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天狗様といっしょ  作者: kano
第二章
108/210

天狗様、協力を要請す(4)

「セイ……それが出来たら、今すぐやってるよ」

「え、できねーの?いっつも無遠慮に人様の気を掠め取ってんじゃん」

「最近はしてないよ! ていうか、あれだってその場しのぎのもので、会計の時にちょっと小銭借りる程度だよ」

「いや、やられる方としては出会い頭に財布ひったくられるぐらいの感じなんだけど……」

「やかましい! 話が進まん!」

 法起坊のゲンコツが飛んできそうな顔に、清光坊は肩をすくめた。

「あ。じゃあさ、やっぱり太郎と藍ちゃんが毎晩『メオトノチギリ』を励めばいいんじゃ……」

「そんなことしたら、僕は今度こそ抹殺される……!」

「セイ、もうお止めなさい。完全にスベってるんですよ……」

「はぁ…………」

 騒がしくなりがちな室内に、誰のものともわからないため息の声が響いた。

「なあ……一旦休憩しようや」

 その提案は、前鬼から発せられた。すごく珍しい。いつも法起坊の傍に影のように控えており、主張をすることなどほぼないのだが……今だけは、困り果てた顔で、一同を見ていた。あまりの堂々巡りに辟易したのだろうか……。

 珍しい人物からの珍しい提案に、その場の全員が頷いた。

「あ、じゃあ僕一旦部屋に戻る。ちょうどいいから、うちの山から皆の所に振り分けたい祈願事があったのを連絡するよ」

 太郎はそう言うと、さっさと居間をあとにした。

「この上、まだ俺らに仕事投げる気か……」

「仕方あるまい。俺たちもまた、何度も愛宕山に引き受けてもらったのだからな」

 別の仕事でため息をこぼす三郎と豊前坊の傍で、法起坊が前鬼に小さく呟いた。

「……前鬼、助かった」

「いえ、あのままじゃ良い案が出なさそうだったんで」

 二人が小さく頷きあうと、太郎が戻ってくるまでのしばしの間、クーラーの風で涼むと決め込んだ。

「すまんが、治朗……麦茶などないか?」

「ああ、冷蔵庫にあります。親父どのも皆も失礼した。今、取ってこよう」

 そう言って治朗が立ち上がった、その時だった

「あああああああああああああぁっ!!!」

 遠く離れた部屋から居間まで、耳をつんざくような悲鳴が、轟いた。

 一同の耳に等しくダメージを与えたその声は、声の主の部屋から聞こえた。いち早くそこへ向けて駆けだしたのは治朗だった。



「兄者、どうされました!」

 襖を勢いよく開くと、太郎が窓際でわなわなと震える姿が目に入った。治朗の声に振り返るも、その様さえ恐る恐る……と言うより、ぎこちない様子だ。

「いったい、何が……?」

「治朗……こ、こ、こ……」

「こ?」

「壊れた……」

「な、何が……でしょう?」

「パソコンが……!」

 太郎の嘆きにも、(当り前だが)しんと静まり返って答えないパソコン。窓際でさんさんと陽光を浴びながら、本体とディスプレイが、真っ黒なボディと画面で鎮座している。その起動ボタンを太郎が押してみるが、これまた静かなものだった。

「反応しない……起動しない……ていうか、さっき起動させたままにしてたのに、落ちてる……! これって何事……!?」

「お、落ち着いてください。僧正坊、何か知らないのか?」

「なぜ私に聞く? 知るわけがないだろう」

「いつも横柄なくせに肝心な時に役に立たん……!」

「待て待て。ITスキルと横柄は関係ないだろう。というか横柄だと?」

 と、治朗と僧正坊に少し遅れて残りの面々もやって来た。全員、青ざめて泣き出しそうな太郎にとりあえず面食らった。

「はぁ? パソコンが壊れた? 何か困るのか?」

「困るにきまってるよ。ここにはお山の仕事関連のファイルが全部詰まってるんだよ」

「ほぉ……って、はぁ!? お前そんな大事なもんを何やってんだ!?」

 太郎と治朗以外の全員が、時間差で驚いた。

 時間差があったことには理由がある。愛宕山以外、コンピュータで仕事をしていないのだ。だからだろうか、全員、太郎の慌てっぷりにいまいちピンと来ていなかった。

「太郎、落ち着け。壊れたら、何が出来なくなるんだ?」

 法起坊が、静かに諭す。それと同時に太郎の息の荒さも少し収まってきた。

「ええと……まず、お山に届いた祈願を入力して、申し送りする分と愛宕山で処理する分を分けてました。あと、天狗たちのシフト表も、頭領のスケジュール調整も、それから……」

「ああ、わかった……つまり本当に、愛宕山の仕事が回らなくなってしまうと、そういうことか?」

「そういうことです」

「一大事……だな」

「はい」

「どうする?」

「他はともかく……祈願の申し送りは急がないといけません」

 太郎は、話していたら落ち着いたのか、しばし瞑目して考え込んだ。そして、意を決したように、治朗に振り返った。

「治朗、お願いがある」

「は、何なりと……!」

「愛宕山へ跳んで、処理前の祈願の書類をもらってきて。あるだけ全部」

「はい!」

「どうするつもりだ?」

 今度は三郎が尋ねた。太郎は振り向かないまま、拳を握りしめながら答えた。

「……手作業。しばらくやってないから時間かかるけど、やるしかない……!」

「今からか? ご苦労様なこったな」

「全部が全部コンピュータ任せに……さらに言えば太郎一人に任せきりにしているから、いざと言う時にこうなる。今後は見直した方がいいぞ」

「それはまぁ考えるけど、今は勘弁して。そして、皆、宜しくお願いします」

 太郎は、神妙に深々と頭を下げた。

「……よろしくお願いします……って何がだ?」

 嫌な予感を感じて頬をひくつかせる三郎に、太郎は、ニッコリ笑って告げた。

「お手伝いしてね♪」

 三郎はじめ、その場の全員が、ほぼ同時に叫んだ……。

「またかよ!!」

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