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天狗様といっしょ  作者: kano
第一章
15/210

天狗様、議す?(1)

 その日の昼は、未だかつてないほどの賑やかさ……いや、やかましさだった。なにせ天狗と人間が合わせて15人も集まって各々好きな皿に箸を伸ばしていたんだから。

「こら、それはどう考えても1人3個までのものだろう。いったい何個食べる気だ」

 毎度おなじみのお説教をかますのは、比良山治朗坊こと治朗くん。

「いーじゃん、美味しいものは美味しいと思う時に美味しく思う人が食べるのが一番!」

 そう言って皿に残っていた最後のサトイモの煮っころがしを遠慮なく口に放り込んだのは、伯耆大山清光坊ことセイさん。

「セイ、意地汚いですよ。我々を信仰してくれる民に、申し訳なく思いませんか」

 穏やかな声でそう諭すのは、白峰相模坊さん。食べ方も叱り方もとても品があって穏やかだ。

「残すよりはいいのではないか? 作り手もこうまで喜んでもらえたら本望だろう」

 そう言って色んな皿の料理を大きな口で次々に平らげるのは彦山豊前坊さん。その皿には、あなたが皮むきを手伝ってくれた玉ねぎが入ってます!

「こらこらこら、行儀良くって言っただろ。1人1個、ちゃんとお皿の上で食べろ」

「ごしゅじんさま、これおいしいの!」

「ごしゅじんさま、1個だけ?」

「二人とも、困らせないの。い、1個って……おっしゃったじゃない……」

「……わかった。俺の分をやろう。仲良く分けろよ」

 幼女たちに根負けしたのは、飯綱三郎こと三郎さん。管狐と呼ばれる狐のあやかしを操るんだけど、今周りにいるのは修行中の幼い狐たちで……まぁ、苦労中らしい。

「しかしなんだな。急な来客にこれだけ振舞えるとは、さすがは太郎坊の見込んだ姫だな」

「ああ、本当にな。わがむす……いや、気立てのいい娘さんじゃないかね。母君」

「あらあらお恥ずかしいわぁ」

 お母さんとそんな会話をしているのは大峰山前鬼坊さんと石鎚山法起坊さん。法起坊さんは遠い遠い遠~~~~い縁戚らしく、私やお母さんを見る目が、親戚のおじさんのそれといっしょなのだ。

「そうか、これだけのものをあのお二人が……。感動した! ぜひこの私が、二人の力になってさしあげよう!」

「いえ、それには及びません、僧正坊様。私がお手伝いしてまいります。どうぞ、そのまま」

 そう言って立ち上がったのは、後鬼さん。前鬼さんとは夫婦で、二人とも法起坊さんの弟子らしい。手伝ってくれるのはありがたい……!

「……そうかい。すまないね、後鬼どの。ああ! 母君、御御足の具合はいかがですか? 歩かれるなら、さぁ、私がお手をお貸しします……!」

 なんでちょっと残念そうなのかわからないけれど、一つ一つキメ顔で言おうとするこの人は、鞍馬山僧正坊さん。たぶん天狗の中では一番有名だと思われる。


 以上、お母さんと治朗くんを除く11名様が今日のお客様だ。

 今朝来ると聞いて、今朝から準備を始めて、今もなおひーひー言いながら何とかおもてなし中だ。普通に考えるとまあまあ非常識な話なんだけど、それでも下にも置けない訳がある。

 彼ら全員、天狗界のTOPに立つような大天狗様なのだ……!

「大天狗の”跡取り候補”ね」

 ――と、横からいらんツッコミを入れたのが、今回の元凶……今朝いきなり彼らの来訪を告げてきた、これまた天狗界の総大将ともいえる、愛宕山太郎坊。

「だから、その”跡取り候補”だってば」

「いちいちそんな名称つけてたらややこしいでしょうが」

「だって僕、継ぐかわかんないし」

「わかりました。太郎”跡取り候補”さん」

「…………すごく語呂悪い。気持ち悪い」

「でしょ?」

「ところでさ、このジャガイモ、本当にポテトサラダにするの? 手が回らなくない?」

「確かに…………粉ふきいもでもいい……かな?」

「いいと思う」

 言うなり太郎さんは皮を剥いたジャガイモをぶつ切りに切り始めた。

 あれだけの人数だから、皿を出してもすぐなくなる。作り手としては嬉しいけれど、今は喜んでばかりいられないのだ。もう副菜だ主菜だ言ってられない。思いついた順、作れる順に作っては出し作っては出しの繰り返しだ。

