大喜びすると思ってたのに。そして何より太郎さん。なんか顔を赤くして、こっちをチラチラ見るばかりで落ち着かない。それこそ小躍りするかと期待してたんだけど……? みんな、いったいどうしたんだろう? 夫婦の契りって行為に、何かあるんだろうか?
「…………プッ」
色々考えていたら、急に誰かが噴き出す声が……。と思ったら、またしてもそこかしこで、みんなが噴き出し始めた。
「? ? ど、どうしたんですか……?」
さっき以上に肩をプルプルいわせている。いったい、私は何を思ってしまったんだ……?
みんなの様子に戸惑う私を、見かねた様子の治朗くんと後鬼さんが廊下に連れ出した。
治朗くんは、言葉を選ぶ様子で、静かに語り掛けた。
「え~と……あのな、俺たちは、基本的には、仏教式だ。もしくは神前式だ」
「……は?」
「お前が思ってる『夫婦の契り』とは、本当に形式的なもので、しかも、まず宗教からして大間違いだぞ」
「はぁ……」
「つまりだな、『夫婦の契り』というのはだな、その……指輪の交換じゃ、ない」
「えっ、そうなの? じゃああの、お酒飲むやつ? でもあれ、お互い触らないんじゃないの?」
とんでもない誤解をしていたみたいだ。お酒飲む形式だったら条件を満たしてないじゃない。考え直さないと……。
「だから……だからまず、そこからして大きく逸脱していて、だな」
治朗くんが何を言いたいのかさっぱりわからない。いつもはもっと理路整然としているのに、珍しい。
「治朗坊様、よろしければ私が」
引き継いだ後鬼さんが私の耳元で何やら囁いた。
ごにょごにょごにょごにょごにょごにょ つまり、ごにょごにょごにょ です。
「……………………あ、そゆこと?」
その言葉に至った瞬間、大広間から大爆笑が湧いた。隣にいる二人も遠慮がちだが笑いを堪えきれないでいる。
「あら藍ちゃん。廊下でどうしたの?」
お銚子を携えたお母さんと僧正坊さんが現れた!
ここでお母さんにまで聞かれたらもう生きていけない……!
「いっそ、心臓抜いてください……!」
「は?」
眉根を寄せる僧正坊さんが、本気でハラハラした表情に変わった。
けれど――大爆笑の理由を聞いて、二人もその輪に加わってしまった……。
私もう……どうやって生きていけばいいの…………!!
「僕はいつでもウェルカムだよ? どっちでも……ぷぷぷ」
「わ、笑うな~!!」
その日の夜、またしても宴会になり、私と太郎さんとで調理場をばたばた走り回ることになった。一つ違うのは、みんな台所かその周辺でまったりしているということ。お皿を出したり下げたりが楽になった。ちなみにお母さんは負傷中なのでみんなの話し相手になっている。
誰かがお酒とつまみを取りに来て、出来るまでの間まったりして、それを待てなかった別の人が来てまたまったりして……を繰り返すうち、みんなこっちで呑むようになったのだ。
人によっては手伝ってくれるから、こっちの方が良かったりする。
だけど……料理しながらネタに……いや、つまみにされるのはいい加減辛い……!
「ほらみんな、そろそろやめてあげましょう。藍さんが茹だってしまう」
「僧正坊さん……! ありがとうございます! 一時は本当に心臓を差し出そうかと……!」
「あの……本当に冗談ですからね? また太郎坊に睨まれるからその話もなしで……」
「お前らコソコソしてないでこっち来いや。もう全部忘れて呑もう、な?」
「私は未成年です」
「いいじゃねえか。三々九度の盃ってことで……ぷぷぷ」
「全然忘れてないじゃないですか!!」
三郎さんの陽気な笑いが今は腹立たしい……! そう思っていると、管狐ちゃんたちがつまみ片手に三郎さんのもとに寄っていった。
「ごしゅじんさま~『めおとのちぎり』ってなぁに~?」
「なに~?」
「え」
お、さすがに困るか? どう返事するんだろう?
「それはだな、お互いに大好きな男と女が、なかよ~くすることだ」
「なかよくするの~?」
くそぅ、危機を脱したか……!
「じゃあコハクもなかよくしたい~! めおとのちぎりする~」
「ず、ずるい! わたしもしたいです」
「ヒスイも」
「あ、ち、ちょっとまてお前ら! そういうことじゃ……!」
管狐ちゃんたちに次々とびかかられる三郎さんを見て……放っておいてフライパンを振るう太郎さんの近くに戻る。
「いいの? ほっといて」
「ちょっとは困ればいい」
「……おぉ怖い。ていうか、それを最初に持ち出したのはセイだよね?」
「そうでしたね。どうしてあげましょうか」
「あの……一応言うけど、君が勝手に誤解したっていう側面もあるよ?」
「そうでしたね……」
「げ、元気出して。ほら、これ出来たら食べよう。もう料理は十分でしょ」
「そうですね……確かに、疲れました」
みんなは結構盛り上がっていたので、私と太郎さんも自分たちの料理にありつくことに決めた。太郎さんはフライパンで炒めていた山芋とベーコンの炒めものを皿にうつして、テーブルについた。
「いただきます」




