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天狗様といっしょ  作者: kano
第一章
11/210

天狗様、集う(5)

「え~と……本当に大天狗なの? 清光坊さんの方は人んちの台所に侵入未遂だったんだけど……」

「まぁその……すまん。今回だけは俺に免じて……」

「なになに、治朗が俺の肩代わりしてくれんの? ラッキー! サンキュー!」

「治朗、甘やかさないでください」

「そう言うな、相模。久方ぶりに会ったんだ。未遂だったんだしな」

「まったく……」

 呆れたようにため息をついていた相模坊さんが私に目を留めた。

「おや、どうしてここに人間が?」

「逆だ。我々が人間の住処に間借りしている身なのだ。今日の場所も提供してくだされた」

「なんと……それは失礼をいたしました。感謝申し上げます」

「い、いえいえそんな……」

 相模坊さんは恐縮したように深々と頭を下げた。そこまで感謝されるようなことだろうか……?

「ほんと、マジでサンキューっす! マジ助かりましたよ、マジで!」

 こっちは本当に感謝されてるんだろうか……? 別に感謝されるほどのこととではないけど……なんかムカつくなぁ……。

「清光坊、その言葉遣い……何とかならんか」

「え、今のトレンドっしょ?」

 治朗くんがくるんとこっちを向いた。コメント求むというところか。

「え~と、トレンドに近いとは思いますけど……だいぶ偏りがあるというか、若い人限定というか、その中でも特にこう、軽く見られちゃうというか……」

「今風に言って、”チャラい”よね」

 ズバッと核心を突く太郎さん。言っちゃった……!

「”チャラい”?って何すか? またわかんねぇ言葉出てきた。調べとこ……」

 あれ、意外とまじめ?

「あ、ところで人間の……えっと~」

「あ、山南藍です」

「藍ちゃん! 藍ちゃんさ……」

「セイ、馴れ馴れしくない?」

「ひっ……」

 急に怯えだす清光坊さん。私の背後に何が見えるか、その表情と聞こえてきた声音でなんとなく分かる。

「あ、藍……さん」

「……何でしょう、清光坊さん」

「お腹すいちゃって……できれば何か食べさせ…………いや、食欲に負けた愚かしいこの私めに一かけらのご慈悲を賜りたくどうか……どうか……!!」

 ヘラヘラしながらのお辞儀だったのが、途中から五体投地の土下座に移行した。私の背後にいる人がいったいどんな顔をしているのか、想像がつくようなつかないような……。

「いいのか相模。兄者のあれは、なかなかに八つ当たりに近いと思うが……」

「いいんじゃないでしょうか? たまにはいい薬です。それに、太郎のあんな活き活きした顔を久しぶりに見られましたし」

「それもそうだな」

 なに納得してんだ、そこの二人……! 土下座とすごい殺気に挟まれてる私の身にもなって!

「藍、ゴミ箱どこ? せっかくだから残飯でもあげよう」

「そんなことできません。てか、なにどさくさに紛れて呼び捨てにしてるの」

「僕だって名前を呼びたい。夫婦みたいに呼び捨てで」

真っすぐな瞳で言われてしまった……。

「はぁ……わかりました。好きにしてください。ついでに、全部で何人みえるんですか? ご飯の用意します」

「え、君が?」

「そうですけど?」

 おいおい、何故ぎょっとする?

「兄者、ご心配なく。こう見えて、料理の腕はちゃんと母御前譲りです」

「そうなの? 良かった……」

「……今、何の心配したか言ってみてください?」

「……そういえば豊前ぶぜん前鬼ぜんきがまだ来てないね。ついでに買い出ししてきてもらおうよ」

「ぜ、前鬼に頼みましょう。後鬼ごきどのがついていますから」

「どうしたんですか、二人とも? 言ってくださいよ。何が心配だったんですか? ねぇねぇ」

 珍しく私から付き纏ってみたけれど、二人とも珍しく私と目を合わせようとしませんでした。



 結局、お客様は合計で10人だそうです。いや、管狐ちゃんと私……全員で14人か。目を合わせようとしない男衆は邪魔だから客間に追いやってしまったけど……早くも後悔している。14人分の下拵えは一人ではなかなかハードです。これじゃ昼ごはん時に間に合わない。今到着している人たちは約束より随分早く来てしまったらしいのがまだ救いだった。もう少しは時間が稼げるはずだ。