 そんなルーティーン作業が、いくら手際良いとはいえ二人で回しきれるはずもなくてちょっと参っていた矢先……

「兄者、藍、空いた皿を持ってきたぞ」

「ありがとう、治朗くん。そこ置いといて」

「お二方だけにお任せしていて申し訳ありません。どうぞ私めにも、何か仰せつけくださいませ」

 そう言って、治朗くんの後ろから後鬼さんが入ってきた。この人も立派にお客様なんだけど、すごく自然にお手伝いを申し出てくれてありがたい。すごく自然にお願いしやすいから。

「すみません、じゃあそこの皿持って行ってくださいますか? 治朗くんはお皿洗って」

「いえ、私が洗いましょう。治朗坊様こそ、あの場をうまく回して頂く方がよろしいかと」

「そうだな。後鬼どの、すまんが頼む」

 後鬼さんは一礼すると、持ってきた空のお皿を洗い始めた。

「さて、次何できますかね?」

 私は太郎さんがジャガイモを切っている間に次のメニューを考える係。台所には前鬼さんたちが買ってきてくれた山のような食材が置かれている。各種肉・魚・野菜……。どこの城の食糧庫だってくらいだ。

「適当な野菜炒めでも皆怒らないと思うよ」

「う~ん、そうかなぁ。なんかひと手間ぐらいは……」

「さっき粉ふきいもにして手間を省こうとしたじゃない」

「あ、そうか」

「……クスッ……」

 洗い場から小さな笑い声が聞こえた。急になんだか気恥ずかしくなってきた……。

「ああ、失礼。随分仲の良いご夫婦だと思いまして」

 ふ、ふ、ふ、”夫婦”!!?

「後鬼! いいこと言うね!」

 太郎さんはすかさず某”イイネ”のサインをするけど、私がそれを叩き落とした。

「じょ、冗談はやめてください! 夫婦どころか、一昨日会ったばっかりですよ」

「え、僕は千年ぐらい前から……」

「だから私はこの前が初めましてなんです!」

「歳月は関係ありませんよ。あなた方は十分信頼し合っていらっしゃる。素晴らしいご関係です」

「やっぱりそう思う?」

「思わない!」

 無理矢理その話題を終わらせて、野菜の選定に移った。けどそうすると、視界に入ってくるのは後鬼さんのすらっとした体型とよくお似合いの服パンツスーツ……。今度は後鬼さんが私の視線に気づいた番だった。

「なんですか?」

「いえ、さっきから気になってたんですけど……皆さん、和装じゃないんですね」

「……ああ、よく見る山伏の恰好のことですか? あれは、室町や江戸時代に描かれたものですし……」

「イマドキあんな恰好してたら目立つよ。悪い意味で」

 そりゃそうだ。だけど立ってるだけで異様な空気を醸し出してた太郎さんに、冷静に言われるとちょっと複雑だ……。

「スーツぐらいが丁度いいんだ。男は大抵着てるし」

 なるほど。まぁ着こなし方は人それぞれのようだが……。そして人によってはスーツを着ることでカタギじゃなさそうな空気を醸し出している人もいるが……。

 そして後鬼さんの旦那様はスーツじゃなくツナギのような服だったけど……?

「夫ですか? 後で着替えさせます。今日は皆さまそのようになさるとお聞きしましたよ」

「そうなんですか。あ、だから治朗くん、休みの日なのに制服着てるんだ?」

 治朗くんは学校の制服である学ランを着ている。今日も、いつもながら詰襟を第一ボタンまできっちり留めていた。

「そういえば成人前は制服が正装に値するんだっけ。君は着ないの?」

「え、何でですか?」

「皆集まってるし。一応、ちょっと畏まった場面もある予定だから」

 今日は日曜なので、緩めのワンピースにジーンズというラフな恰好でいた。だから言われたんだろうな。畏まった場にそんな恰好で入ったらさすがに失礼か……。

「そうなんですか? じゃあお茶だけ出したら引っ込んでますね」

「何言ってるの? 君も出てくれなきゃ」

「は?」

「今日は、『大天狗総会』なんだよ」


……ナンデスカ、ソレ?

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