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天狗様といっしょ  作者: kano
第一章
13/210

天狗様、集う(7)

 大峰山前鬼坊――前鬼と名乗ったこの方は、人好きのする明るい笑顔を向けて、次に大きな……本当に熊より大きな右手を差し出した。そろそろとその手を握り返そうとして――


パシンッ


 大きな手を、太郎さんが叩き落とした。

「前鬼、許されないよ。僕に許可なく姫に触るなんて」

「す、す、すまん! そんなつもりは……この通りだ! 挨拶のつもりで……!」

 え、ドアを壊したことよりも強く謝ってない?

 戸惑っていると太郎さんが私の手をぎゅっと握った。そして、その手で前鬼さんの手を軽く握った。

「はい。間接挨拶」

「あ、ありがとうな、太郎坊……!」

 何だ、今の。

「ところで前鬼、一人? 後鬼ごきと親父さんは?」

「ああ、もう少しで来る。なにせお前たっての頼みだ。1分1秒でも早く届けねばと思ってな」

「ドア壊すくらいなら1分1秒くらい大目に見るよ」

「あれはすまん……後で直すから」

「まったくだよ、本当に困ったもんだ」

 突如、女性の美声が響いた。前鬼さんの大きな体の後ろから。 一瞬、前鬼さんが変声機でも使ったのかと思ったけど、違った。

 巨体の背後から、華奢ですらりと背の高い女性が現れた。女性はすぐに太郎さんの前に進んで、片膝をついて礼をした。

「太郎坊様、ご無沙汰しております。前鬼坊が妻・後鬼ごき、馳せ参じました」

「うん、久しぶり。元気そうだね。親父さんは一緒?」

 太郎さんが尋ねると同時に、前鬼さんと後鬼さんが静かに道を開けた。すると二人の間から、目元口元に少し深い皺を刻んだ初老の男性が歩み出た。

 その姿を見て、太郎さんが姿勢を正して頭を下げた。つられて私も頭を下げると、男性はにっと口角をあげた。その笑みは何ともニヒルだった。

「久しいな、太郎坊」

「はい、親父さん……石鎚山法起坊いしづちやまほうきぼう

 石鎚山法起坊と呼ばれたその男性は、小さく頷くと、今度は私を見た。

「太郎坊と治朗坊が世話になっている」

「いえ、そんな。治朗くんには、私の方がお世話になってます」

「……太郎坊、この娘御が、例の?」

「はい」

「そうか。確かに、微かに感じるな。あの娘の気を」

 三郎さんも言っていたな、”例の”って。いったい何なんだろう。”姫”っていうのが、そんなにすごいことしたのかな……?

 とりあえず、台所でする話じゃないのは分かる。

「あ、あの……こんな所ではなんですから、客間へどうぞ。他の皆さんもお見えですから」

「……」

 奥へ促そうとしている私の顔を、法起坊さんがじっと見つめる。気のせいだろうか、なんだかこう……優しい視線だ。

「あの……?」

「ああ、そうさせてもらうよ、藍…………ちゃん」

「……ちゃん?」

 法起坊さんは急に目尻を下げ……というか顔をとろ~んと蕩けさせて、やさし~い声になった。

「さあ、どこへ案内してくれるんだい? 藍ちゃん」

「え、は、はい。こっちです……」

 案内しながら、この中ではかろうじて一番付き合いの長い太郎さんに疑問の視線を送ってみるも、静かに首を横に振るだけの反応が返ってくる。頼りにならないなぁ、もう……。

 それにしても、法起坊さんたちといい、豊前さん・相模さん・セイさんといい、三郎さんといい……玄関から来てくれる人はいないのかな……。

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