 こんな時に限って、お母さんは終日お出かけなんだもんなぁ。作るなんて言わなきゃよかった……。ひとまずあるだけの野菜を引っ張り出して、玉ねぎの皮をペリペリ剥いているけど、他の食材は買い出し待ちだし。というか、会ったこともない人に買い出し頼むなんてすごく申し訳ないし。何を持ってきていただけるのかもわからないし。ちゃんとできるのかな……よく考えたらみんな大天狗ってことは、日本の名だたる山々の守り神様たち(とてもそうは見えないけど)ってことだし、失礼なことがあれば……

「娘、一人か?」

「わぁ!!?」

 いつの間にか、目の前に男の人が立っていた。いかつい面持ちで、黒いシャツに黒いジャケット。ジャケットの合間からは鍛えられたであろう隆々とした筋肉質の体躯が見えた。そして、表情はさっきから一貫して、険しい……。眉の間にはずっと皺が刻まれている。

 曲がりなりにも武道の心得があるからか、わかる。これは……る時の目だ……!

「どうした娘? ここで、何をしている?」

 ここは私の家なので台所で料理をしているんです……なんて言葉も出てこない。口をパクパクさせるばかりで声にならなかった。

 何も答えようとせずに震えている私にしびれを切らしたのか、目の前の男の人は、ぬっと大きな手をこちらに伸ばした。

「!」

 思わず目を閉じた。ーーが、何も起こらない。代りに ぺりっ という乾いた音が聞こえる。

「まったくなんて量だ。これだけの野菜を、そんなか細い腕で処理するつもりなのか」

 なんかぶつくさ言ってるけど、めちゃくちゃ気遣ってくれてる……。私が唖然と見ていると、こちらの視線に気づいたらしい。

「なんだ? 剥かない方が良かったか?」

「あ、いえ! む、剥いてください、全部!」

 男の人はうむ、と短い返事だけ返して、皮むき作業に集中しだした。向かいで黙々とこなしていくので、私の方も何故か集中して、黙々と皮をむき続けた。

「終ったぞ。次はなんだ?」

「え」

 気が付くと、用意していた玉ねぎが全て剥かれた状態でボウルに積まれていた。男の人は袖をまくり上げてスタンバイOKの様子でこちらを見ている。

 あれ? そういえば、この人誰だっけ? なんで無言で玉ねぎ剥いてくれたの? というか……どうやって家に入ってきたの……!? 

 次? 次も手伝ってもらっちゃっていいの? いやいやいや、ダメだろう……!

「あ、ありがとうございます。あとは自分でやりますので……」

 深々とお辞儀をするけど、頭上に降ってくる声は低く、強く、優し気だった。

「何を言う。これだけの量……おそらく大勢のために用意しているのだろう。大勢のために一人で炊事を懸命にこなそうという健気さ……見過ごせるものか」

「!」

 お、大げさな……大見栄切っちゃっただけなのに。と思いつつ、さっきまで抱いていた不信感などよそに、感動していた。『向こうに行ってて』と言ったら振り返りもせずにふらふら行ってしまった男性陣の後ろ姿を思い出してつい比較してしまった。なんて親切……!

「ど、どうした!? なぜ泣く!?」

 感動のあまり、思わず涙が……。だけど相手は『感動』とは受け取らなかったようだ。

「まさか……誰かに強制されてこんなことを……? ゆ、許せん……!」

 --と、男の人は突然すごい勢いで立ち上がった。表情もさっきまでよりも更に険しい。

「え、あの……だ、大丈夫ですよ。別にいじめられてなんか……」

 私の制止など憤慨するこの男の人の前では効果があるはずがなく、ドスドスと大きな音を立てて台所を後にしようとした。その時、廊下から何人か分の足音と話し声が聞こえた。

 まずい、このままじゃ治朗くんたちが殺される――!!

「藍、何か手伝うことは……ん?」

「ぬおぅ! お前たちか! このようなか弱い婦女子にばかり重労働を……!」

 台所の戸を開けた治朗くんたちと、憤慨する男の人の動きが、同時にピタッと止まった。

 それで、なんとなくわかった。いや、薄々感づいてはいた。そんな私の考えを裏付けするように、太郎さんがひょこっと顔を出して言った。

「おや豊前、来てたんだ。ここで何してるの?」

「えっと……豊前て……」

「ああ、まだ名乗っていなかったな。俺は九州、英彦山(ひこさん)を守護する彦山豊前坊ひこざんぶぜんぼうだ」

 はい、お知り合いでした。

 私ってば……九州の天狗たちを取りまとめる大天狗・彦山豊前坊ひこざんぶぜんぼうに、下働きさせてしまいました……!

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