表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
天狗様といっしょ  作者: kano
第一章
14/210

天狗様、集う(8)

「石鎚山法起坊どのは、すべての天狗が一目置く、はっきり言って別格の存在だ」

 そう言ったのは、全員分のお茶を運ぶために台所までついてきた治朗くん。太郎さんには引き続き料理の手伝いをお願いして、治朗くんには今来ている7人分のお茶とお茶請けを運んでもらう。

 前鬼さんが買ってきてくれた大量の食材を、大量の料理に上位互換する作業をしながら、ぽつりと聞いてみたのだ。

「別格ってどんなふうに?」

「そもそもあの方は『石鎚山法起坊』という狗名の前に人間の間でも知られた名がある。『役小角えんのおづぬ』という名がな」

「えんの……?」

「知らないみたいだよ」

 大量の魚切り身を漬け汁に浸しながら、太郎さんはぼそっと言った。

「……すみません」

「まぁ、現代ではそこまで馴染みがないかもね」

「そういえば、学校でも話題に上らんな。ではまぁ詳しいことは置いておいて……要はとてつもない修行の末、人間離れした法力を得て神がかった偉業をなした人物ということだ」

「はぁ、なるほど……」

「その”神がかった役小角”が”大天狗”とあってはいかなる妖怪・魔怪の類も服せざるを得ないだろう……ということで、天狗の中でも別格扱いなのだ」

「実際に僕ら皆、一回はあの人にゲンコツくらってるよね。頭上がらないんだよ」

 それ、治朗くんもくらったんだろうか……?

「でもあの、最後のとろ~んて表情はいったい何? 私、何かした?」

「ああ、あれ。前鬼と後鬼も呆れてたね」

「まぁ、親父どのはいつもああだからな」

「いつも?」

「ああ、子孫に会うとああなる。正確には同じ氏族の子孫だが」

「へぇ……え、子孫!? 私が!?」

「うん。だって君、賀茂氏かもうじの血筋でしょ」

「!? な、何のことでしょうか……?」

「賀茂氏というのは、かの有名な安倍晴明の師匠に当たる人物を輩出した陰陽師の家系だ。そしてあの人の本来の名は『賀茂役君小角かものえのきみおづぬ』。『役』というのはその賀茂氏の分家筋。つまり親父どのは賀茂氏の分家の人間ということだ」

「はぁ……」

 驚きのあまり手が止まってしまった私から、(すっかり割烹着が板についた)太郎さんが大量のニンジンをさらって皮むき作業を引き継いでくれる。すみません、細切りにしてください……。

「そしてお前の前世と思しき藍姫――」

「”思しき”じゃないよ。そうなんだよ」

「し、失礼しました、兄者! お前の前世である藍姫はだな、その賀茂氏の姫なんだ。賀茂氏の嫡流は随分前に途絶えたが、血筋は某流から細々と続いていたんだな」

「えっと……前世が賀茂さんの娘でも、生まれ変わりは賀茂さんの血筋とは限らないのでは?」

「偶然かもしれんが、賀茂の血が、賀茂氏随一の使い手だった姫の魂を再び呼んだのかもしれんな」

「細かいことはいいよ。もう途絶えた家だし。要は親父さんにとっては、全国に散らばってる同じ賀茂氏の子孫みんなが可愛い可愛い甥っ子・姪っ子みたいなものなんだよ」

「あ~……なるほど」

「ほっといたら『わが娘』て言い出すから全力で否定した方がいいよ」

「はぁ……」

 まともな人って……この中には……いないのか?

「ねぇ、ニンジン切れたよ。切り干し大根と一緒に煮ればいいの?」

「あ、半分は人参しりしりにするんで分けてください」

 はいはい、と軽く言って太郎さんはボウルのニンジンの半分を別の皿に移した。この人、本当に、なんか手際良いな……。

 煮物の方は太郎さんに任せて、私は鳥もも肉を唐揚げにするべく気合を入れ――ようとしたその時、廊下からよくとおる声が聞こえた。

「ごめんください」

 男の人の声だ。

「あの声って……?」

「……ですね」

太郎さんと治朗くんが、顔を見合わせて頷いた。

「もしかして……?」

「うん、最後の一人じゃないかな」

「あ~じゃあ……お出迎えしてきます」

「え、やめといた方がいいよ」

「ああ、ほっといていい」

 なんと冷たい反応……会ったこともないけどちょっと可哀そう……。

「人間のお客さんかもしれませんから、一応行ってきます」

 そう言いおいて、私は玄関まで向かった。

 やっと、やっと玄関から普通に入ってきてくれるまともな人(天狗)が来――


「お母さん!?」


 玄関に行くと、何故か輝かんばかりの美男に、お母さんがお姫様抱っこされていた。

「このご婦人が足を挫いてお困りのようだったのでお声をかけると、ちょうど今日向う予定だった家の方だったので、こうしてお連れした次第です」

「ごめんね、藍ちゃん。心配かけて」

 お母さんと一緒に一礼したその美男さんは、肩より上できれいに切り揃えたサラサラの髪に、グレーの細身のスーツを身に纏っていた。パッと見ても、じっくり見てもカッコイイ。カッコイイけど…………いちいちキメ顔なのは、何故……?

「あ、ありがとうございます。えっと……お、お名前をうかがっても……?」

 念のため聞くと、美男さんはそっとお母さんを下ろして、さっと髪をかき上げて私に向き直った。

「失礼。私、そちらでお世話になっているという愛宕山太郎坊とは同朋の天狗。『鞍馬山僧正坊くらまやまそうじょうぼう』と申します」

 キリっと挨拶をキメると、背後で キャーッ という黄色い悲鳴が鳴り響いた。さっきからチラチラ見えていたけど見えないようにしていたその声の主たち――若い女性の”軍団”は、皆一様に僧正坊さんの一挙手一投足に惚れ惚れとしているようだった。

「あ、あの……あの方々は?」

「ああ、皆さんお茶に誘ってくださったのですが『今日はこれから大事な用があるのでまた後ほど』とお伝えしたところ、ここまで着いてきてくださって……」

 真っ白な歯をきらめかせて、爽やかな笑顔でそう言う目の前の美男さん。気のせいかな? お母さんまでなんだかぽ~っとしてるような……。

「では皆さん、私はこれで。また後ほど」

 女性軍団に振り返って、全員の顔を見ながら別れを告げる僧正坊さん。

 

 前言撤回します。裏口から、”目立たないように”入って下さらないでしょうか……。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